未来を見据えた世界観の提示で意識を変えていく

電子化によって得られる恩恵は大きい。来場者は入場時や購入時の混雑をスマート化でき、スタジアム内行動の利便性が向上する。運営者・主催者は来場者の属性をはじめ、その人たちがスタジアム内でどのような行動を取っているのかを把握した上で、観客への新たなサービス提供や、スポンサー獲得の営業活動につなげられる。スポンサーは提供された情報をもとに攻めのマーケティングができるようになる。さらに本プラットフォームでは収集データを活用した地域連携ソリューションも想定しており、スタジアム周辺の活性化までをも視野に入れる。

当日の入場予定者数は3万人。実証実験としてはかなりの規模となるが、多田羅氏は本番を意識することが重要だったと話す。

「ぴあとの話し合いを重ねる中で、100人単位の小さな取り組みでは本来目指すべき世界観を提示しきれないとの結論に至りました。その結果、 “電子化によってスタジアムはここまで進化できるのではないか”とのアイデアが次々と生まれました。先ほどのアクティビティ情報などはその好例ですし、国際的に流通しているクレジットカードのタッチ決済を導入したのも今後増えるだろうインバウンドを見据えたものです」(多田羅氏)

議論の中では、ぴあが蓄積した現場ならではのノウハウも役立った。大下本氏によれば、会場が大きくなればなるほど「オンラインとともにオフラインでのオペレーションを意識しなくてはならない」という。「我々の観点では、すべてをオンラインで処理すれば劇的な効率化が図れると考えがちですが、3万人が入場したら通信は不安定になることが想定されます。そのときにも対処できるソフトウエアを作るべきだと教えてもらいました」(多田羅氏)

一方、パナソニックは総合力によってソリューションをカバーした。大下本氏は「スタジアムサービスプラットフォームの利点は、チケットの購入・入場とスタジアム内での行動・購買履歴がワンストップで収集できること。分断的なソリューションはほかにもありますが、ここまで横断的にできるサービスはありません」と大きな信頼を寄せる。

ICやQRコード、リストバンドなどで発行されたチケットの情報を 「タフブック」1台で読み取り可能

ベースが完成すれば可能性は拡大する。多田羅氏は「リアルタイムでの座席アップグレードも夢ではない」とし、大下本氏は「キリ番で入場されたお客様にプレゼントを渡すことなどが簡単にできるようになり、入場時のサービスオプションが増えます」と具体的な体験価値向上を挙げる。当初は2020年の本格提供を目指していたが、今回の実証実験が成功すれば前倒しして進めたい構えだ。そして両者は、チケッティングの電子化がもたらす未来にこのような思いを馳せる。

「来場者のみなさんも、すべて電子チケットで入場すれば何となくメリットがあることは想像がつくはずです。電車の改札が紙の切符からICカードに変わったように、主催者側が“こういう世界観を提供したい”というビジョンと運用をセットで提供していくことが大事だと思います。例えば入場ゲートを徐々にデジタル専用にしていけば、意識も変わってくるでしょう。

電子化の比率を向上することで、来場者の満足度が高まり、運営者・主催者の負担が軽減され、スポンサーはこれまでにはなかった貴重なデータを入手できます。この3者の関係がWin-Winで回っていくような仕組みを完成させることが理想です」(多田羅氏)

「このプラットフォームを活用して、1人でも多くのお客様が会場に足を運んでくれたり、場内でアクションを起こしてくれたりすれば、スポーツ業界が活性化します。ただし、電子化そのものがゴールではなく、重要なのはここから先のデータの活用法。これを効果的に活かすことで新たな事業が生まれてくると信じています」(大下本氏)

多数の人が押し寄せるスタジアムのダイナミズムを相手に、テクノロジーがどこまで健闘するのか。来場者は、もう1つのイベントにもぜひ注目してみてほしい。