歩道の利活用では沿道との連携が課題

社会実験では、みなと大通り沿い2カ所と横浜文化体育館へのアクセス動線沿い2カ所の計4カ所を対象に歩道部分の利活用の可能性を探った。沿道に立地する店舗との連携が想定されることから、沿道の土地利用にも配慮し対象区域を選定した。

実験期間中は、カラーコーンを設置した歩道寄りの区域に歩道と高さを合わせる形で主にウッドデッキを敷き詰め、テーブルやいすを配置した。みなと大通り沿いでは子連れの利活用を想定し人工芝を敷き詰めたり時間帯によって畳敷きに改めたりするなど、その造りにバリエーションを持たせ、多様な利活用を促した(写真1)。実験対象箇所のうち2カ所では、定点カメラを用いて利活用のされ方を観測している。

(写真1)社会実験の一環として、一時的に拡幅した歩道部分について利活用の可能性を探った。正面に見えるのは、横浜スタジアムの立地する横浜公園(画像提供:横浜市)
(写真1)社会実験の一環として、一時的に拡幅した歩道部分について利活用の可能性を探った。正面に見えるのは、横浜スタジアムの立地する横浜公園(画像提供:横浜市)
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市がこうした実験によって見極めようとしたのは、一つには、どのような滞留空間が求められるのか、という点だ。「利活用のされ方を確認することで、滞留空間にふさわしい仕様を見定めることができる、と考えた」(梶山氏)。

実験結果は、どうだったのか。梶山氏は「想定に近く、飲食店前では飲食する人が、人工芝を敷き詰めたところでは子連れが目立った。仕事中なのか、ノートパソコンを利用する人の姿も見られた。足元がウッドデッキなのか芝なのか、空間の造りによってやはり、利活用のされ方は変わることもはっきりした」とみる。

社会実験のさらに重要な狙いは、市の取り組みに対する意識の醸成にある。市では2019年12月以降、沿道の事業者に呼び掛け、意見交換会を開催したりアンケートを実施したりしてきた。ところが、車線数や車線幅を減らす一方で歩道を拡幅し、その利活用を促す、という取り組みイメージを、地元と共有することには課題を感じているという。

「そこで、社会実験という形で滞留空間を仮につくり、沿道の事業者はもちろん、市民にも、市の取り組みに対して実感を持ってもらおう、という狙いもあって社会実験を実施した。歩道部分の利活用には沿道事業者の協力が不可欠。今後、沿道事業者ともっと連携を図り、利活用の検討を進めていく体制を築いていきたい」(梶山氏)

市では社会実験の結果を踏まえ、2021年度に詳細設計を固め、22~23年度にわたって再整備工事を進める方針。エリア内の拠点開発の開設時期と相前後して供用が始まる見通しだ。

今後、歩道部分の利活用を図るうえで目玉になりそうなのは、旧市庁舎街区との連携だ(写真2)。みなと大通りに面する旧市庁舎の行政棟には地上2階建ての商業施設「みなとテラス」が増築される予定。そことの連携が、にぎわい創出へのカギを握る。

(写真2)旧市庁舎街区。正面の行政棟は保存・活用され、レガシーホテルとして生まれ変わり、その足元に地上2階建ての商業施設が増築される計画(写真:茂木俊輔)
(写真2)旧市庁舎街区。正面の行政棟は保存・活用され、レガシーホテルとして生まれ変わり、その足元に地上2階建ての商業施設が増築される計画(写真:茂木俊輔)
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ウォーカブルをイノベーション創出に

歩行者空間の確保の仕方として、車両通行を一時的に止め、車道上を歩行者に開放する、いわゆる歩行者天国の発想は半世紀前から見られた。横浜市の取り組みは、車線数や車線幅を減らす一方で歩道を拡幅するという、既存道路空間の再整備という点で新しい。しかも、沿道との連携を重視する点でも趣を異にする。

冒頭で触れた「まちなかウォーカブル」の推進という国の施策も、既存道路空間の再整備や沿道との連携を視野に入れる。「居心地が良く歩きたくなる」まちなかを、沿道と連携し、官民一体で形成していく、という発想に立つのが大きな特徴だ。

施策の起点には、国交省が2019年2月に立ち上げた「都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会」での検討成果がある。この懇談会では、多様性の集積・交流を通じたイノベーションの創出を生産性の向上につなげられないか、そのために都市の果たすべき役割は何か、という問題意識の下、議論が交わされた。

懇談会では2019年6月、「中間とりまとめ」を報告し、そこで「『居心地が良く歩きたくなる』まちなかづくり」という考え方を打ち出した(図5)。ウォーカブルな人中心のパブリック空間の創出を先導し、民間投資の共鳴を引き起こすことで、「『居心地が良く歩きたくなる』まちなか」を形成し、イノベーションの創出と人間中心の豊かな生活を実現しようという考え方である。

(図5)「都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会」の中間とりまとめに掲載された「今後のまちづくりの方向性と『10の構成要素』」。「居心地が良く歩きたくなるまちなか」の形成による都市の好循環に期待を寄せている(出所:国土交通省)
(図5)「都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会」の中間とりまとめに掲載された「今後のまちづくりの方向性と『10の構成要素』」。「居心地が良く歩きたくなるまちなか」の形成による都市の好循環に期待を寄せている(出所:国土交通省)
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事務局を務めた国交省都市局まちづくり推進課の企画専門官、坂本光英氏は、「多様な人々が集い、出会い、交流する『居心地が良く歩きたくなる』まちなかをつくることが求められている。そこで、官民一体となって交流・滞在空間の形成を促すのが狙いだ。その結果として例えば、イノベーションが創出されたりサードプレイスが生み出されたりすることが期待される」と、「まちなかウォーカブル」推進の意図を説く。

懇談会の「中間とりまとめ」を受け、国交省では都市再生特別措置法等の一部を改正する法律案をまとめ、予算措置や税制優遇措置を講じた(図6)。市町村が都市再生特別措置法に基づく都市再生整備計画に滞在快適性等向上区域を位置付けた場合、区域内では、市町村による歩行者滞在空間の創出を交付金で支援するとともに、民間事業者による民地部分のオープンスペース化や建物低層部のガラス張り化などを補助金や固定資産税・都市計画税の軽減措置で支援する。改正法は2020年9月に施行済みだ。

(図6)都市再生整備計画に基づく「居心地が良く歩きたくなる」まちなかづくりの創出に向けた法律・予算・税制などによる国の支援。同計画に位置付けられた滞在快適性等向上区域内では、図にあるようなさまざまな支援を受けられる(出所:国土交通省)
(図6)都市再生整備計画に基づく「居心地が良く歩きたくなる」まちなかづくりの創出に向けた法律・予算・税制などによる国の支援。同計画に位置付けられた滞在快適性等向上区域内では、図にあるようなさまざまな支援を受けられる(出所:国土交通省)
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国交省都市局街路交通施設課課長補佐の久田資章氏によれば、都市再生整備計画に滞在快適性等向上区域を位置付けた都市はすでに約30を数えるという。「スタートとして良いスタートを切れている。『まちなかウォーカブル』の推進を目的に都市再生整備計画を策定する市町村もみられる」(久田氏)。

商業的なにぎわいの創出に端を発する、歩行者空間の居心地向上策。それをさらに、イノベーションの創出にまで結び付けていけるのか――。「まちなかウォーカブル」の現場での取り組み、とりわけ官民の連携に期待したい。