AIを活用し膨大な実験データを解析
個人差に左右されない眠気コントロール

楠亀氏が手がけるのは、眠気の検知、予測、そして制御に関わる車載システム。カメラと赤外線アレイセンサ、環境センサーを組み合わせ、ドライバーの無自覚な眠気までを読み取り、その眠気がどのように進行するかを予測する。眠気が進むと判断した場合は、空調や音楽などでさりげなくドライバーを覚醒させ、安全な走行をサポート。運転に支障をきたす場合は、近隣の休憩できる場所へとナビゲーションする機能も搭載した。リストバンドなどのウエアラブルセンサを装着する必要のない、非接触の検知・予測技術に注目が集まっている。

「眠気の検知精度を高めるためには、個人差を取り除くことが重要でした。まばたきの速度や頻度、口の動きなど、眠気の進行とともに現れる特徴を精査し、AIに学習させ、個人依存性のないアルゴリズムを完成させたことが大きな特徴です」。

実際のデモ機。まばたきや口の動き、放熱量を測るだけでなく、長時間閉眼が続くとアラートも表示される。

精緻な検知に加え、開発にあたって苦労したのは、予測の機能。事故の予防は早いに越したことはない。ただし前例が無いチャレンジでもあり、着想から具現化するまでには様々な苦労があったという。

「一般的にやや暖かい環境にいると眠気の進行は早くなりますが、これは着衣の影響も大きい。室温の計測だけでは眠気の進行を予測できません。この問題を解決したのが、放熱量への着目。人体から放出される熱量は、着衣の影響を受けないんですね。放熱量の計測によって、その人がどれだけ暖かさを感じているかを検知できる。このことに気づいたときは鳥肌が立ちました」。

放熱量を赤外線アレイセンサで解析することで、眠気が15分後、30分後にどのように進行していくかが予測できる。また、環境センサでは車内の明るさをウォッチ。明るいところでは人は眠気を感じにくいという特性を利用し、予測に役立てている。

パナソニック眠気検知・予測技術~車載向けデモンストレーション

家電で培ったノウハウを新たなフィールドで実装

眠気の予測が可能になったことで、ドライバーが自覚する前から眠気の進行を抑えるアプローチができる点も画期的だ。強い振動や激しい刺激を用いることなく、冷風や音楽などで心地よく覚醒に導く。車内のCO2濃度をコントロールすることによって、眠気の抑制効果を高めることも検討しているという。

「さまざまな機能と連携させ、効果的な覚醒をもたらすことが今後の課題。現時点で、音楽によって眠気を抑制する機能を入れていますが、人によって眠気を誘う音楽、テンションが上がる音楽も違います。モニタリングデータを蓄積することで、ユーザーの覚醒レベルと音楽との関係を学習し、状況に合わせた音楽を流す、といったことも可能でしょう。また、カーナビシステムと連動して、少々遠回りでも明るい道を案内する、といったこともできる。いろいろな手法を検討し、進化させていきたいと考えています」

最新のセンシング技術と、家電で培った技術を組み合わせることによっても、今までになかった新しい価値が生まれようとしている。

「エアコンや照明、さらには音響技術の開発によって蓄積された知見が、今回のシステム開発にも生きています。もともと私自身がエアコンの開発に携わっていたこともあり、ジャンルを飛び越えた発想で技術を応用することができた。ある分野で確立されている技術が、他分野では革新をもたらしうる。社内で知見を共有し、住宅から車へ、車からオフィスや公共の場へと、フレキシブルに技術を応用できています。これは家電だけでなくBtoB事業も行うパナソニックならではの開発力と自負しています」。

この技術は昨今巷で注目を集める「働き方改革」にも寄与するだろう。たとえば、社員の集中度をアップし、生産性を向上させるオフィス環境づくりに向け、センサーで従業員の眠気や集中度を計測し、照明や空調によってその状態を適切にコントロールするといった仕掛けも考えられるのではないだろうか。

心地よい社会の実現を目指して、様々なフィールドでの活用が期待される

また一方で、いずれ確立されるであろう完全自動運転、そしてそれがもたらすライフスタイルの変化にも思いを馳せる。

「完全自動運転が実現すれば、ドライバーは乗客になる。また排気が出ない電気自動車が普及して、室内に車を停めるのが一般的になる可能性もある。そうなると、自動車はより運転スペースから生活スペースへと変わっていきます。その環境に求められる技術の開発にも積極的に取り組んでいきたいですね。将来は、自動車が、映像や音楽の視聴空間としても活用されるかもしれない。センシング技術を搭載することで、感情をリセットする個人空間として使われる可能性もあるでしょう。安全性の向上、快適性の向上、どちらにも寄与できる技術開発を進めていきます」

自動運転時代、人と自動車との関わりは想像以上に広く、多彩になっていくのかもしれない。その根底にある安全・安心な運転を支える技術が、今日も一歩一歩実用化への道を歩んでいる。





眠気をはじめ、人のさまざまな体調や、感情までもセンシングする技術。
「ドライバー眠気対策ソリューション」の詳細や応用例がここにある。

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