AIが行動特性を学習し行動提案

混雑緩和を図る技術開発はほかにもある。混雑分散化に役立つ誘導プランの実効性を高めようとするのが、富士通研究所の混雑マネジメント技術である。富士通が2014年10月、シンガポール科学技術庁やシンガポールマネジメント大学とシンガポールに先端研究組織を設立したのを背景に、同研究所では15年11月から現地で実証実験に取り組む。

ここでは、クラウド上に収集した既存の交通運行データを基に駅・時刻ごとの混雑状況を予測したうえで、その混雑を悪化させないようにするには、どの駅・どの時間帯に何人程度までなら誘導できるかを把握。その枠内に納まるように人を誘導していく(図3)。

(図3)混雑マネジメント技術では、人の行動特性に合わせて行動提案し、交通機関で受け入れ可能な時間帯にその人を誘導することで、混雑分散化を図る(画像提供:富士通研究所)

誘導に用いるのは、スマートフォンへの行動提案だ。そこでは、店舗のクーポンを提供し、そこに立ち寄ることを促したり、別の交通手段を用いることを勧めたりする。

この技術のポイントは、行動提案を受け入れる人が増えて混雑分散化が実現するように、クラウド上に搭載した混雑マネジメントAIが行動特性を学習し、その人が受け入れやすく、しかも混雑分散化に役立つ行動を提案する点だ(図4)。

(図4)アプリでの行動提案では、その人が受け入れやすい行動の中から混雑分散化に役立つものを貢献度の高い順に抜き出している(画像提供:富士通研究所)

行動特性は、3つの視点で見ている。一つは、交通利用時に混雑をどの程度我慢できるか。さらに、混雑回避にどの程度時間を使えるか。そして、別の交通手段を用いる場合にはどの程度の料金までなら許容できるか、である。

「提案を受け入れた人が実際に店舗に立ち寄ったかはスマホを通じたその人の位置情報から、そこでクーポンを使用したかは店員がスマホ画面をタッチしたり店舗でQRコードをかざしたりすることから分かる仕組み」。富士通研究所ソーシャルイノベーション研究所イノベーションディレクターの阿南泰三氏は解説する。

混雑分散化だけでなく「送客」も

シンガポールでの実証実験に用いたのは、ショッピングモールを併設したスポーツ施設やコンベンション施設。そこを訪れた500~600人規模の参加者にスマホの専用アプリを配布し、イベント終了時にはそのアプリを通じて、クーポンを利用できる店舗への立ち寄りや別の交通手段の利用を提案した。

その結果、参加者の40%は混雑分散化に役立つ行動提案を受け入れ、モール内の店舗に立ち寄った平均時間は75分に達した。阿南氏は「実証実験に先立って実施した事前検証の結果を踏まえると、行動提案を受け入れた割合は低いものの店舗への立ち寄り時間は長い。ただそれらは、イベントの内容によっても異なる」と、評価には慎重だ。

当然のことながら、すべての人が行動提案を受け入れることまで狙っているわけではない。「混雑マネジメント技術はあくまで、マスとしての混雑分散化を図るもの。混雑緩和率で言えば、20~30%程度を目指している」(阿南氏)。

実証実験では今後、参加者の人数規模を引き上げていきたいという。「理想は1万人規模だが、施設を来訪したその日だけのために実証実験用のアプリをダウンロードするのかという課題がある。そこでいま、ショッピングンモールで提供するアプリに組み込めないか、モール側と交渉している」。阿南氏はそう明かす。

混雑マネジメント技術の本質は、AI技術を活用した人の行動誘導にあると言える。それだけに、NECの混雑予測技術と同じように、ビジネス展開は多岐にわたりそうだ。「大規模イベント時の混雑分散化だけでなく、店舗に顧客を送り込む『送客』という利用も想定している」。阿南氏は可能性を指摘する。

都市の混雑に働き掛ける技術――。その展開可能性は案外広いのかもしれない。