2022年4月、道路交通法の一部を改正する法律案が可決・成立した。前回の「まちのインフラロボット」とともにこの法律に新たに位置付けられることになったのが、回遊性を高める役割が期待される電動キックボードだ。向こう2年以内に社会実装にこぎつける見通しの次世代モビリティは、まちなかにどう定着し、まちのあり方をどう変えていくのか。

まちの将来像に、次世代モビリティが落とし込まれるようになってきた。

一つは築地市場跡地(写真1)。東京都は市場跡地約19haを約70年の定期借地として民間企業に貸し出し、新しい文化の創造・発信拠点を整備する方針だ。この地区では多様な交通手段の結節点としての役割を想定し、次世代モビリティの活用を求めている。

(写真1)東京都が所有する築地市場の跡地。そのまちづくりにあたる民間企業には自転車や次世代モビリティの活用提案を求める(写真:茂木俊輔)
(写真1)東京都が所有する築地市場の跡地。そのまちづくりにあたる民間企業には自転車や次世代モビリティの活用提案を求める(写真:茂木俊輔)
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もう一つは「Tokyo Sky Corridor」。東京・銀座の外周をC字型に高架で囲む東京高速道路(KK線)約2kmを、歩行者中心の公共的空間として再生する構想だ。都が策定した方針では、幅員3mの「次世代モビリティ走行空間」が位置付けられている(図1)。

(図1)東京高速道路(KK線)は幅員約16~33mの広めの区間と同約12mの狭めの区間がある。その広めの区間の整備内容の例(出所:東京都「東京高速道路(KK線)再生の事業化に向けた方針(中間まとめ)」)
(図1)東京高速道路(KK線)は幅員約16~33mの広めの区間と同約12mの狭めの区間がある。その広めの区間の整備内容の例(出所:東京都「東京高速道路(KK線)再生の事業化に向けた方針(中間まとめ)」)
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次世代モビリティに共通する特徴は、電動・小型・一人乗り。「電動」は脱炭素社会の実現にふさわしく、「小型」「一人乗り」で手軽に利用できることはいわゆるラストワンマイルの移動を支援する役割や回遊性を高めて地域の活性化を後押しする役割などが期待される。目下の社会課題に対応したモビリティなのである。

しかも、新しいモビリティとして社会に受け入れられるようになれば、その開発・生産・販売やシェアリングサービスの提供など新ビジネスの創出・発展が促される。次世代モビリティの活用には、産業育成の観点からも期待が寄せられる。

こうした幅広い期待感が、まちの将来像への落とし込みにつながっている。2022年4月には、道路交通法の一部を改正する法律案が可決・成立し、法律上の位置付けが整理された。公道走行において特別な取り扱いを認めてもらう実証実験の段階から、いよいよ社会実装の段階に移っていく。

とりわけ普及が加速しそうな次世代モビリティが、電動キックボードである(写真2)。電動キックボードや小型電動アシスト自転車のシェアリング事業を展開するLuupでは、国内の市場規模は米国の市場規模を踏まえると、シェアリング事業だけで約1兆円に上ると試算する。前提には、国内でも自転車並みに利用が広がるという見立てがある。

(写真2)Luupが2022年2月から東京を皮切りに導入する新しいモデル。安定性・走行性・耐久性などについて改善を加えている(画像提供:Luup)
(写真2)Luupが2022年2月から東京を皮切りに導入する新しいモデル。安定性・走行性・耐久性などについて改善を加えている(画像提供:Luup)
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Luup代表取締役社長兼CEOの岡井大輝氏は、「電動キックボードは公共交通インフラという位置付け。長距離は鉄道、中距離はタクシーを利用するように、短距離は電動キックボードを利用してもらう」と、新たな役割分担を語る。

都が2022年3月に公表した「自動運転社会を見据えた都市づくりの在り方」と題する報告書には、車道部分の歩道寄りに確保された自転車通行空間を電動キックボードが走行する場面が2030~40年代の将来イメージとして描かれる(図2)。しかも車両を借りたり返したりする拠点として現在は私有地内に確保されているシェアリングポートは、公道上に整備されている。電動キックボードが公共交通インフラの一つとして日常風景の中に溶け込んでいくという発想に立っているかのようだ。

(図2)都心部の幹線道路で2040年代に想定される将来イメージ。道路空間の再編で車道空間の一部がカーブサイド(路肩)や歩行者空間に再配分されている(出所:東京都「自動運転社会を見据えた都市づくりの在り方」)
(図2)都心部の幹線道路で2040年代に想定される将来イメージ。道路空間の再編で車道空間の一部がカーブサイド(路肩)や歩行者空間に再配分されている(出所:東京都「自動運転社会を見据えた都市づくりの在り方」)
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普及が加速すると考えられるのは、電動キックボードがまさに自転車並みに手軽なモビリティとして新たに位置付けられるようになるからだ。

乗車用ヘルメットの着用は自転車同様、努力義務

改正道路交通法では、車体の大きさや最高速度が一定の基準を満たす電動キックボードは「特定小型原動機付自転車」と位置付けられ、16歳以上は運転免許不要になる一方で16歳未満は運転禁止になる。乗車用ヘルメットの着用は努力義務。16歳以上は自転車並みの手軽さで利用できるようになる。

通行可能な空間も、自転車と法令上はそう変わらない。原則は車道や自転車道。自転車通行可能な歩道では特例的に通行が認められるが、その場合には、最高速度を一定の速度以下に制限し、それに連動した表示を行うことが求められる。

最高速度は、車道上で時速20km、歩道上で同 6kmと定められる見込みだ。時速20kmは一般的な自転車利用者の速度である時速15~20kmを基に想定されているもので、同6kmは道路交通法で歩行者と位置付けられる電動車いすの最高速度。車道や自転車道では自転車並みの速度が、歩道では歩行者並みの速度が適用されることになる。

道路交通法上の位置付けを整理するうえで基本になった考え方は、電動キックボードは車体の大きさや最高速度が自転車並みであるというもの。その考え方が、運転免許の要・不要や通行可能な空間を決める前提にもなっている。

乗車用ヘルメット着用の努力義務は、今回の道路交通法改正で自転車の運転者に新たに課されることになったことから、同様の規定を置くことになったものだ。自転車についてはこれまで保護者が児童・幼児を乗せる時に着用させることが努力義務として課されていたが、事故時の致死率低下が明白であることから、今回の改正で着用対象を全年齢層の運転者と同乗者にまで広げたのである。

電動キックボードを自転車並みの手軽さで利用できるようになるという点は、その運転者にこれまで求められてきた条件と比べるとよく分かる。

道路交通法上の位置付けは、もともとは原動機付自転車だった。運転者は16歳以上でその運転免許を持つものに限られた。しかも、乗車用ヘルメットの着用は義務付け。時速60kmで走行する大型自動車に交じって車道を通行しなければならない。とても手軽には利用できそうにない。電動キックボードでシェアリング事業を展開しても、公共交通インフラとして定着していくのは難しいのが現実だった。

普及に弾みを付けようとしたのが、先ほど紹介したLuupをはじめとするシェアリング事業者である。2019年5月にはマイクロモビリティ推進協議会を立ち上げ、協議会として、また個別事業者として、社会実装に向けた活動を展開してきた。

その一つが、産業競争力強化法に定める新事業特例制度に基づく実証実験である。この制度は、民間事業者が新事業の支障になる規制について新事業活動計画に即して特例措置の適用を求めるもの。この特例措置の適用を受けながら実証実験を重ねたことが、今回の道路交通法改正につながったと言っていい。