分野横断で検討し、年度末までに成果を

部会長である村山氏が構想するのは、「エコディストリクト」の形成だ。米ポートランド発の低炭素型でエコなまちづくりを、モデル・プロジェクトを実施する重点地区ごとに展開できないか、という。この「エコディストリクト」とは簡単に言えば、既成市街地内の環境を参加型でより良くしていこうとする地区を指す。

「都市農地を保全したいと言っても、農地所有者からすれば経済合理性に欠ける。本当に大事なら、地区全体でコストを負担する覚悟がないと保全できない。都市農地の位置付けを明確に定め、地区全体で維持管理しながら活用し、小さな経済を回したり食育に生かしたりしていく。そうしたまちづくりの動きを仕掛けていきたい」(村山氏)。

審議会からの提言を受け、市はまず足元の推進体制を構築。分野横断の庁内プロジェクトチームを2019年11月に立ち上げ、対応を検討してきた。自身、チームメンバーでもある松本氏は「2021年度は専門部会と連携し、庁外の意見に耳を傾けながら検討を進める」と、前向きな姿勢を見せる。プロジェクトチームでは2021年度いっぱいをめどに、2021年2月に新しく就任した池澤隆史市長に検討成果を報告する予定だ。

ただ松本氏は同時に、慎重な姿勢も見せる。「都市農地の保全・活用に向けたシナリオはまだ具体的に見いだせていない。都市農地を所有する農家は個別の事情を抱えているだけに、細かな施策アイテムを用意し、農家の状況に応じてマッチングするような仕組みが必要だ。肝心の農家に受け入れられるようにするには、どのような形がいいのか。農業部門とも連携しながら検討していきたい」。

幸いなのは、都市農地の保全・活用にはここ数年、追い風が吹いている点。施策アイテムに取り込めそうな仕組みはすでに、いくつも用意されている。

例えば都市計画制度の一つである地区計画。建築物の用途や規模、公共施設の配置などを、地区単位できめ細かく定めることで、良好な環境を確保するための仕組みだ。この地区計画には、都市農地の保全を想定した新しいタイプが創設された。

新しいタイプの地区計画では、生産緑地地区と同様、都市農地について行為制限を加える一方で税制上の特例措置を適用することで、その保全が可能になる。さらに周辺の宅地に対して建築規制を課すことで、営農環境の保全も可能にする。

村山氏は「土地利用だけではなく、道路や公園の位置なども定められるため、スプロール地区で都市農地を保全・創出しながら少しずつ市街地環境を改善するには良いツールではないか」と、地区計画の活用に期待を寄せる。

「農ある暮らし」提供する新しいモデル

さらに都市農地貸借法。この法律が施行されることによって、農地所有者は自ら耕作する第三者や市民農園を開設する第三者に対して都市農地を貸しやすくなった。しかも税制上の特例措置が適用されるため、相続税の納税猶予も受けられる。

この仕組みについては、市は農業委員会を通じて地元JAと連携し周知を図ってきた。2021年度からは、農業委員会と地元JAで都市農地有効活用連絡会を組織し、情報共有を進めていく。農業委員会事務局長を務める原島誠氏は「現在研修中の新規就農予定者がこの仕組みを活用して市内で農地を借りるのが、第一号の見通し。市民農園を開設しようとする動きは、まだみられない」と活用実績を明かす。

追い風を受ける中で課題として浮き彫りになるのは、農地活用の担い手である。都市農地を農地として保全するには、耕作を継続する担い手が欠かせない。それは例えば、新規就農者や市民農園・体験農園の利用者でもある。都市農地として、そうした担い手をどう確保・育成していくか――。

可能性が見込める一つは、「農ある暮らし」を求める都市住民だ。東京都が区市町と連携して実施する都市農地保全支援プロジェクトを活用し、2021年4月に市内に開設された市民農園では、近隣からの利用が少なくないという。「この市民農園は周囲を住宅に囲まれた市街地に立地する。近隣住民に声を掛けただけで、30区画中10区画ほどの利用者が決まったと聞いている」(原島氏)。

「農ある暮らし」を求める都市住民を、住宅開発によって新しく引き込む、という道筋も考えられる。「『農ある暮らし』を提供する新しいビジネスモデルを住宅会社が開発し、事業に乗り出せば、地区全体を変える起爆剤になる」。村山氏は可能性をそう訴える。

2021年3月現在、特定生産緑地の指定を申請した生産緑地は面積ベースで全体の64%。松本氏は「予想より多い。2021年度は未申請者にあらためて呼び掛ける予定だ。最終的には、全体の80~90%に達することを期待する」と、胸をなで下ろす。

ただ仮に全体の90%が特定生産緑地の指定を申請したとしても、残る10%にあたる約9haの都市農地が2022年以降、宅地転換する可能性が見込まれる。庁内プロジェクトチームでは、そこも視野に入れることが求められる。

2021年度に入り、新型コロナウイルスの感染拡大には一向に収束の兆しが見られないものの、庁内プロジェクトチームと専門部会の連携がいよいよ始まった。都市農地という公共財とも言える民間所有地の保全・活用に向けて、市はどのようなシナリオを描くのか――。分野横断のチーム力を発揮することが期待される。