歩行者利便増進道路制度、通称「ほこみち」制度。道路空間の活用を促す制度として2020年5月に新設された。兵庫県姫路市は2021年2月、JR姫路駅と姫路城の間を結ぶ大手前通りでその利用に乗り出した。エリア価値向上へ、ハード面の再整備事業やソフト面の仕掛け作りを進める一方で、高さ規制を見直し沿道ビルの建て替え更新の誘導を図る。民間投資の誘発につながるのか。

JR姫路駅北口に降り立つと、正面に世界文化遺産の姫路城。歩いて十数分ほどの距離を、幅員50mの広さを持つ大手前通りが真っ直ぐに結ぶ。沿道にはオフィスビルなどが立ち並び、姫路の顔とも言える空間を形づくる(写真1)。

(写真1)JR姫路駅の駅前から姫路城方向を見る。正面、姫路城方向に真っ直ぐ延びる道路が、大手前通り。手前の区間は路線バスやタクシーを除く一般車両の通行を禁じている(写真:茂木俊輔)
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ただ沿道に立地するビルの1階は金融機関や事業所が少なくないうえ、並行する通りが商店街を形成していることもあって、人通りは多くはない。新型コロナウイルス感染症の感染拡大のあおりで観光客が減少していることも拍車をかける。

遠目は美しい「みち」だが、足元は魅力に乏しい「まち」。姫路市は「『みち』から『まち』を活性化」を掲げ、足元の「景色」を変える方針だ。2014年度には市建設局がハード面の再整備事業に着手し、19年度から市産業局がソフト面の仕掛け作りを進める。

大手前通りの再整備事業は2020年3月、整備延長670mの全区間について完了済み。市は約17.6億円を投じて、歩行者空間と自転車空間の区分、ウッドデッキやベンチなど休息空間の整備、各種照明設備の整備、樹木の間伐などを実施した(写真2)。

(写真2)再整備事業完了後の大手前通り。例えば歩行者の空間と自転車の空間がそれぞれ視覚的に区分されたほか、その間にウッドデッキやベンチなどの休息空間が整備された(写真:茂木俊輔)
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ソフト面の仕掛け作りである大手前通りエリア魅力向上推進事業を市から受託するハートビートプラン代表取締役の泉英明氏は「まち」の課題をこう指摘する。

「大手前通りは姫路駅と姫路城の間を行き来する動線しか生み出せていない。ハード面の再整備は済んだものの、沿道に立つビルの1階用途がまちに閉じたものが多く、地先の道路空間をまだうまく活用できていない。公共投資には民間投資がついてこないと意味がない。いまのままでは、もったいない」

再整備事業を担当した市建設局街路建設課係長の内藤隆弘氏も、同じ思いだ。「公共投資によって民間投資が自然と生まれる時代ではない。再整備後の活用を後押しするソフト面の仕掛けがないと、民間投資は引き出せない」と言い切る。

こうした思いから生まれたのが、大手前通りエリア魅力向上推進事業である。2019年度から5カ年計画で、まず体制整備や社会実験など道路空間の活用に向けたソフト面の仕掛け作りに取り組む。目指すは、エリア価値の向上だ(図1)。

(図1)大手前通り沿道の「現状」と「将来」。「現状」は沿道建物と通りの連携がない。「将来」はその連携を促すことで、建物の資産価値やエリア価値の向上を図る(資料提供:姫路市)
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この事業を担当する市産業局産業振興課中心市街地活性化推進室の重入義宜氏は「道路空間の活用によって新しいニーズが生み出され、沿道に立地するビル1階の用途が変われば、エリア一帯で回遊性も生まれる」と期待を寄せる。

第一歩は、道路空間の活用。しかも、その主役は行政ではない。あくまで民間組織だ。市が想定するシナリオを実現するには、公民連携が欠かせない。

そこで体制整備の一環として立ち上げられたのが、「大手前みらい会議(OMK)」である。構成メンバーは、地元で組織する姫路大手前通り街づくり協議会の有志を中心とする民間事業者。2019年度と20年度には、OMK主催・市共催で道路空間の活用に向けた社会実験を実施し、沿道の事業者らに道路上への出店を呼び掛けたり木製ストリートファニチャーを設置したりするなど、活用の方向性を探ってきた(写真3)。

(写真3)2020年度の社会実験で設置されているストリートファニチャーの一つ。2020年12月に始まった社会実験は、年度をまたいで2021年5月まで継続される予定だ(写真:茂木俊輔)
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沿道の土地利用が日常的ににじみ出す

その試みを経ていま志向するのは、非日常のイベント型ではなく、日常の沿道利用型と言えるような活用形態だ。重入氏はその理由をこう説明する。

「初年度は、沿道の店舗でテーブルやいすを地先に出したところは売り上げ増につながったものの、ほかから出店してきた店舗は費用を投じて店を出した割には売り上げを確保できなかった。新型コロナウイルス感染症の感染拡大のあおりで観光客が少ないこともあり、沿道の店舗が地先を日常的に利用する方向に考え方を改めた」

道路空間の活用と言うと、露店が立ち並ぶような非日常のイベント型の光景をつい思い浮かべがちだが、日常の沿道利用型はそれとは一線を画す。泉氏はその違いを、「広場型」と「ストリート型」という言葉を引き合いに出し、こう説明する。

「『広場型』は閉じた空間を活用するため、活用を望む人を広く受け入れることができるのに対し、『ストリート型』は開かれた空間を活用するため、『広場型』と同じには扱えない。沿道の人にとって、その土地利用と関係ない人が自身の地先を活用するのは、好ましくないはず。沿道の土地利用が日常的ににじみ出していくような活用の仕方が望ましい」

そうした「ストリート型」の活用にどう誘導するか――。エリア魅力向上推進事業では今後、道路空間の活用に向けた将来ビジョンを作成する予定だ。市では「最終的には沿道ビル1階の用途誘導まで視野に入れ、事業を進めていく」(重入氏)という。

併せて整理してきたのは、道路空間の活用に向けて、どのような仕組みを利用するかという点だ。道路空間はそもそも公共空間。誰もが自由に活用できるものではない。民間組織が空間活用しようとする場合は、道路法に基づく道路占用許可を道路管理者から、道路交通法に基づく道路使用許可を地元警察署長から得る必要がある。その許可を得たうえで、道路管理者には一定の占用料を支払って活用する、という流れだ。

道路占用許可を得るには、道路法で定める許可基準を満たさなければならない。ハードルになりがちなのは、「無余地性」と呼ばれる考え方だ。道路区域以外に占用物件を置く余地がないと認められる否か、というもの。この「無余地性」が認められなければ道路占用許可を得られないため、道路空間は活用できない。

幸い、にぎわい創出やインフラ維持を図る観点から、「無余地性」という許可基準を適用しない仕組みがここ数年、相次いで登場してきている。

その一つは、道路法に基づく「道路協力団体」である。道路管理者に協力して道路を維持したり道路交通環境の向上に役立つ工作物などを設置・管理したりする団体で、道路管理者の公募を経て指定を受けるのが通例だ。「道路協力団体」として指定を受けると、道路占用許可にあたっては「無余地性」の基準が適用されなくなるため、オープンカフェや物販施設などを設置し、活動原資の確保に向けた収益活動を展開しやすくなる。

もう一つが、2020年5月に道路法の改正によって新しく登場した「ほこみち」である。この仕組みは、大きく2つの基準の考え方を見直すものだ。