多面的な機能が評価される都市農地。営農を継続する農地については、都市計画で生産緑地地区に指定し、宅地化に制限を課す一方で税制上の特例措置を施してきた。ただそれは、30年間の時限措置。2022年以降、新しい仕組みに切り替わる。都市農地の宅地化とそれに伴う環境悪化が懸念される中、東京都西東京市では「農ある暮らし」への道筋を模索し始めた。

2022年が、いよいよ来年に迫ってきた。西東京市では1992年と93年に生産緑地地区に指定された農地を所有する農家らが、新しい仕組みである特定生産緑地の指定を申請するか否か、選択を迫られてきた。指定申請期限は、2022年2月と23年2月。申請は一度きりのため、この機会を逃すと特定生産緑地の指定は受けられない。

1992年と93年の2年間で生産緑地地区に指定された市内の農地は合計90.7ha。一方、市内で生産緑地地区に指定されている農地(写真)は2020年12月時点で109.6haというから、8割以上にあたる生産緑地が、二者択一の決断を迫られることになる。

(写真1)西東京市内の生産緑地。市内の北東部と南西部に点在する。中には「災害時協力農地」として緊急の避難場所に利用できる農地もある(写真:茂木俊輔)
(写真1)西東京市内の生産緑地。市内の北東部と南西部に点在する。中には「災害時協力農地」として緊急の避難場所に利用できる農地もある(写真:茂木俊輔)
[画像のクリックで拡大表示]

その選択を、市は固唾を飲んで見守ってきた。

特定生産緑地の指定を申請すれば、生産緑地と同様、営農継続が義務付けられるため宅地化が制限される一方で、税制上の特例措置を受けられる(図1)。指定期間は10年間。ただし更新は可能だ。生産緑地の延命を図る措置と言える。

(図1)特定生産緑地の指定を受けた場合、買い取り申し出が可能になるのは、生産緑地と同様、農業従事者が死亡した場合などに限られる一方で、税制上の特例措置が適用される(出所:国土交通省「特定生産緑地指定の手引き」)
(図1)特定生産緑地の指定を受けた場合、買い取り申し出が可能になるのは、生産緑地と同様、農業従事者が死亡した場合などに限られる一方で、税制上の特例措置が適用される(出所:国土交通省「特定生産緑地指定の手引き」)
[画像のクリックで拡大表示]

ところが一方、特定生産緑地の指定を申請しなければ、税制上の特例措置は限定的になるものの自治体への買い取り申し出が随時可能になる(図2)。これは事実上、宅地転換の道が常に開けるということ。市は、そこに危機感を抱く。

(図2)特定生産緑地の指定を受けない場合、生産緑地地区の都市計画決定告示から30年経過後、いつでも買い取り申し出が可能になるが、税制上の特例措置は激変緩和措置に限られる(出所:国土交通省「特定生産緑地指定の手引き」)
(図2)特定生産緑地の指定を受けない場合、生産緑地地区の都市計画決定告示から30年経過後、いつでも買い取り申し出が可能になるが、税制上の特例措置は激変緩和措置に限られる(出所:国土交通省「特定生産緑地指定の手引き」)
[画像のクリックで拡大表示]

市は買い取り申し出を受けた場合、時価での買い取りが求められるが、そこまで財政上の余力はないのが実情。市まちづくり部長の松本貞雄氏は「買い取り申し出には原則として応えることはできない」と言い切る。

市が買い取り申し出に応えなければ、最終的には生産緑地に課されていた宅地化に対する制限が解除される。「市の推計では人口は若干増加する見通し。どんどん宅地化していくと、居住環境が悪化しかねない」。松本氏はそう懸念を示す。

そもそも都市農地には、多面的な価値がある、と評価する。

その一つが、広い意味での緑地という価値。一人当たり公園面積は市部で言えば狛江市に次いで小さいが、2017年度に実施した最新の市民意識調査によれば、日ごろの住み心地について「満足」「やや満足」している理由の第一に挙がるのが、「まわりに緑や公園が多い」という回答。その背景を松本氏は「都市農地の存在が大きい」とみる。

2022年を間近に控え、危機感を募らす

ところが、その緑地としての側面を持つ都市農地は減少の一途をたどってきた。

図3は、市内の都市農地面積を、生産緑地とそれ以外の市街化区域内農地に分けて、1993年以降の推移として示したもの。市域面積との比較で言えば、都市農地の面積割合は1993年当時約15%だったが、2011年には約10%を切る。

(図3)西東京市内の都市農地面積の推移。「生産緑地面積」は都市計画告示面積に、「市街化区域内農地面積」は東京都農業会議調べに基づく(資料提供:西東京市)
(図3)西東京市内の都市農地面積の推移。「生産緑地面積」は都市計画告示面積に、「市街化区域内農地面積」は東京都農業会議調べに基づく(資料提供:西東京市)
[画像のクリックで拡大表示]

「減り幅は宅地転換しやすい市街化区域内農地のほうが大きい。しかし生産緑地も、農業従事者の死亡などを理由に買い取り申し出が寄せられ、結果として宅地に転換されるものが、年間平均2ha程度みられる」(松本氏)。

都市農地が減少の一途をたどる中、特定生産緑地の指定を申請しない農家が多いと、その傾向に一段と拍車が掛かる。2022年を間近に控え、手をこまぬいてはいられない――。市が危機感を募らせる理由は、そこにある。

危機感を抱いたのは、市だけでない。市長の諮問機関である都市計画審議会では早くから緑地の減少を問題視。それが市長への建議にまで結び付く。

スタートダッシュは早かった。審議会委員から、市長への提言作成を求める意見が出たのが、2016年11月。審議会の設置を定めた条例は市長への建議を想定していなかったため、条例改正案を市議会に上程し可決されたのが、翌17年3月。その2カ月後には、提言案をまとめる専門部会の設置を審議会で決めた。

部会委員は開催当初は3人、1年後の2018年9月以降は6人で構成。審議会委員からは東京大学大学院工学系研究科准教授の村山顕人氏と市農業委員会会長の村田秀夫氏の2人が参加し、部会専属の委員としてはまちづくりや税務を専門とする人材が選ばれた。部会長は開催当初から一貫して、村山氏が務める。

専門部会で2019年1月、提言案をまとめ、翌2月に審議会に報告。審議会ではそれを基に「都市農地の保全と価値創造に関する提言」をとりまとめた。丸山浩一市長(当時)への建議は2019年7月。都市農地の保全と活用を巡る問題が、都市計画や農業振興を担当する部門だけでなく、全庁的な課題として突き付けられることになった。

図4は、提言の内容を市が図解したものだ。都市農地・都市農業の現状や都市農地の保全の意義・手法を整理したうえで、施策展開の方向性を提言している。さらに、モデル・プロジェクトの実現や推進体制の構築も訴える。

(図4)西東京市都市計画審議会が建議した「都市農地の保全と価値創造に関する提言」の内容を、市が図示したもの。赤枠内はすでに取り組んでいる事業、青い網掛けは検討すべき事案(資料提供:西東京市)
(図4)西東京市都市計画審議会が建議した「都市農地の保全と価値創造に関する提言」の内容を、市が図示したもの。赤枠内はすでに取り組んでいる事業、青い網掛けは検討すべき事案(資料提供:西東京市)
[画像のクリックで拡大表示]