日本の技術に対するプライドは素晴らしい

徳島阿波おどり空港は、徳島市の北東に位置する徳島県の空の玄関口だ。徳島・東京(羽田)間、徳島・福岡間の定期便を運航し、2018年1月には国際線ターミナルを増築。現在は台湾チャーター便などに利用されているが、将来的には国際線の定期就航を視野に入れている。

徳島阿波おどり空港

コンパクトながら国内大手航空会社の定期的なフライトがあり、いずれはインバウンドへの対応も目指す。こうした背景も、実証実験の場に選ばれた理由の1つだ。また徳島阿波おどり空港と新明和工業との関係は古く、以前から航空機のドアの1メートル手前まで自動で移動する新明和工業製のPBBを採用していたため、最初に提案があったときは歓迎したという。空港施設を運営する徳島空港ビルで、専務取締役を務める露口泰弘氏は当時をこう振り返る。

「最初に新明和さんからうちの空港でデータを収集させてほしいと依頼があったとき、それまでの信頼関係もありましたので、ぜひ取り組んでほしいと答えました。ただ初めての試みですし、万が一、航空機に接触するリスクがあることを考えると空港ビル会社、航空会社、地上業務受託会社、新明和さんとの4社合意、それに監督官庁への届け出が必須になります。当社がPBB所有者でもあることから、関係者との調整に当たりましたが、幸いにも航空会社、官庁などとの調整もスムーズにいきました。これも、相互の信頼関係のうえに、この自動化の実証実験に対する先進的な思いが皆さんにもあったおかげだと思います」

徳島空港ビル株式会社
専務取締役
露口 泰弘氏

実験は運航終了後の夜間に行われた。平均して数時間、ときには真夜中の2時、3時までおよぶこともあった。「でも彼らはくたびれた顔をまったく見せないんです。技術に関しては一切妥協しない。あの姿を見ると、日本の技術に対する“思い”はまだまだ素晴らしいものがあると感じました」(露口氏)

PBBが10センチまで近づく技術の裏には、パナソニックのディープラーニングによるAI処理が採用されている。SFが大好きだという露口氏は「もはやAIが人の生活の中に入ってくるのは当然だと思っていました」と述べ、AIが空港運営のさまざまな課題解決の突破口になることを期待している。

「PBBの操作は、熟練者と経験の浅い技術者では装着時間にどうしても差が出てしまいます。そこで遅れることなく定時運航を維持できること、そして信頼できる機能でヒューマンエラーを防げることは非常に大きなメリットになっています。それ以外でも、空港の地上職は本当にハードな仕事です。ますます業務が煩雑化していきますし、資格を取るための研修も受けなければならない。スタッフも高齢化して、今後は労働人口の減少で人を採用することも難しくなってくる。だからこそ今回のように、AIを導入してもっともっと働くスタッフをアシストしてくれるシステムを開発してほしいと思います。高齢者でも女性でも長くたくましく働ける、そんな仕組みが理想ですね」(露口氏)

航空旅客搭乗橋自動装着システム概要(提供:新明和工業)

誰がやっても同じ時間で同じポイントまで持っていけるのが最大の利点

実験用の機体は日本航空と全日空が、PBBのオペレーションはエアトラベル徳島が協力した。エアトラベル徳島 取締役(空港担当) 池田義人氏は、空港業務を取り巻く状況をこのように語る。

「ここ数年、急激に人材確保が難しくなってきました。以前は募集をかけるとすぐに応募があったのですが…。いろんな手段を使って人を集めてはいますが、非常に苦労しているのが現状です」

株式会社エアトラベル徳島
取締役(空港担当)
池田 義人氏

それゆえ、池田氏は今回の自動化を「自然の流れ。これから効率化はさらに加速するでしょう」と話す。日本航空 徳島空港所 所長 神永直也氏も同様に「IT、AI、顔認証など、新しいテクノロジーを使いながらスマートな空港を目指して発展していく必要があります」との見方を示している。

日本航空株式会社
徳島空港所
所長
神永 直也氏

PBBは、これまでも航空機の1メートル手前までは、予め決めている場所まで自動で近づいていたわけだが、航空機はいつも同じ場所に停止するわけではないため、その後はジョイスティックを使って繊細な調整が必要であった。その微調整で熟練と若手の差が生じたり、天候の影響を受けて装着の時間差が出てしまうこともあった。

だが、自動装着システムを搭載したPBBを実際にオペレーションした若いスタッフからは「緊張感が緩和され、エラーを起こす心配がなくなった。安心感がある」と非常に好意的な感想が寄せられている。「あの大きなPBBをカメラとAIが特定の場所寸前まで近づける様を見たときは感動しました。どんな天候でも、誰がやっても同じ時間で同じポイントまで持っていけることから、タクトタイム通りの運航が可能になりました。これが最大の利点です」(池田氏)

実は、PBB装着の“ほぼ完全自動化”を実運用する試みは世界初なのだという。「世界で初めての取り組みを基幹空港ではなく、いちローカルの徳島阿波おどり空港から発信するのは非常に意味があるなと。それも大きなモチベーションになりました」(池田氏)。この地道なトライは新聞などでも取り上げられ、情報をキャッチして成田国際空港やチャンギ空港、国土交通省からも視察に訪れた。その成果が前述した成田国際空港・チャンギ空港への導入につながっている。

「成田国際空港では、第2ターミナル 64番スポットに当該システムを導入すると伺っています。ここは日本航空の主要路線で使用する重要なスポットである事から新明和さん、パナソニックさんの技術が活用され、徳島阿波おどり空港と同様のモデルパターンにつながる事を願っています」もちろん、何もかもが自動化になるわけではないが、安全を担保したうえで、人にしかできないこととAIや機械に任せられることを上手く切り分けることで人の手が空き、業務内容の幅が広がることになる。「今回の例では、熟練の技能がなくてもPBBの操作ができるようになりました。そこで人的リソースが浮くわけですから、サービスの充実や新たな展開が可能となると考えます」(神永氏)

後編では、これらの思いをかなえるため、新明和工業とパナソニックがどのようなトライを重ねてきたかをじっくりと解き明かしていく。

後編はこちら