公共空間の運営が公民連携のフロンティアとして注目を浴びる。空間の運営を民間に開放する狙いは、財政投資の縮減のほか、まちづくり。地域連携によるにぎわい創出や回遊性向上を図る。その手段と期待されるのが、都市公園法上の公募設置管理制度。Park-PFIである。再整備を終え、2021年4月に開園された東京都渋谷区立北谷公園を例に、可能性を探る。
「公園がセレクトショップになる2日間」――。そう副題が付くイベント「JINNAN MARKET」が、2021年11月20~21日に開催された。会場は、東京・渋谷の公園通りから少し中に入った渋谷区立北谷公園。近くのモデル事務所や卓球レストラン&バーなど地元企業もポップアップショップやアクティビティを提供。園内にはいつもと違う、にぎやかな光景が広がった(写真1、2)。
主催者は、渋谷に本社を置く東急を代表企業として、近くに本社を置く広告代理店のCRAZY ADと公共空間の運営に乗り出す建築設計事務所の日建設計で構成する「しぶきたパートナーズ」。この3社は、北谷公園を所有する渋谷区から指定管理者として決定され、2021年4月の開園以来、公園の管理・運営にあたる(図1)。
新型コロナ感染症の感染拡大のあおりを受け、開園以来、初めて開催された地域連携型のイベントだ。指定管理者の中で広場運営・地域連携業務を担当する日建設計の都市部門パブリックアセットラボアソシエイトの伊藤雅人氏は「イベントを開催したことで地域との新しいつながりが生まれ、それが次回の開催に生かせそうだ。定期的に開催しながら出店者を増やしていきたい」と、将来を見すえる。
「地域連携」は、公園再整備の段階から求められていたテーマだ。ここで再整備に至る経緯を振り返っておこう。
北谷公園は広さ約960㎡。半径250mを誘致圏とする街区公園の位置付けだ。渋谷駅と東京都立代々木公園との間を結ぶ公園通りの沿道一帯では、貴重なオープンスペースといえる。ところが、その利用実態に区は課題意識を抱えていた。
区土木部公園課の友澤仁皓氏は「通りがかりのビジネスパーソンや近くのアパレル店舗の店員の喫煙やランチといった短時間利用や、園内に整備していた駐輪・駐バイク場の利用がほとんど。利用者層や利用状況には偏りがあった」と明かす(写真3)。
2019年4月には条例改正で区内の公園を全面禁煙とすることもあり、区ではこの公園をまちづくりの拠点として生かす方向に舵を切る。「公園を再整備し利用状況を改善するだけでなく、限られたオープンスペースとして地域のにぎわい創出や回遊性向上に役立たせたい。それには地域との連携が欠かせない」(友澤氏)。
公園施設にはブルーボトルコーヒー出店
再整備の手法として採用したのは、都市公園法の改正で創設された公募設置管理制度だ。いわゆるPark-PFIである。この制度は、「公募対象公園施設」を設置・管理する民間事業者を公募で選定するもので、施設運営で得られる収益を「特定公園施設」の整備に充てる考え方の下で、都市公園法の特例措置を適用する(図2)。
特例措置とは、公募対象公園施設の建ぺい率規制や設置管理許可期間の緩和。建ぺい率規制は原則2%を12%まで、設置管理許可期間は最長10年を20年まで緩和できるため、民間事業者にとっては事業全体の収益性を確保しやすくなる。Park-PFIを採用する公共からすれば、民間事業者の参入を見込みやすくなるわけだ。
折しも、区が再整備の手法を検討していたのは、Park-PFIが創設されて間もない時期。「再整備の手法として利用できるのではないかと踏んで、民間事業者にヒアリングを実施したところ、その参入が見込めたため、公募に踏み切った」(友澤氏)。
区は2019年5月、公募対象公園施設の設置・管理運営や特定公園施設の設計・建設・管理運営などを事業内容とする民間事業者グループの公募を開始。同年8月、公募に応じた2つの企業グループの中から、東京急行電鉄(当時、現東急)を代表企業とするグループを選定した。図3は、民間事業者グループの体制。公募対象公園施設や特定公園施設は、日建設計が基本設計とデザイン監修を、東急建設が実施設計と施工を担当した。
公募対象公園施設は、東急が自らの費用負担で建物を建設し、その建物をカフェの運営にあたるブルーボトルコーヒー側に賃貸することで賃料を得る一方、土地所有者である区に対しては条例で定められている設置許可使用料を支払う(写真4)。
特定公園施設は、区が所有するものの東急が発注者として、管理・運営段階まで念頭に置いて全体を再整備する。費用負担は、区と東急。区は公募段階でほかの区立公園の全面改修工事費用を基にあらかじめ示していた5000万円を、東急は残り全額を負担した。再整備費用の総額については、東急では公表していない。
園内にもともと整備されていた駐輪・駐バイク場については、Park-PFIの民間事業者が自らの費用負担で占用許可を受けて設置する利便増進施設として整備することも可能とされていたが、民間事業者は2019年11月から12月までの間で社会実験を行い、結果として整備しないことを決めている。「周辺では新しいビル建設や施設整備に伴い、駐輪・駐バイク場が増えた。園内の駐輪・駐バイク場を一定期間閉鎖する一方、これらの新しい施設の利用を促したうえで、路上への自転車・バイクの駐車状況を確認した結果、園内にあらためて駐輪・駐バイク場を整備する必要はないと判断した」(伊藤氏)。