要除却認定を前提に決議要件引き下げ

浜松町ビジネスマンションが地元の港区から要除却認定を受けたのは、2018年2月。翌19年10月には、区分所有者の集会で5分の4以上の賛成を得て敷地売却が決議された。敷地売却事業を利用した建て替えは、こうして本格的に動き出したのである。

敷地売却そのものは、マンション建替法に敷地売却事業が創設される前から必ずしも不可能ではなかった。ただし民法の規定に基づくため、それには区分所有者全員の同意が必要。この全員同意は、極めてハードルが高かった。

これに対して敷地売却事業では、要除却認定を受けることを前提に決議要件を5分の4以上に引き下げた。三井不動産レジデンシャルプロジェクト推進部マンション再生相談室室長の指田孝也氏は「安心・安全の提供は、当社で手掛ける住宅事業の根幹。耐震性が不足している分譲マンションについて、5分の4以上の賛成で区分所有関係を解消できるようになったことは意義深い」と評価する。

この敷地売却事業が、分譲マンションの再生を図る手段としていま注目される。再生手段としてはまず、修繕・改良が挙げられるが、築年の古いマンションで耐震性が不足している場合や適切に管理されず老朽化した場合には、それだけでは限界がある。そこで別の選択肢として検討されるのが、建替事業や敷地売却事業である(図3)。

(図3)分譲マンション再生の基本は、適切な管理と適時・適切な計画修繕の繰り返し。修繕・改良が困難な場合、建替事業や敷地売却事業を検討することになる(資料提供:国土交通省)
(図3)分譲マンション再生の基本は、適切な管理と適時・適切な計画修繕の繰り返し。修繕・改良が困難な場合、建替事業や敷地売却事業を検討することになる(資料提供:国土交通省)
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ところが、どの分譲マンションでも建替事業が可能とは限らない。背景の一つが、容積率の制限だ。

建替事業には多額の工事費を必要とするため、その資金を一時的に肩代わりするデベロッパーなどの事業協力者が事実上、欠かせない。事業協力者は建て替え後の分譲マンションに肩代わりした資金に見合う住戸を取得し、それを分譲することで事業を成り立たせる。

容積率の制限で建て替え前と同程度以下の延べ床面積しか確保できないマンションでは、事業協力者が取得できる住戸は限られる。単独での事業成立は見込めない。

要除却認定を受けた分譲マンションを建て替える場合、容積率の特例を受けられるのは、そうしたマンションが少なくないからだ。高橋氏は「容積率に余裕がないことから建て替えが困難な例が増えてきた。区分所有者の負担がかさめば、合意形成は容易ではない。事業性を改善する狙いで容積率の特例を適用できる仕組みを設けている」と説明する。

敷地売却事業は、こうした分譲マンションにとって、建て替え以外の選択肢になる。その後の居住の安定には配慮が欠かせないものの、敷地売却が5分の4以上の賛成で可能になったことから、マンションの最期のあり方としてこうした道も取りやすくなったのである。

跡地に賃貸マンションを建設する例も

東京メトロ半蔵門駅を最寄りとする旧麹町三番町コンドは、敷地売却事業を利用して区分所有関係の解消を果たした一例だ。1971年に完成した、地上7階建て、総戸数23戸の分譲マンション。このマンションでは2018年4月、区分所有者の集会で敷地売却を決議し、その後、買受人への売却を済ませ、敷地売却事業をすでに終えている。

買受人は三井不動産レジデンシャルだ。同社では目下、このマンションを取り壊した跡地に地上9階建ての賃貸マンションを建設中(写真2)。2021年2月の完成を見込む。同社プロジェクト推進部マンション再生相談室の堀尾空氏は「建て替えと敷地売却の両事業を検討していた。ただ敷地が狭く、容積率の特例を受けられないため、建て替えても延べ床面積は増やせない。敷地売却事業を提案したところ、受け入れられた」と経緯を語る。

(写真2)旧麹町三番町コンドの跡地に建設中の賃貸マンション。建築主は敷地売却事業の買受人である三井不動産レジデンシャルで2021年2月完成を目指す(写真:茂木俊輔)
(写真2)旧麹町三番町コンドの跡地に建設中の賃貸マンション。建築主は敷地売却事業の買受人である三井不動産レジデンシャルで2021年2月完成を目指す(写真:茂木俊輔)
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自社で運用する賃貸マンションの建設を決めたのは、一つには商品企画上の理由からだ。もう一つは、区分所有者がより多くの分配金を取得できたからという。「この敷地の場合、分譲マンションを建設するより賃貸マンションを建設するほうが分配金の額は高かった。区分所有者からは分配金の高さを求められてもいた」(堀尾氏)。

国土交通省によれば、要除却認定を受けた分譲マンションは2020年4月現在、24件という。高橋氏は「認定を受けると区分所有者には除却の努力義務が課されるため、敷地売却に向かうと考えられる。容積率の特例を受けて建て替えに向かうものもあるだろう。いずれにしても、今後、敷地売却や建て替えの事例につながっていくはず」とみる。

2020年6月にはマンション建替法の改正で要除却認定の要件が緩和され、2021年内の施行が予定されている。耐震性の不足している分譲マンション以外にも、火災に対する安全性が不足しているものや外壁などの剥落によって周辺に危害を生じる恐れのあるものなども、認定の対象に含まれることになる(図4)。

(図4)マンション建替法の改正で要除却認定の要件が緩和され、認定の対象が耐震性不足以外にも広がる。改正法の施行は2021年内の予定(出所:国土交通省資料を基に作成)
(図4)マンション建替法の改正で要除却認定の要件が緩和され、認定の対象が耐震性不足以外にも広がる。改正法の施行は2021年内の予定(出所:国土交通省資料を基に作成)
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高橋氏は「耐震基準が改められてから、40年がたつ。耐震性を満たす高経年マンションが今後増えていく中で、耐震性の不足という要因以外の問題を抱える分譲マンションが出てくるのではないかという見通しから、認定対象を広げた」と話す。

敷地売却事業の今後を専門家はどうみるか――。浜松町ビジネスマンションの管理組合から要請を受けコンサルタントとして同事業に携わった鳩ノ森コンサルティング代表取締役の山田尚之氏は、「人口が減少し家族形態が変わる中、建て替えだけで分譲マンションの最期に対応するのは限界。敷地売却の利用も広げていく必要がある」と指摘する。

ただ敷地売却事業は建替事業と違って、区分所有者とデベロッパーが売買当事者になるため、利益相反が生じやすいという。「両者の間で公正性や中立性を確保する役割が不可欠。法手続きが多い事業でもあり、弁護士や司法書士など法務の専門家が関与できるビジネスモデルを確立すべきではないか」。山田氏は今後の敷地売却事業の利用拡大に向け、法務の専門家をマーケットに引き込む必要性を訴えている。