老朽化した分譲マンションをどう再生するか――。既存の建物を生かして修繕・改良するか、もしくは分譲マンションとして建て替えるか。その選択肢に新たに敷地売却が加わって、6年。東京都心ではその仕組みに基づき、敷地購入者が別の建物を建設する形で再生を果たす事例が出始めてきた。その一つ、浜松町ビジネスマンションでは目下、解体工事が進んでいる。

再開発ラッシュに沸くウオーターフロントの一角、東京・竹芝。2020年9月、オフィスタワーとレジデンスタワーで構成する「東京ポートシティ竹芝」が開業したのに続き、翌10月には、オフィス、ホテル、商業、劇場で構成する「WATERS takeshiba」がまち開きを迎えた。一帯ではこのほか、オフィスビルの建設や分譲マンションの建て替えが進む。

周囲に歩調を合わせるかのように、建て替えに向け、目下、解体工事を進めているのが、浜松町ビジネスマンションだ(写真1)。地上9階建て、総戸数154戸(うち店舗2区画)の分譲マンション。1973年完成で築50年近い。同じ街区内では既存の建物がホテルや東京ポートシティ竹芝のレジデンスタワーに生まれ変わり、古さが際立っていた。

(写真1)東京・竹芝では、浜松町ビジネスマンションの解体工事が進む。右手は、東京ポートシティ竹芝のレジデンスタワー(写真:茂木俊輔)
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建て替え後は、地下1階・地上18階建て、総戸数102戸の分譲マンションに生まれ変わる(図1)。建築主である三井不動産レジデンシャルでは2021年5月に本体工事に着手し、2023年11月の完成を目指す。住戸の一部は旧浜松町ビジネスマンションの区分所有者の一部に分譲する一方、残る住戸は一般向けに分譲する予定だ。

(図1)浜松町ビジネスマンション建て替え後の完成イメージ。間取りは、建て替え前の中心だったワンルームに加え、1LDKや2LDKも用意する(画像提供:三井不動産レジデンシャル)
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この建て替えで利用された仕組みが、「マンションの建替え等の円滑化に関する法律(マンション建替法)」で定める「敷地売却事業」である。

同事業は、分譲マンションをまとめてデベロッパーなどの買受人に売却し、区分所有者は分配金を受け取る一方、買受人はその建物を取り壊す、という手続きを定めたものだ(図2)。区分所有関係の解消とも言われる。

(図2)「マンションの建替え等の円滑化に関する法律(マンション建替法)」で定める敷地売却事業の流れ。買受人がマンション建物を除却するまでの手続きが規定されている(出所:国土交通省資料を基に作成)
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要件は大きく2つある。まず要除却認定を受けること。現行の法令では認定の基準として耐震性の不足が定められている。もう一つは、区分所有者の集会で敷地売却を決議することである。決議には、区分所有者、議決権、敷地利用権の持ち分価格の各5分の4以上の賛成が必要になる。ハードルは決して低くない。

浜松町ビジネスマンションの例では、敷地売却事業の利用に至るまでどのような経緯をたどったのか――。

買受人の三井不動産レジデンシャルによれば、建物や設備の老朽化を背景に再生への検討相談を受けたのが、同マンションとの関係の始まりという。2013年のことだ。もともと建て替えを想定していたことから、翌14年3月、区分所有者の集会で建て替え推進が決議されるのに併せて、事業協力者に選ばれる。

同社プロジェクト推進部マンション再生相談室の永山允氏は「周辺と一体で建て替えるなどさまざまなパターンを検討した。しかし事業化のタイミングが合わず、最終的には単独で建て替えることになった」と、検討過程を振り返る。

ただ、単独で建て替えるにしても、大きく2つの課題が立ちふさがった。

住戸の狭さと負担の重さという課題

一つは、住戸の狭さである。間取りはワンルーム中心で住戸の広さは約12m2。これに対してマンション建替法で定める建替事業では、事業主体になる建替組合の設立認可の条件として建て替え後の住戸面積を原則50m2以上と定めている。

永山氏は「原則通りの住戸面積では、区分所有者は多額の金銭を負担しないと、建て替え後のマンションに住戸を取得できなかった」と明かす。区分所有者が建て替え前に所有していた資産価値分だけでは不足が生じるのである。

もう一つは、事業負担の重さだ。建替事業の場合、建替え決議に始まり、建替組合の設立、権利変換計画の決定、建て替え工事に至るまで、事業期間は長い。合意形成を図る管理組合はもちろん、事業主体になる建替組合にとっても、負担は重い。

ところがこのマンションは、名称や間取り・住戸面積にも表れているように、事業目的で所有する権利者が多い。「区分所有者は投資目的の非居住者が多いうえに、高齢化していた」と永山氏。事業を進めるうえでは、組合の負担も考慮せざるを得なかったという。

そこで浮上したのが、敷地売却事業である。折しも2014年12月、マンション建替法の改正で創設されたものだ。国土交通省住宅局市街地建築課マンション政策室企画専門官の高橋宏幸氏は事業創設の背景をこう解説する。

「マンション建替法で定める建替事業は、建て替え後のマンション住戸を建て替え前の区分所有者が所有する前提に立つため、権利調整を進め、合意形成を図るのが大変だった。管理組合にとって、その負担は重かった」

まさに、永山氏が指摘する建て替え事業の負担の重さである。これに対して敷地売却事業は、そこまで負担は重くないという。「マンションの土地・建物を買受人に売却してしまえば、その跡地に何を建設するかは、買受人に任せられる」(高橋氏)。

敷地売却事業の良さはもう一つ、買受人がマンション跡地に建設する建物を自由に計画できる点にある。分譲マンションを建設する計画だとしても、建替事業と違って住戸面積に原則50㎡以上という制約は課されない。

それが、住戸の狭さという課題を乗り越えられた理由だ。買受人が分譲マンションを建設すれば、区分所有者は分配金を元手に、多額の金銭負担を強いられることなく、そこに再び住戸を取得することが可能になる。

しかも、一定規模以上の敷地を持つ分譲マンションで敷地売却事業の前提になる要除却認定を受けたものを市街地環境の整備改善に役立つと認められるマンションに建て替える場合には、マンション建替法に基づき容積率の特例を受けられる。建て替え後は延べ床面積を増やすことができるのである。

この仕組みもプラスに働いた。永山氏は「建て替えの検討から始まった案件だけに、希望する区分所有者を受け入れられるように分譲マンションの建設を計画していた。容積率の特例によって約200%の容積率割り増しを受けられたことも、計画の実現を後押しした」と、敷地売却事業を利用した建て替えが実現した背景を語る。