IoTやスマートホームの隆盛とともに、スマートロックは単なる「スマホで操作する電子錠」を超え、生活空間あるいは生活シーンと各種のサービスを結びつけるゲートウエイになろうとしている。そういう考え方を先導しているのが、ベンチャー企業「tsumug(ツムグ)」である。同社は2017年、LTE通信機能を持つ「TiNK(ティンク)」を発表。次世代型スマートロックの扉を開いた。tsumugの牧田恵里社長が見つめる“鍵の未来”を聞いた。

――「TiNK」はLTE通信機能を持ち、さまざまなサービスとつながる「CONNECTED LOCK(コネクティッド・ロック)」を標榜しています。この発想はどこから生まれたのでしょうか。

今、私たちはスマートフォンの画面だけでアプリを使っていますが、人と人が対面するリアルな世界でその便利さを享受できるIoTプロダクトを作ってみたいと思ったんです。言うなれば自分たちの生活に密着する感覚です。IoTのセンシングからどんなフィードバックが得られ、それによってどれだけ自分たちの生活が豊かになるのか――それを形にしたいと思ったのがきっかけです。

――TiNKの紹介動画では、宅内配達、不在時家事代行、玄関集荷などとの連携を予定しています。鍵が生活空間と各種生活支援サービスのゲートウエイとなっているイメージです。

1人暮らしの場合、確実に宅配便の荷物を受け取るためにはわざわざ家にいなくてはいけませんよね。許可された第三者が鍵をコントロールしてその時間を代替してくれるのであれば、こんなに素敵なサービスはありません。これはすべてのことに言えます。これまで、ある理由のために拘束されていた自分の時間が自由になれば“ほかのやりたいこと”に時間を使えるようになるわけです。

宅内配達サービスや不在時家事代行サービスを視野に入れる(TiNKの紹介動画より)

――同様のサービスを米Amazon.comが「Amazon Key」で開始しました。知らない人が家に入ってくる怖さも指摘されていますが、今後こうした流れは広がっていくのでしょうか。

鍵を起点としたこのようなサービスは広がっていくと思います。発表した途端、Amazon Keyの紹介動画には「誰が入るかわからないなんて気持ち悪い」「最悪のサービス」といったコメントが並びましたが、それを見たとき、かつてのAirbnbやUberと同じ空気を感じ取ったんです。あの2つも最初は批判が多かったのに、今ではなくてはならないサービスになりましたよね。

試しに使ってみて、「こんなに便利なんだ」「今までにない経験をもたらしてくれる」といった声が重なれば、心理的な障壁は解消されるはずです。それを信じて突き詰めていきたいのです。いずれにしろ私たちはTiNKにAfero(アフェロ)と呼ばれるIoTプラットフォームを組み込んで、ハッキングされない仕組みを採用しています。

TiNKは室外(上)、室内(下)のセット。従来のドアロックに取り付けて運用する。操作の簡便性にも配慮した

――そう考えるとスマートロックの可能性もぐんと広がります。

そうですね。ずっとシェアリングエコノミーに興味があって、鍵に通信機能を搭載しようと考えたときに民泊や集合住宅の電子錠だけでなく、そこに付随するさまざまなサービスを提供できると思い立ったんです。Wi−Fiなどと違ってユーザーがわざわざ設定しなくてもインターネットにつながるように、LTEをTiNKに採用したのはそうした理由からです。

ですから、最初にプロダクトに付けた名前は「シェアリングキー」でした。この鍵を一つ持っていれば、賃貸住宅はもちろん、貸し倉庫だったり、ロッカーだったり、生活に関わるいろんなものにアクセスできる、というコンセプトです。そして日本だけではなく、海外でも同じサービスを受けられることが理想です。