杜の都の「個性」を生かし、「イノベーション」や「新たなにぎわい」を生み出そう、と仙台市が中心部の再構築に乗り出した。一方、中心部の活性化へ市と連携協定を交わすNTTグループは、次世代放射光施設との連携を目玉とする「仙台エコシステム」の構築を目指し、ビル開発を進める。支店経済都市・仙台は、独自の経済圏を新たに形作れるのか。

仙台市の中心部ではこの10年、賃貸オフィスビルの供給が限られていた。比較的大型のビルと言えば、JR東日本が2021年2月、JR仙台駅東口に開業したJR仙台イーストゲートビルくらいなもの。延べ床面積は約2万5600m2だ。

そこに新たに、大型オフィスビルが加わろうとしている。NTT都市開発が中心部の一角に建設中のアーバンネット仙台中央ビルである(写真1、図1)。

(写真1)アーバンネット仙台中央ビルの建設現場。敷地左手、道路を隔てた向かい側の一角に仙台銀座商店街が位置する。仙台朝市商店街は、この道路を奥に進んだ先に広がる(写真:茂木俊輔)
(写真1)アーバンネット仙台中央ビルの建設現場。敷地左手、道路を隔てた向かい側の一角に仙台銀座商店街が位置する。仙台朝市商店街は、この道路を奥に進んだ先に広がる(写真:茂木俊輔)
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(図1)アーバンネット仙台中央ビルの外観パース。地上19階・地下1階で免震構造を採用した(資料提供:NTT都市開発)
(図1)アーバンネット仙台中央ビルの外観パース。地上19階・地下1階で免震構造を採用した(資料提供:NTT都市開発)
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延べ床面積は約4万2000m2。地上1階から同4階までをオフィスサポートフロア、同5階以上を賃貸オフィスで構成する(図2)。完成は2023年11月を見込む。

(図2)アーバンネット仙台中央ビルのフロア構成。5階以上のフロアは最小99m2まで分割可能(資料提供:NTT都市開発)
(図2)アーバンネット仙台中央ビルのフロア構成。5階以上のフロアは最小99m2まで分割可能(資料提供:NTT都市開発)
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ニッセイ基礎研究所が公表する「主要都市のオフィス成約賃料」を見ると、仙台はここ5年ほど、大阪、福岡、名古屋、札幌の各市に大きく水を開けられている。建築工事費が上がる中、賃貸オフィスは投資先として決して優位ではない。実際、中心部を歩くと、新しく供給されたビルには、分譲マンションやホテルが目立つ。

そうした事業環境下での大型ビル開発。NTTグループではどのような判断を下したのか。NTTアーバンソリューションズ街づくり推進本部プロジェクト推進部担当部長で建築主であるNTT都市開発開発本部開発推進部担当部長の仁藤貴之氏はこう明かす。

「事業性を検討する段階ではホテル事業も視野に入れていた。しかし都市としての競争力を高めていくことを考えると、乗り出すべきはホテル事業ではない。むしろ地域資源を活用し、仙台独自の産業振興を図るべき、と考えた」

原点には、NTTアーバンソリューションズで取り組むべき「まちづくり」とはどのようなものなのか、という理念がある。

仁藤氏によれば、グループの資産であるビルを建て替えるにしても、地域の歴史や文化などを踏まえ、地域との連携関係の下で、地域に対する貢献を考えることが欠かせないという。「そこにNTTグループのICT(情報通信技術)を組み合わせ、都市としての価値を最大限に高める――。それが、私たちの役割だ」。

仙台の地域資源としていま注目するのは、東北大学青葉山新キャンパス内に官民協働で整備中の次世代放射光施設「NanoTerasu(ナノテラス)」である。

放射光施設とは、放射光と呼ばれる電磁波を用いて物質の構造や機能などを「ナノ(10億分の1)」レベルで「見える化」する施設。学術研究や産業利用に活用される。国内の既存施設としては、兵庫県の播磨科学公園都市にある「SPring-8」が知られる。

産業利用で期待されるのは、放射光の特性に基づく強みやメリットを生かした研究力の強化と生産性の向上だ。海外の放射光施設との性能差は大きいと言われるが、運用開始によって一挙に形勢逆転を図る。本格運用は2024年度以降の見通しだ。

建て替え更新が進まず、復興需要にも落ち着き

可能性が見込める分野として仁藤氏が挙げるのは、例えば素材開発。「新しい素材産業の掘り起こしに可能性を感じる。『ナノテラス』の産業利用を通して仙台特有の経済圏をつくることに貢献していきたい」。

「ナノテラス」の産業利用には、地元行政である仙台市も大きな期待を寄せる。その裏には、仙台経済への危機感がある。

冒頭で紹介したように、仙台中心部ではこの10年、賃貸オフィスビルの供給が限られてきた。それはつまり、ビルの建て替え更新が進んでいないということ。市都市整備局の調べによれば、中心部の容積率500%以上の商業地域で旧耐震基準が適用されていた時代に建築されたビルは、棟数ベースで全体の約4割を占めるという(図3)。

(図3)中心部商業地域(容積率500%以上)のオフィスビル建築年次分布。旧耐震基準の時代に建設されたものが約4割(出所:仙台市都市整備局資料)
(図3)中心部商業地域(容積率500%以上)のオフィスビル建築年次分布。旧耐震基準の時代に建設されたものが約4割(出所:仙台市都市整備局資料)
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それが、仙台経済にとってはマイナス材料という。仙台市まちづくり政策局政策企画部政策企画課政策企画係長の鹿中律良氏は「古いビルは競争力が低下し、良質なテナントを確保できない。それが、経済の停滞を生み、ビルの建て替え更新をさらに妨げる、という悪循環を招きかねない」と問題視する。

鹿中氏がもう一つ懸念するのは、復興需要の落ち着きだ。市内総生産(GDP)の推移を見ると、2011年度以降、復興需要に支えられた建設業の伸びが目立つ(図4)。「それだけに、震災復興が終われば、GDPは落ち込むことになる。新しい産業を生み出さないと、GDPの水準を維持することはできない」(鹿中氏)。

(図4)主な経済活動別市内総生産の推移。2011年度以降は、震災復興需要に支えられた建設業の伸びが著しいことが分かる(出所:「平成27年度仙台市の市民経済計算」)
(図4)主な経済活動別市内総生産の推移。2011年度以降は、震災復興需要に支えられた建設業の伸びが著しいことが分かる(出所:「平成27年度仙台市の市民経済計算」)
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市はこうした危機感を背景に2019年7月、「せんだい都心再構築プロジェクト」を打ち出す。老朽建築物の更新やオフィスの供給を促す一方で、新オフィスへの企業誘致を支援し、域内への投資促進を図ることで、「イノベーション」「新たなにぎわい」「個性」の3つに象徴される都心の将来イメージを実現しようとするものだ(図5)。

(図5)仙台市が2019年7月に打ち出した「せんだい都心再構築プロジェクト」で目指す中心部の将来イメージとその実現に向けた取り組み(資料提供:仙台市)
(図5)仙台市が2019年7月に打ち出した「せんだい都心再構築プロジェクト」で目指す中心部の将来イメージとその実現に向けた取り組み(資料提供:仙台市)
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同時に打ち出した第一弾施策では、老朽建築物の建て替え促進に主眼を置いた。施策の一つは、老朽建築物の解体工事期間における助成制度や高機能オフィスの整備に伴う助成制度の創設。もう一つは、高機能オフィスの整備に着目した容積率の緩和措置だ。これらの施策はともに、時限措置。2019年10月から2024年3月までの間に、助成対象事業として指定を受けたり事前協議を経たうえで具体の計画を届け出たりする必要がある。

市はその後2020年10月には、第二弾施策を打ち出した。雇用創出や産業集積の加速化を図る施策と環境配慮型の建築物であるグリーンビルディングの整備を促すことで、「杜の都」というブランド力の向上を図る施策である。