郊外の大規模団地にいま、企業が熱い目を向けている。民間事業者との連携強化に乗り出す都市再生機構の言葉を借りれば、団地は「リアルなつながりの場」。新ビジネスの創出に向けた模索の場にもなっているという。団地管理者、団地居住者、連携する民間事業者、それら「三方良し」の関係が、団地再生という課題に新しい道筋を示す可能性が見込める。

郊外の大規模団地に注がれる、企業の熱い視線――。それを団地再生に生かそうとするのが、大規模団地の再生支援に取り組む横浜市だ。2022年4月から6月までの約3カ月にわたり団地再生に向けた取り組みを支援する意向を持つ企業などを募集し、同年8月から大規模団地側とのマッチングを始める。

団地再生への取り組みとして市が想定するのは、(1)建物や住環境などの将来検討や整備に関すること(2)コミュニティー形成や団地の課題解決・魅力向上につながる取り組みに関すること――など。在宅勤務者の需要を取り込もうと住宅地にも登場し始めた移動販売や、高齢居住者を対象に開催するスマートフォン教室など団地のIT(情報技術)活性化などを、その支援メニュー例として示す(図1)。

(図1)大規模団地の再生に向けた取り組み支援のメニューイメージ。応募者には、無償の支援か有償の支援か、あらかじめ明確に示すことを求めている(出所:横浜市ホームページ)
(図1)大規模団地の再生に向けた取り組み支援のメニューイメージ。応募者には、無償の支援か有償の支援か、あらかじめ明確に示すことを求めている(出所:横浜市ホームページ)
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この仕組みを所管する市建築局住宅部住宅再生課担当課長の米満東一郎氏は「団地再生では、その生活拠点としての魅力を向上させ、居住者を確保し続けられる団地であることを目指している。支援メニューが、そうした魅力向上に結び付くといい」と、マッチングの成果に期待を寄せる。

マッチングまでの流れは図2に示した通り。市は「よこはま団地サポーター」への登録を申請してきた企業、大学、NPO法人のうち、認められる相手を団地サポーターとして登録。それらの情報を一般に公開したうえで、大規模団地側から相談・支援希望を受け付ける。相談・支援希望は団地サポーターに伝え、同意を得られた場合は、相談・支援を希望した大規模団地側との間で具体的な内容を協議し、実際に無償・有償での支援に乗り出してもらう。

(図2)団地再生に向けて支援を必要とする大規模団地と、支援を希望する企業、大学、NPO法人を、横浜市がマッチングする。対象団地は、複数住棟で構成されるおおむね500戸以上・築40年以上の賃貸または分譲の共同住宅。企業、大学、NPO法人は、市に登録申請し、「よこはま団地サポーター」として認められる必要がある。登録期間は登録日から3年を経過した日が属する年度の終わりまで。サポーター側から登録解除の意思表示がない限り、3年度単位で延長される(出所:横浜市ホームページ)
(図2)団地再生に向けて支援を必要とする大規模団地と、支援を希望する企業、大学、NPO法人を、横浜市がマッチングする。対象団地は、複数住棟で構成されるおおむね500戸以上・築40年以上の賃貸または分譲の共同住宅。企業、大学、NPO法人は、市に登録申請し、「よこはま団地サポーター」として認められる必要がある。登録期間は登録日から3年を経過した日が属する年度の終わりまで。サポーター側から登録解除の意思表示がない限り、3年度単位で延長される(出所:横浜市ホームページ)
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団地サポーターの支援対象にすえる大規模団地は、おおむね500戸以上・築40年以上の分譲または賃貸の共同住宅。分譲住宅28団地と賃貸住宅36団地の計64団地が市内に立地する。団地サポーターへの相談・支援希望は分譲住宅団地の管理組合や賃貸住宅団地の所有者はもとより、管理組合や所有者の承認を受けたおおむね5人以上の活動組織からも申し出ることができる仕組みだ。

2022年6月現在、企業、大学、NPO法人から団地サポーターへの登録申請は順調そうだ。米満氏は「企業や大学などからは、多くの手が挙がっている。新しい事業として取り組む意味のあるだけの規模感は、すでに得られている」と笑顔を見せる。

大学が取り組む調査・研究の場やNPO法人が展開するソーシャルビジネスの場として団地が注目されることはこれまでも少なくなかった。しかし、完成・入居から数十年経過した高経年の団地に対して、企業が新しいビジネス創出の場として目を向けることはそれほどなかった。団地の捉え方が、ここに来て大きく変わってきた。

実際、団地と民間のマッチングに取り組むことを市が決めたきっかけには、企業からの相談・問い合わせが増えてきたという現実があるという。

旅行会社から団地ツーリズムを仕掛けたいと相談

「『団地で取り組みたいことがある』と企業から声が掛かる機会が、2021年から増えた。ただ企業からすると、団地にどうアプローチすればいいか、わからない。市ではそうした企業側の思いを、団地につなげたいと考えた」と、米満氏は経緯を語る。

企業からの相談・問い合わせには例えば、旅行会社から「団地ツーリズムを仕掛けたい」という声があるという。「大規模団地であれば、居住者でも団地内の隅々までは知る機会がない。ビジネスとして成り立つかもしれないと感じた」(米満氏)。

相談・問い合わせが目立つようになった背景には、時代の流れがある。

一つは、新型コロナウイルス禍だ。「従来型のビジネス展開が難しくなってきた企業にとって、新しい事業領域の開拓は避けて通れない」と米満氏。団地で新しいビジネスの芽を模索したいという思いがあるような印象を受けるという。

もう一つは、経営課題としてSDGs(持続可能な開発目標)の達成が急速に浮上しつつあるという点だ。企業が経済価値だけでなく社会価値を問われる時代。「『団地で生活課題の解決にあたりたい』という声も聞かれる」(米満氏)という。

一方、こうした企業の思いを受け入れるメリットは団地側にも見込まれる。それは一言で言えば、団地再生に向けた取り組み支援。「老朽化・高齢化が進み行き詰まってしまう前に、再生に向けた取り組みを促したい」と米満氏。団地側に市から問題提起する狙いで団地サポーターの仕組みを創設することを決めたという。

「団地の再生に向けて課題解決や魅力向上を図ろうにも、マンパワーやノウハウの面で市が支援できることは限られる。企業、大学、NPO法人の専門性に期待したい。それらの力を借りるにはどうすればいいか、検討した結果、この仕組みに行き着いた」(米満氏)

今後注目されるのは、大規模団地側が団地サポーターの支援をどの程度受けようとするかという点だ。団地居住者の中には自らの住まいをビジネスの場とされることを敬遠する向きもあろう。分譲住宅団地では団地再生に向けた主体的な意識が醸成されていないと、団地側からの相談・支援希望にまでつながらない。

団地サポーターへの登録申請が順調な一方、大規模団地側からの反応はまだ見られないというが、米満氏は「団地再生に向けた取り組みに団地サポーターが加われば、それまでの活動に広がりが生まれる可能性も見込める。大規模団地側と団地サポーターとの間にWin-Winの関係が生まれることを願っている」と期待をにじませる。市では2022年度、団地サポーターによる支援を予算上3件と見込んでいる。

自ら保有する賃貸住宅団地の再生にやはり民間事業者との連携を役立てようとする動きもみられる。独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)が2022年5月、民間事業者との連携強化を打ち出したのである。2021年度に民間事業者と連携し実施した実証実験の成果を踏まえ、2022年5月には新たな検討調査に着手し、民間事業者とのさらなる協議・連携を進めていく予定だ。