建築主や設計者のハードル下げる

法律が変わり、部材も開発されている。それでも、冒頭に紹介したように「木のビル」の普及にはまだ弾みがついていない。それは、建築主にとっても建築設計者にとっても一歩を踏み出しづらい課題があるからだ。

普及に向けた課題の一つは、コストの不透明さだ。「数少ない事例が金額を明らかにしていないこともあって、木質ハイブリッド集成材を用いると工事費がどの程度の金額になりそうなのか、見通しを示せないのが実情」。スタジオ・クハラ・ヤギで久原氏とともに代表取締役を務める八木敦司氏は指摘する。これでは建築主によほど強い気持ちがない限り、「木のビル」の建設には踏み出せない。

スタジオ・クハラ・ヤギでは国分寺フレーバーライフ社本社ビルのプロジェクトを通して「木のビル」のプロトタイプ提案を目指す。ごく一般的な「木のビル」をどの程度の金額で、どうつくるか、その問いへの答えを示し、建築主や建築設計者が建設に踏み出しやすい環境を整えていこうという狙いだ。

コストの不透明さという課題に対してはまず、木質ハイブリッド集成材の柱と梁がつながる接合部の造りに工夫を凝らすことで部材の製作コストと運搬コストの引き下げを図ったうえで、一般的な工事費の目安になる金額を示す予定だ。具体の金額は今の段階ではまだ明らかではないが、「建築主が採用してみようかと思えるレベルにはなっている」(久原氏)という。

「木のビル」の可能性はさらに広がっている。国産材の活用による林業の再興という観点からも建築部材としての利用に期待が寄せられている直交集成板「CLT」が、利用しやすくなったからだ。このCLTは、スギなどの板材を層状に並べ、それらを層ごとに繊維方向が直交するように重ね合わせたもの(写真2)。木質ハイブリッド集成材を鉄骨とするなら、工場生産のコンクリートパネルに例えられる。日本CLT協会業務推進部部長の中島洋氏は「1990年代半ばから欧州で開発され、実用化されてきた。ほかの部材との組み合わせで地上20階を超える高層ビルの建設も計画されている」と解説する。

(写真2)直交集成板「CLT」の一例。12m×3mという大きさはいま国内で稼働しているCLT工場で生産できる最大のもの。厚さは30㎝近くに達する(画像提供:日本CLT協会)

高層ビルに使われるCLTの可能性

国内でCLTを用いた建築物は、日本CLT協会が利用例として紹介しているものだけでも2014年以降で30例を超える。ただ、一般的な設計法が確立していなかったため、それを構造材として用いる場合には安全性に関して国土交通大臣の認定を個別に受けてきた。ところが今年3月と4月、国土交通省が設計法を告示したことで、CLTを構造材として用いる建築物でも一定の規模までなら通常の手続きさえ踏めば建設できるようになった。

スタジオ・クハラ・ヤギの久原氏と八木氏がともに理事を務めるteam Timberizeでも、都市木造の可能性を探る取り組みとしてCLTを用いた建築物を提案する。そこで基本に据えているのはやはり、適材適所という考え方に基づきほかの部材と組み合わせるハイブリッドの思想だ。

例えば写真3は、木質ハイブリッド集成材を用いたビルの進化版と位置付けられるもの。CLTと鉄骨部材の組み合わせで耐震上・耐火上の安全性を確保する。写真4は、現行法規内で実現可能なCLTパネル工法の3階建て集合住宅を、「プレキャストコンクリート(PC)」と呼ばれる工場生産のコンクリートパネルで構成した巨大なフレームの中に納めたものだ。八木氏は「今すぐは実現できないが、国分寺のプロジェクトによって都市木造の目の前での普及を図るかたわら、このように未来へのボールも投げていく」と位置付ける。

(写真3)CLTと鉄骨部材を組み合わせた「CLT WALL+Steel Girder」。CLTの壁とそれをV字に組み合わせた壁も併用することで空間に変化をもたらしている(画像提供:team Timberize)
(写真4)CLTとプレキャストコンクリートを組み合わせた「CLT HOUSING+super frame」。CLT建築だけを更新できるので建築物として長持ちさせられる(画像提供:team Timberize)

日本CLT協会で今後のマーケットとしてにらむのは、地上6~7階建て程度の中層ビルという。ただ、それを実現できるようにするには、CLTを用いた構造に対して一定の耐火性能を持つことが認められなければならない。日本CLT協会の中島氏は「協会としてもそうした構造提案への取り組みを進め、3年後をめどに国土交通大臣の認定を取得することで、CLTの活用促進に一層の弾みをつけていきたい」と構想する。

課題はあるものの、「木のビル」の普及に向けた環境づくりは着実に進みつつある。都市木造という選択肢は、ごく普通のビルでも存在感を増していくに違いない。