居住者ニーズに応じた暮らし楽しむコンテンツを

実証実験は千葉県八千代市内に保有する賃貸住宅団地「八千代ゆりのき台パークシティ」で、2021年8~12月に実施した(写真1)。

(写真1)千葉県八千代市内にある「八千代ゆりのき台パークシティ」。最寄り駅は東葉高速鉄道の八千代中央駅。住戸数は800近い規模を持つ(画像提供:都市再生機構)
(写真1)千葉県八千代市内にある「八千代ゆりのき台パークシティ」。最寄り駅は東葉高速鉄道の八千代中央駅。住戸数は800近い規模を持つ(画像提供:都市再生機構)
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UR都市機構では、マルシェの企画・運営にあたる一般社団法人青空市場、フリマアプリ大手のメルカリ、飲食業支援サービスを展開するシンクロ・フード、コーヒー関連事業を展開するUCCグループ、個人・法人向けに絵本を販売・レンタルするワールドライブラリーなどと連携し、同団地内の集会所や広場などで、居住者のニーズを踏まえたイベントを開催したり、体験サービスを提供したりしてきた(写真2、写真3、写真4)。

(写真2)実証実験の一環として一般社団法人青空市場やフォーシーカンパニーと連携して開催した「東北マルシェ」。福島県鏡石町の特産物を販売したほか、同町職員や地元生産者のトークショーも開いた(画像提供:都市再生機構)
(写真2)実証実験の一環として一般社団法人青空市場やフォーシーカンパニーと連携して開催した「東北マルシェ」。福島県鏡石町の特産物を販売したほか、同町職員や地元生産者のトークショーも開いた(画像提供:都市再生機構)
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(写真3)フリマアプリ大手のメルカリとは「メルカリ教室」を開催。フリマアプリのダウンロードや出品方法を教えた。写真は、梱包の方法や写真の撮り方などについて、教室参加者からの相談に乗る「アフターサポート」の様子(画像提供:都市再生機構)
(写真3)フリマアプリ大手のメルカリとは「メルカリ教室」を開催。フリマアプリのダウンロードや出品方法を教えた。写真は、梱包の方法や写真の撮り方などについて、教室参加者からの相談に乗る「アフターサポート」の様子(画像提供:都市再生機構)
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(写真4)コーヒー関連事業を展開するUCCグループとは、グループ内の専門教育機関であるUCCコーヒーアカデミーによるコーヒー講座を開催した。参加者からは「団地内で共通の趣味を持つ知り合いができたことも大きな収穫」との声が聞かれた(画像提供:都市再生機構)
(写真4)コーヒー関連事業を展開するUCCグループとは、グループ内の専門教育機関であるUCCコーヒーアカデミーによるコーヒー講座を開催した。参加者からは「団地内で共通の趣味を持つ知り合いができたことも大きな収穫」との声が聞かれた(画像提供:都市再生機構)
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この取り組みは、UR都市機構が2020年度に初めて実施した「新規事業提案制度」で選ばれた事業企画に基づくものだ。提案者は、現在ウェルフェア総合戦略部戦略推進課主幹の赤堀圭佑氏ら3人。同じ千葉エリアで賃貸住宅団地の活性化に取り組んだ経験を踏まえ、民間事業者との連携による団地活性化という事業企画を提案した。

発想の原点を赤堀氏はこう打ち明ける。「UR賃貸住宅では住むだけでなく、暮らしを楽しんでほしい。しかし、必要なコンテンツを提供できているとは言い難い。そもそも居住者のニーズを把握できてもいなかった。そこで、ニーズを把握したうえで、それに応じたコンテンツを提供していくことを考えた」。

地元で暮らしを楽しむという視点は、新型コロナウイルス禍を背景に強まったものだ。「暮らしを楽しむにしてもこれまでは都市の中心部で楽しむというのが普通の感覚だった。ところが最近は、楽しむ場が住まいのある郊外に移ってきた。今後は住まいの存在が重視されるようになるとみていた」と、赤堀氏は振り返る。

実証実験として実施したイベントや体験サービスについては、参加者や民間事業者からの反響やUR都市機構としての事業性を検証した。

居住世帯を対象にアンケート調査を実施したところ、「活性化に寄与している」「今後も続けてほしい」という回答が回答者の9割以上から得られた。一方、連携した民間事業者からは、商業地域やオンラインでは確保できない「新しい顧客への接点」や「リアルなコミュニティーとの接点」などが得られたとする声が上がったという。多くの居住者との「リアルなつながりの場」を確保できるという団地の特性が高く評価されたのである。

事業性は投資回収の見通しで評価した。収入としては、(1)民間事業者からのフィー(2)自ら主催するイベント・体験サービスと違って支出を伴わないことによる見かけ上の収入(3)活性化の恩恵としての将来の家賃収入増――などを見込む。一方、支出としては例えば、情報発信用のデジタルサイネージの設置などデジタル投資が挙げられる。

スモールスタートで民間との連携のあり方を模索

新規事業提案制度の事務局として実証実験を担当したアセット戦略推進部民間連携課で課長を務める小林弘幸氏は「検証の結果、事業開始から5年目以降で収益化は可能という評価だった。2021年12月には次のステップに進む承認を得た」と、実証実験の成果を語る。次のステップとして2022年5月に着手した新たな検討調査は、小林氏に言わせれば「スモールスタート」。事業開始前の試行は、まだ続く。

この試行段階では、実証実験の舞台である八千代ゆりのき台パークシティのほか、同じエリア内に立地する八千代ゆりのき台ライフタワーで、毎月1~2回の頻度で週末に東北地方の観光PRや名産品試食などのイベントを開催したり体験サービスを提供したりする。スモールスタートの取り組みは2022年7月以降、同じ八千代市内の1団地でも開始し、さらに2団地をめどに全国に広げていく予定だ。

この段階で連携する民間事業者は、実証実験で連携した事業者をベースに幅広く募っていく方針だ。「住戸が数多く集積し、共用部が確保され、UR都市機構という管理者がいることで、そこが『リアルなつながりの場』となり得るのが、UR賃貸住宅の強み。そのUR賃貸住宅で付加価値を一緒に生み出していこうとする民間事業者と連携し、団地活性化とビジネスの両輪を回していきたい」(赤堀氏)。

付加価値を生み出せた一例として挙げるのは、青空市場やコミュニティーの開発・運営を手掛けるフォーシーカンパニーと連携して2021年10月に開催した「東北マルシェ」だ。このイベントでは福島県鏡石町の特産物を販売するだけでなく、同町職員や地元生産者のトークショーを開催し、地域おこしにもつなげた。

赤堀氏は「マルシェは居住者への事前のニーズ調査で一番人気。ただ、単発ではない企画にしようと民間事業者と検討した末、トークショーの開催を決めた」と、企画の経緯を明かす。

試行段階での検討課題は、民間事業者との連携のあり方だ。一つは、新しいビジネスの場を民間事業者に提供するだけにとどまらない連携のあり方を模索する必要があるということ。「民間事業者が自社商品の販売拡大に結び付けたいだけでは、居住者から不満が出かねない。適切な連携のあり方を見極める必要がある」(赤堀氏)。

また、事業収入として見込むフィーの設定も、課題の一つ。これら検討課題の先には、民間事業者との連携に事業として乗り出す時に必要となる公募ルールづくりを見すえる。

団地の活性化・再生とは、ハード・ソフトの両面で団地に多様な価値を新しく生み出し、その持続可能性を向上させることと言える。そうした価値創出を図ろうとする時、大学やNPO法人だけでなく、企業が果たせる役割も大きい。横浜市のよこはま団地サポーターやUR都市機構の民間事業者との連携強化という、団地の活性化・再生を支援する側の取り組みが、支援を受ける団地側にどう響くのか――。今後の展開を注視したい。