配送、移動、警備・消毒といった経済・社会活動を支援する自律走行ロボットがいよいよ社会実装の段階を迎える。2022年3月には位置付けを明確に定めた道路交通法の改正案が閣議決定され、安全基準の策定に向けた業界団体が立ち上げられた。インフラの役割を担うロボットの登場で、「ロボットフレンドリー」なまちが出現していくことになりそうだ。
公園や道路など公共空間の居心地を良くしようという施策が展開され始めている。公園には民間収益施設の整備が促され、道路にはにぎわいを目的とした空間が位置付けられるようになってきた。公園や道路で過ごす時間は、自ずと長くなる。
そういう時代に重宝しそうなのが、配送や移動を支援する「インフラロボット」だ。モノを載せたり人を乗せたりして、目的地まで自律走行する。
道路上の空間に陣取り、コーヒーでくつろぎたい。しかし、そこは居心地の良い場所。近くのカフェに向かった隙に、誰かに取られかねない。その場でコーヒーを注文し、受け取ることができれば、その心配はいらない。
そこに、こうしたインフラロボットの出番がある。注文を受けたカフェ側でロボットを活用し、注文主のもとに商品を届ける。注文主は居心地の良い道路上の空間に居ながらにしてコーヒータイムを楽しめる。
「ウォーカブルなまちづくりを考える中で、ロボットのこうした活用可能性が見込める」と指摘するのは、日建設計都市・社会基盤部門シビルグループCM・測量部アソシエイトの大森高樹氏だ。民間企業を中心に2021年5月に設立された姫路ウォーカブル協議会の会員企業として兵庫県姫路市を舞台とする具体策の検討にも加わる。
姫路と言えば、JR姫路駅と姫路城の間を結ぶ大手前通りで、2020年3月に再整備工事を終えた道路空間が、日常的ににぎわい、憩えるものになるように、公民連携の取り組みが展開されている。市は2021年2月、この大手前通りを「歩行者利便増進道路(通称、ほこみち)」に指定し、にぎわい目的の空間活用を進めている(写真1)。
こうしたウォーカブルなまちづくりにとってインフラロボットは利用価値が高い。道路空間でくつろぐ人には自動配送ロボットが、道路空間を移動する人には移動支援ロボットが、それぞれサービスを提供できるからだ。
大森氏はさらにこう展望する。「ロボットを動く広告塔として活用すれば収益確保にもつながる。将来は、まちづくりに役立つ各種データを収集する『まちのデバイス』としても活用可能性が見込める」。
姫路ウォーカブル協議会はまさに、配送や移動を支援するインフラロボットを姫路でのウォーカブルなまちづくりの実現に活用することを目的に設立された民間団体。幹事企業としてその中心を担うのが、ロボット開発ベンチャーのZMPである。
主力製品の一つが、「歩行速ロボ三兄弟」。自動配送の「DeliRo(デリロ)」、搭乗型移動支援の「RakuRo(ラクロ)」、警備・消毒の「PATORO(パトロ)」の「三兄弟」である(写真2)。走行速度は最高時速6km。早足で歩く程度のスピードだ。
この夏めどに複数台対応の遠隔監視システムを
車体の造りは役割に応じて異なるが、自律走行の技術は共通。走行エリア内の3次元(3D)地図をZMPが開発した自動運転マップ作成システム「RoboMap(ロボマップ)」を利用して作成し、ロボットはその情報とカメラや各種センサーで得た周囲の情報を照らし合わせながら自己位置を推定する仕組みだ。カメラや各種センサーを用いた障害物の認識、自動回避・停止、信号認識など、自律走行に必須の機能も備える。「ROBO-HI(ロボハイ)」と呼ぶクラウドサービスを利用した遠隔監視・制御を前提とする(写真 3)。
ビジネスの基本は、インフラロボットを遠隔監視・制御システム「ロボハイ」とともにサービス事業者に提供するまで。それらの運用は原則として事業者という想定だ。一方で、遠隔監視・制御にあたる人材の育成をサポートする。自動車教習所と連携し、スキルアップに向けたロボットスクールを開催している。
「ラクロ」にしても「デリロ」にしても事業性の観点から求められるのは、遠隔監視・制御体制の効率化だ。ロボット1台を1人で監視・制御する仕組みでは、ロボットの活用を進めるのに伴い人件費がかさみ、事業効率が悪い。ロボット複数台を1人で監視・制御できる仕組みへの切り替えが不可欠だ。ZMPロボライフ事業部長の龍健太郎氏は「2022年夏をめどに複数台対応の新しいシステムの提供を目指す。対象ロボットの台数は最大で10台程度を想定する」と意気込む。
「三兄弟」のうち「ラクロ」は、道路交通法上は「身体障害者用の車椅子」と位置付けられ、道路運送車両法上の「道路運送車両」には該当しない。そのため、道路運送車両の保安基準の適用は受けず、現行法下でも公道走行が可能だ。
高齢化に伴い運転免許証の自主返納が社会から求められる中、ZMPではこの「ラクロ」を高齢者の近距離移動を支援する次世代モビリティとして開発・提供する。東京都中央区の佃・月島エリアでは2020年10月から、発着地になる拠点とあらかじめ設定した目的地との間の往復利用を前提とするライドシェアリングサービスを自ら仕掛ける。普及促進には運用上の課題を明らかにしたり、ビジネスモデルを構築したりする必要があるからだ。
サービス提供開始から1年半。明らかになってきたのは、利用者として見込む高齢者は限られるという点だ。龍氏は「高齢者に利用を呼び掛けるだけでなく、例えば高齢者施設に配置し近くの病院に通いやすくするなど、通院時の利用を念頭に置いたサービス提供に力を入れていきたい」と言う。
本来は、目的地との間の往復利用に限定しないライドシェアリングサービスの提供を見すえる。ところがそれには、「ラクロ」の配送・回送が必要になる。事業性を踏まえれば、無人での自律走行が望ましい。龍氏は「それを実現するには、自動配送ロボットと同じ枠組みの下、一定の走行実績時間が求められる。無人での自律走行の実現に向け、目下、警察側と協議中だ」と明かす。