既存ストックの活用が叫ばれるようになって久しい。2050年カーボンニュートラル宣言によって、その必要性はさらに高まりそうだ。そこであらためて注目したいのが、建築再生の一つである「リファイニング建築」。2020年11月には、普及に向けて一般社団法人が設立された。「リファイニング建築」とは何か。普及するのか。提唱者として実績を重ねてきた青木茂建築工房代表取締役の青木茂氏に聞いた。

――「再生建築」とは言わずに、「リファイニング建築」と名付けています。これは簡単に言うとどういうものですか。「再生」を図るという点ではリフォームやリノベーションと同じように捉えられるかもしれませんが、これらとはどう違うのですか。

青木 建物の軽量化や耐震補強によって耐震性能を現行の建築基準法令が求める水準まで引き上げるだけでなく、例えば鉄筋コンクリート造りの建物で柱・梁のコンクリートに強度上の問題があった場合、適切な補修を加えることで自重や積載荷重といった長期荷重に耐えられる造りに改めるものです。それによって建物の長寿命化を図ります(写真1)。

(写真1)青木茂建築工房代表取締役の青木茂氏。長期にわたって建物を使い続けるなら、商品価値を損ねるようなことはすべきではない、という考えから、耐震補強でよく使われるブレースは、見通しを妨げないデザインのものに置き換えたり、ほかの補強方法と組み合わせたりするなど、目立たせないように留意しているという(以下、人物写真の撮影は尾関祐治)
[画像のクリックで拡大表示]

多くは、内外装や設備を取り外し構造躯体だけを残した段階で、建物の軽量化を図ったり構造上の補修・補強を加えたりします。その後、新しい内外装や設備を加えれば、完成です(写真2、図1)。手続き上は、新築同様、建築確認を申請し、現行の建築基準法令に照らして問題ないか否かをチェックしてもらい、確認済証の交付を受けます。また工事完了後には、完了検査を終えた証として検査済証の交付も受けます。

(写真2)青木茂建築工房で手掛けたリファイニング建築の一例。東京都練馬区内の賃貸住宅「ヴァロータ氷川台」。外観も一新される(写真:上田宏)
[画像のクリックで拡大表示]
(図1)リファイニング建築のプロセス。構造調査や耐震診断に基づく躯体補修や耐震補強を実施することで、既存建物の順法性や構造躯体の健全性・耐震性を確保する(出所:青木茂建築工房)
[画像のクリックで拡大表示]

リフォームやリノベーションの場合、工事の区分の内容において建築確認申請の義務はないと思われます。確認申請が求められるのは、主要構造部に過半にわたり修繕・模様替えを施す大規模なものに限られます。ただし、旧耐震基準の建物は耐震性能の向上が求められます。

――青木さんが「リファイニング建築」を提唱されてから25年以上たちます。実績を積み重ねる中、金融機関との協定によって工事費に対する融資を受けられるようになったのは、大きな進歩だと思います。これは何によって可能になったのですか。

青木 金融機関との間では、いくつかの条件を定めています。まず「耐用年数調査」を実施していること、次に確認済証と検査済証の交付を受けていること、そして「家歴書」と呼ぶ工事の記録を残していることです。青木茂建築工房と金融機関との業務協定によって融資が可能になっているため、対象はあくまで当社が手掛ける案件のみです。

耐用年数調査で建物寿命を見通す

中でも決め手になったのは、「耐用年数調査」です。この調査によって建物の寿命を見通すことができるようになったことが、大きいですね。向こう50年長持ちすると分かれば、返済期間30年の融資を受けられます。ただ、調査結果を基に建物の寿命を見通せたとしても、その確かさを信頼できる第三者機関に認めてもらわないと金融機関としては裏付けを得られません。現在は、ERIソリューションと一般財団法人日本建築センターという2つの機関に評価を依頼しています。融資実績はすでに10件程度に上ります。

この耐用年数調査とは、例えば鉄筋コンクリート造りの建物の場合、既存の構造躯体からサンプルを抜き取り、コンクリートの圧縮強度や中性化という劣化現象の進行度合いを調べるものです。中性化とは、本来アルカリ性のコンクリートが大気中の二酸化炭素と反応し、中性化するものです。進行すると、コンクリート内部の鉄筋表面に形成された被膜が壊され、腐食しやすい環境に置かれるため、強度の発現に支障が生じます。圧縮強度も中性化の進行度合いも、長期荷重に対して建物がどの程度耐えられるかという、構造上の寿命を見極めるのに必要なデータなのです。

調査の結果、圧縮強度が基準を下回ったり、中性化が進行していたりする場合には、コンクリートの強度を増したり中性化の進行を妨げたりするなどの補修を行います。圧縮強度が小さい場合には、例えばコンクリートの柱に鋼板を巻き、補強する方法があります。また中性化の進行が見られる場合には、例えば亜硝酸リチウムをコンクリート内部に含侵させ、鉄筋表面の被膜を再生することで腐食を食い止める方法があります。これらの補修を行うことで寿命をどこまで延ばせるか、ある程度まで将来を見通せるのです。

もちろん中には、手の打ちようがないほど老朽化した建物もあります。そういう場合には、「リファイニング」ではなく、建て替えを勧めることになります。

耐用年数調査を実施し、結果を読み解き、適切な補修を行うというプロセスでは、総合的な判断が求められます。経験がないと難しいでしょう。調査結果の数値上は問題なさそうでも、自分なら再生は断念するという場合もあり得ます。例えば柱・梁を極限まで細くするような経済設計の考え方で建設された建物です。情緒的ではありますが、私はよく社内で、「その建物が母親の家だったら、どうするか、という視点で判断を下していれば、結果として判断を誤ることはない」と言い聞かせています。