スポーツ中継を激変させる可能性を秘めた技術

心拍という目に見えないものを、直接接触することなく正確に測定するための肝となるのが、パナソニック独自のフィルタ処理・ノイズ除去技術である。映像に含まれる原信号には、対象者の動きや光の当たり具合で肌の色が変わるなど不安定な要素や、カメラ自体の持つノイズなど余計な情報が含まれている。そこから脈波とノイズを選り分け、脈波のみを正確に抽出して心拍測定につなげる技術は、映像機器の開発に長年携わってきたパナソニックならではだろう。また、近年目覚ましい進化を見せる4Kカメラなどの高解像度を誇る機器も、より精緻な映像分析を後押しした。

とはいえ現状では、絶え間なく激しい動作を伴ったり、集団でフィールドを駆け巡るようなスポーツへの適用はまだ難しい。その点でも、ゴルフは最初に選ばれるだけの理由があった。ゴルフは静止場面が多く、対象者の動きをとらえやすい。測定に必要な顔が防具で隠れる心配もない。さらに、集中力やメンタルタフネスなどの精神面が大きく影響することから、心拍数を表示し集中度合いやストレスのかかり具合を推測する技術との相性もよい。

(左)カメラが測定した映像に映る、プレイヤーの血管の収縮によって生じる肌の色の微妙な変化から、心拍数をリアルタイムに推定
(右)ショット/パットの緊張感や心の乱れを露出

しかしプレイヤー心理としては、これまで表に出てこなかった内面が数値化されることに抵抗を感じはしないだろうか?この点については、「プレイヤーにとってもメリットはある」と冨田課長は語る。

「たとえば平常時と試合での心拍数を比較して練習にフィードバックしたり、トレーニングで負荷を正確にかけられているかを心拍数で確認するなどの活用法が考えられます。実験に参加したプロゴルファーたちからは、『どういう場面で心拍数が上下するかは自分でもわからないだけに、数値で見ることができて今後の参考になった』と好評でした」(冨田課長)

この中継は、視聴者からも「ゴルフを初めておもしろいと思った」「見慣れたゴルフ中継が斬新に感じられた」などと大きな反響があったという。従来のゴルフ中継が非接触バイタルセンシングの技術によって、プレイ中の映像に対応して心拍数が表示されることにより、ショットの緊迫感や心理的な駆け引きを可視化させ、視聴者に臨場感を抱かせることに成功したのである。

スポーツ文化の発展と市場の拡大を願って

このようにパナソニックがスポーツ中継にこだわる理由は、スポーツをもっと盛り上げたいという強い意欲にある。2020年の東京オリンピック・パラリンピックではTOPスポンサーを務め、2017年4月にはスポーツ事業推進部を発足させるなど、スポーツ文化とビジネスへの取り組みを強化し続けている。


「特に強みとする映像解析技術に注力し、プレイヤーには効率的なトレーニングへの、視聴者にはよりエンターテインメント性に富んだスポーツ中継へのフィードバックという形で、貢献していきたいと考えています」(冨田課長)

スポーツ中継の娯楽性がより高まり、観戦者の裾野を広げられれば、将来的なスポーツ人口の増加につながる。スポーツ人口が増えれば競技レベルも底上げされ、日本のスポーツ力を大きくアップさせることができる。

また、スポーツビジネスの観点で見れば、海外諸国に比べて市場規模の小ささを指摘される日本だが、そのぶん今後の市場拡大への期待は大きい。


まだ若い技術である非接触バイタルセンシング技術について、パナソニックは「詳細は明らかにできない」とするが、今後はより深く、細分化されて活用の場を広げることは間違いないだろう。動きの激しい競技や集団スポーツ、心理的要素の強いゲーム、医療・健康分野への応用など、そこには限りない可能性が広がっている。

非接触バイタルセンシング技術はスポーツ中継を、そして私たちの暮らしを一変させるポテンシャルを秘めている。来たる2020年、私たちはこれまでとはまったく違うオリンピック・パラリンピック中継を目の当たりにするかもしれない。