綿密な検討を重ねながら、“新幹線初”の装置が完成

JR東海が求めたのは、ブラシを押し付けながら研ぐ、フォースコントロールと呼ばれる技術を元にしたものだ。だが、実質的にフォースコントロールで均一に研げるのは平面などの一定条件に限られるため、そこにスパイスを加えてカスタマイズする必要があった。

JR東海浜松工場に導入された先頭車研ぎ装置

「曲面に対してすべて均一になるように研ごうとすると、通常のブラシではムラができてしまいます。そこで先端に付いているブラシの形状を変え、曲面でもコントロールできるようにしました。ブラシの形状は研ぎの圧力・トルク・速度に対応できるものとし、研ぎ用の薬品も当社で開発したものです。さらに、ブラシ以外の部分にも独自の技術を投入してフォースコントロールとマッチングさせ、圧力センサーとブラシが一体化して研ぎの品質が一定になるようにしています」(植田氏)

言葉にすると簡単だが、ここに至るまでには非常に長い時間を要した。まず、平面の状態で問題のない塗着条件になるまで研ぎ量を確定するのにおよそ2〜3年、その後にようやく曲面での検証に乗り出した。「しっかりした状態になると、テープを貼って剥がしてもテープに塗料がつかない。そうした基本的な検証の繰り返しで研ぎ量を決めました」(村松氏)

曲面での検証では、先頭車両を縦半分にカットした1分の1スケールのモックアップ(模型)を用意していただき、そのモックアップを使い、パナソニックが接触テストや研ぎコントロール性能を追い込んでいった。ようやく実車テストにこぎ着けたのは2016年に入ってから。「実車のテストを見てもらったとき、関係する方々に“素晴らしい”と拍手をいただき、嬉しさと万感の思いがこみ上げてきました」と、植田氏は当時を振り返る。

こうして2017年1月から稼働を開始した先頭車研ぎ装置は、新幹線初の導入事例として大きな話題を呼んだ。「JR東海、並びにJR東海関係会社様の協力があってこそ進めることができました。一緒に歩んできたプロジェクトです」と植田氏が言えば、村松氏は「約2年が経過しても、何の問題もありません。作業環境の改善とともに作業時間も大幅に改善され、期待通りの効果が得られています」と導入のメリットを語る。お互いの強力な信頼関係があってこそなし得た事例と言えるだろう。

先頭車研ぎ装置はモニターで細かく管理がなされている

取材時には、浜松工場で実際に動く先頭車研ぎ装置を見る機会を得た。装置は6本のアームから構成され、それぞれ先端に付いたブラシが車体表面の汚れや油分を研ぎながら繊細に削り取っていく。ゆっくりと入場した先頭車は、まるで久しぶりのシャワーを浴びるかのように見る見る汚れが落ちていき、やがて再塗装を待つだけの状態となった。先頭車研ぎ装置をはじめとする作業の自動化や検修ラインの見直しなどにより、全般検査の全工程はそれまでの15日間から14日間へと1日短縮。1000人を超える作業員が携わるだけに、この1日の短縮は「非常に効果が大きい」(村松氏)という。

浜松工場で実際に動く先頭車研ぎ装置

JR東海では今後、N700Aの後継となる新型車両「N700S」の導入を控えている。先頭車の形状が変わるため、ここで蓄積したノウハウを発展させて進化版の先頭車研ぎ装置が登場する可能性も十分ある。間近で見たアームの動きは、ある種芸術的なものだった。“日本の技術魂”は、まだまだ健在である。