「まちの地下1階」に止まり木を

電源を確保しながら腰を下ろしてじっくり仕事に取り組めるのはいいが、ここは駅職員のいる定期券売り場に入らないと利用できないタイプ。しかも、通路に面してガラス張りの造り。駅利用者にも見られているという感じは否めない。

エキナカワークスペースを試験設置するに至った背景の一つを東京地下鉄鉄道本部鉄道統括部計画課主任の辰島拓也氏はこう説明する。

「ホーム上で電車の音を気にしながら電話したり立て膝でノートパソコンを操作したりするビジネスパーソンの姿を見てきた。止まり木として利用できるスペースを提供できれば、顧客満足の向上にも役立つと考えた」

試験設置の路線として銀座線を選んだ点には、歴史が古く、地下の比較的浅い場所を走る同線の「まちの地下1階」という位置付けが関係しているという。「銀座線はまちとの一体感が強い。仕事先から次の場所に地下鉄で向かう途中のすき間時間を利用してもらおうという狙いに合う」。辰島氏は理由の一端を明かす。その銀座線の中で、ビジネス利用の乗降客が比較的多く、駅ナカにワークスペースを設置する余地があるなどの理由から、溜池山王、表参道、銀座の3駅を選んだという。

設置から半年以上が経過し、東京地下鉄では確かな手応えを感じている。辰島氏は「どの程度利用されればよく利用されていると言えるのか、比較材料がないので判断しにくい面はあるが、ニーズは間違いなく存在している」とみる。使われ方もほぼ想定通りという。

エキナカワークスペースへのニーズが確かに存在することと同様に分かったことの一つは、コンセントへの需要が根強いこと。コンセントを備え付けていない表参道駅のエキナカワークスペースに対してはやはり、その設置を望む声が聞かれたという。

もう一つは、気持ちを切り替える場としての利用が見込まれるという点だ。

ベンチや自販機の仲間になれるか

溜池山王駅に試験設置したブース型のエキナカワークスペースに鏡を取り付けたものも用意したことから分かるように、女性のメークアップは当初から想定していた。ところが実際には、そこまではいかなくても、次の仕事に向け、鏡をのぞき込みながら身だしなみとともに気持ちも整えるような利用がみられたという。木製ルーバーに囲まれているにすぎないが、ブース内は独りになれる空間。かすかな木の香も心地いい。

試験設置の現場を巡ると、多様な使い方が見えてくる。使い勝手が最も良さそうなタイプはやはり、溜池山王駅に試験設置されたブース型のワークスペース。ごく短時間の利用からやや腰を据えた利用まで、幅広く対応できそうだ(写真4)。

(写真4)多様な使い方に幅広く対応できそうなブース型のエキナカワークスペース。木製ルーバーで囲まれているため、ブースの中にぐっと入り込むと、周りに人がいてもそう気にならず、落ち着いて作業できる(画像提供:東京地下鉄)

同駅のホーム上でこのエキナカワークスペースを試しに使っていると、携帯電話でやり取りしていた背後の男性が、並びのワークスペースにすっと入っていく。片手には、スケジュール帳。電話でやり取りするだけならともかく、スケジュールを確認したり書き込んだりするとなると、やはりちょっとした台が必要なのだろう。

改札口近くに試験設置されている同じブース型のワークスペースでは、リュックを下に置き、パソコンを開いてじっくり仕事に取り組む男性の姿もある。天板の上には缶コーヒー。近くに売店があるから、そこで買ったのかもしれない。立ったままの作業を強いられるものの、仕事の環境としてはそう悪くなさそうだ。

今後、これらのエキナカワークスペースはどのように扱われるのか。東京地下鉄では今年12月までの間に定量的・定性的なニーズをさらに探ったうえで、「これらのワークスペースを存続させるか否かを含め、今後の方針を検討する」(辰島氏)。一定の手応えは感じているものの、将来のことだけに現段階では明言できないという。

働き方の観点から仕事中は移動のムダをできるだけなくしたいと考える時代である。移動の途中でちょっと作業のできる環境があるのは心強い。ここでメールを3本送信できれば、オフィスに戻らず、保育園にすぐに子どもを迎えに行ける――。そんな状況に置かれた育児中のビジネスパーソンにとっては、貴重な存在に違いない。ベンチ、自動販売機、売店、……と多彩な施設・設備が駅ナカに整備されている中、エキナカワークスペースもその仲間の一つに位置付けられるといい。