2022年は都市連動型の仮想空間「メタバース」元年と呼べる年になりそうだ。約3年前に立ち上げられた「バーチャル渋谷」が2022年春をめどに飛躍的な進化を遂げ、収益化の仕組みを取り込む予定。経済圏が生まれ、好循環が築かれるようになれば、リアル渋谷のまちづくりにこれまでにないアプローチが生まれる。実在都市の未来はどう変わるのか。

2022年春、都市連動型メタバースのひとつである「バーチャル渋谷」が進化する見通しだ。目玉は、UGC(ユーザー生成コンテンツ)を生み出す環境の提供である。

企画・運営に携わるKDDI事業創造本部ビジネスインキュベーション推進部部長の中馬和彦氏は、こう意気込む。「渋谷のリアルアセットをバーチャル側に提供し、ユーザーがそれを用いて、創作活動を自由に繰り広げられるようにしていきたい」。

創作活動の一例として中馬氏が挙げるのは、セレクトショップの開設である。

「例えばストライプのシャツ好きのユーザーが渋谷にある既存セレクトショップの在庫情報を基にストライプのシャツばかり集め、『ストライプ』という名の店舗を一等地であるスクランブル交差点に開設できる、というイメージだ」

クリエイティブでユニークな人はその魅力で人を引き付ける。カリスマ店員もカリスマ美容師も、そうだ。「その人にインスパイアされるからこそ、周りにほかの人が集まる。『個』に焦点を当て、UGCの環境を提供していく」(中馬氏)。

多様な人が集まり、コンテンツが蓄積されれば、「バーチャル渋谷」には新しい文化が生まれ、カネが動く。今はまだ収益化の仕組みを組み込んでいない、この仮想空間に、経済圏が新たに生み出されることになる。進化形の詳細を見ていこう――。

「バーチャル渋谷」とはもともと、KDDI、一般社団法人渋谷未来デザイン、一般財団法人渋谷区観光協会の3者が主導する「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」が2020年5月に立ち上げた仮想空間(図1)。渋谷区公認のプラットフォームだ。同プロジェクトには2021年12月現在、上記3者を含む73者が参画する。

(図1)都市連動型メタバースの「バーチャル渋谷」。JR渋谷駅前のスクランブル交差点から駅方向を見上げる。左手には渋谷スクランブルスクエアがそびえる(出所:バーチャル渋谷)
(図1)都市連動型メタバースの「バーチャル渋谷」。JR渋谷駅前のスクランブル交差点から駅方向を見上げる。左手には渋谷スクランブルスクエアがそびえる(出所:バーチャル渋谷)
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立ち上げ当初はリアルの渋谷をデジタル技術で拡張しようという位置付けだったという。「リアルの渋谷ではエンターテインメントの領域で実現できないことも、デジタル技術を利用すれば実現できる、という発想だった」(中馬氏)。

ところがその後、新型コロナウイルス禍に見舞われ、リアルイベントはことごとく中止に追い込まれる。その分、「バーチャル渋谷」に寄せられる期待が高まった。

「コロナ禍を背景に、仮想空間でイベントを開催したい、バーチャル店舗を開設したい、というニーズが寄せられるようになった。活動の場を失った渋谷の企業が、プロジェクトに続々と参画するようになった」(中馬氏)。

アフィリエイトや「投げ銭」で新たな経済圏

それに伴い、「バーチャル渋谷」の位置付けを見直し、バーチャルファーストに軸足を移す。中馬氏は「仮想空間でしかできないことをまず追求していく。そこで渋谷の新しいカルチャーをつくり、リアル渋谷との融合を図ることで、その可能性をもっと広げていくことを考えている」と、都市連動型としての方向性を語る。

メインの舞台はバーチャル側。その進化には地元渋谷区の公認プラットフォームであることが生きる。渋谷のリアルアセットをAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)連携を通じてバーチャル側に提供してもらう必要があるからだ。

中馬氏は強調する。「さまざまな権利者がいる中、民間企業だけでその提供を依頼しても物事を前に進められない。それに、公共セクターが所有するランドマークをバーチャル側で利用することも考えられる。地元自治体との連携は必須だ」。

思惑通りに進化を遂げ、創作活動が自由に繰り広げられるようになれば、「バーチャル渋谷」には冒頭で述べたように、経済圏が新たに生み出されていく。

例えば、先ほど創作活動の一例として挙げた新しいセレクトショップ。「その店舗を通じて商品が売れれば、在庫を持つ既存セレクトショップから成功報酬型のインターネット広告のアフィリエイト収入が得られることになる」(中馬氏)。

創作活動の一つとしてはストリートライブも考えられる。そこではSNS(交流サイト)やライブ配信アプリで視聴者が配信者に送金する「投げ銭」の収入が得られる。この機能は「バーチャル渋谷」ですでに限定的に開放されているものだ。

さらにここでは、ブロックチェーンの技術を用いてデジタル資産の複製を困難にする「非代替性トークン(NFT)」の流通も視野に入れる。中馬氏は「どのタイミングでどこに実装できるかは不透明だが、考え方は取り入れていく」と将来をにらむ。

使用通貨については検討中。候補の一つは、KDDIが資本業務提携するロイヤリティマーケティングで運営する共通ポイントサービス「Ponta(ポンタ)ポイント」のような既存サービスの利用だ。もう一つは、「現行法の枠内で流通可能な新しいコインの用意」(中馬氏)という。

「バーチャル渋谷」を運営するプロジェクト側では、こうした仮想空間上での経済活動に課金していく仕組みを取る。

そこで必要になるのが、誰もが安心して仮想空間を利用できるようにするためのガイドラインの作成だ。プロジェクトに参画する企業・団体のうち、KDDI、東急、みずほリサーチ&テクノロジーズ、渋谷未来デザインの4者は2021年11月、「バーチャルシティコンソーシアム」を立ち上げ、ガイドラインの策定に乗り出した。コンソーシアムのオブザーバーには、後援する渋谷区のほか、経済産業省も名を連ねる。