<この記事を要約すると>

  • 災害(地震・洪水・事故など)の一次情報ソースとして無視できないSNSの情報発信だが、本質ではない“ノイズ情報”が多く含まれる
  • 「FASTALERT」はこうしたリスク情報をいち早くスクリーニングし、確度の高い緊急情報だけをリアルタイムで届ける
  • そのテクノロジーはSNSの情報収集からニュース編集まですべてAIが自動化
  • 今後は報道機関だけではなく、公共機関や一般企業などにもリスク対策ツールとして導入を見込む

災害(地震・洪水・事故など)などの一次情報ソースとして、今や無視できない存在となったSNSの情報発信。しかし、本質ではない“ノイズ情報”が多く含まれ、その真贋判定に悩んでいるのも事実だ。今回紹介する「FASTALERT」はAI技術を駆使して適切な情報だけをリアルタイムで配信する緊急情報サービス。名だたる報道機関に軒並み導入されているその実力を探るとともに、販売パートナーとして幅広い展開に協力するパナソニックの思いを聞いた。

誰もが情報発信者になる時代、しかし課題は「情報の精度」

「平成29年通信利用動向調査」(総務省)によれば、2017年の日本におけるスマートフォン(スマホ)の個人保有率は60.9%に達した。言うまでもなくスマホは、カメラとレコーダー、テキスト入力機能を備えたデバイスだ。さらにそのスマホの使われ方を見ても約半数以上がSNSのために使っている。つまり、自然災害や事故・事件に遭遇した“現場にいる人たち”が、SNSで一次情報を発信できるようになった1億総カメラマン社会ともいえるだろう。端緒の1つとなったのは8年前の東日本大震災だが、以降の爆発的なスマホの普及も相まって、その後に起きた災害でも欠かせない一次情報ソースとなっている。

スマートフォンの保有状況は増加傾向にある一方、携帯電話・PHS(スマートフォンを除く)の保有状況は減少傾向にある
スマホユーザーの過半数がSNSを利用している

事実、報道機関も緊急時にはSNSから一次情報を収集し、一刻も早い情報公開に努めている。ただし信頼性の担保には大きな課題がある。SNS情報には断片的であったり、事の本質を間違えていたりする“ノイズ”が多数含まれるからだ。選別と整理に多くの手間がかかれば、1分1秒を争うリスク情報伝達の遅れにつながってしまう。

こうしたリスク情報をいち早くスクリーニングし、確度の高い緊急情報だけをリアルタイムで届けるのが報道ベンチャーのJX通信社が手がける「FASTALERT」だ。本サービスはSNS上の情報から「いつ・どこで・どんなことが起きたのか」を的確に判断し、超速報としてプロ向けに提供する。その超速報をもとに報道機関が取捨選択を行い、ニュース速報として公開する仕組みである。

2016年9月の有償ベータ版提供以降、大手通信社、大手新聞社のほか、NHK、すべての民放キー局といったテレビ局にわずか半年ほどで普及し、今では「なくてはならないもの」として機能する。昨今、テレビニュースの素材で「視聴者提供」のクレジットが入ることも増えたが、そうした映像の発見や情報収集にもFASTALERTが活用されている。

SNSを中心に災害、事故、事件等の情報を検知し、どこで、何が起きたかを瞬時に配信ができる

徹頭徹尾テクノロジーで振り切る、賢いAIが速報を自動化

JX通信社は「報道の機械化」をミッションに掲げ、人手に頼りがちな報道産業の課題をテクノロジーで解決することを目指す。それだけにJX通信社の立ち位置はユニークだ。通信社を名乗ってはいるが記者は1人もおらず、全社員の3分の2をエンジニアが占める。JX通信社の永見佳子氏は、FASTALERT が生まれたきっかけを次のように語る。

「以前から報道各社がSNSでの情報収集の必要性を認識してはいたものの、現実は記者が手動で数分に1回検索したり、多くのアルバイトを雇って人海戦術でつぶさに情報をピックアップしたりと労働集約的な作業が一般的でした。こうした煩雑な業務を自動化し、空いたリソースを人にしかできない取材に集中させるべきだ――そんな働き方が実現できるのではないかとの思いでFASTALERTを開発しました」

株式会社JX通信社
事業統括部 広報
永見 佳子氏

特筆すべきは、人手を介さないシステムであるFASTALERTがきちんとしたニュース記事の体裁で速報を届ける点にある。しかも「●●県●●市で地震被害」といったタイトルも自動で付与し、編集には人の知恵が一切入らない。徹頭徹尾テクノロジーに振り切った姿には爽快さすら感じられる。

これは同社が2008年の創設以来、ニュース記事やその元となる文章などの情報を解析するニュースエンジンや、編集作業を効率化するシステムの開発を手がけてきたからこその強みだ。そこに蓄積してきた膨大なデータが加わり、同社のかけがえのない財産となっている。その技術を集約したニュースエンジンの「XWire」(クロスワイヤ)は、FASTALERTの基盤となっており、産経新聞グループの旗艦ニュースアプリ「産経プラス」のバックボーンとして採用されている。

AI(人工知能)でニュースを自動編集・配信する、BaaS型ニュースエンジン

切り札は文章や映像、画像を解析するAIだ。自然言語処理の高さもさることながら、災害や事故現場から上がってくる情報では映像や画像のノイズをいかに効率よく選り分けるかが鍵を握る。「教師データを最初に設定して合致させています。例えば同じ火の画像でも、それが火災によるものなのか、焼肉店で肉を焼いている画像なのか。多種多様なパターンを読み込んで認識させているのです」(永見氏)

FASTALERTの実際の画面。SNS上の投稿を言語解析・画像解析し緊急情報と思われる投稿のみ瞬時に収集し、提供している

実際に導入した報道機関からは、速報性と網羅性に関してとくに高い評価を得ている。ここ数年の実例だけでも、九州豪雨久大線鉄橋崩落、北海道胆振東部地震、糸魚川大規模火災など、国内報道に先行した速報の配信実績は枚挙にいとまがない。網羅性で言えば、JR常磐線車内出産、阪神高速の豚逃走劇など、これまでの報道機関では到底カバーしきれないケースもある。

いずれにせよ1秒でも速く情報を覚知(火災や事件などを認知すること)できれば、そのぶん初動が早くなり、二次被害の広がりを抑えられる。「実際に報道各社ではFASTALERTで得た情報を元に、取材クルーを現場に派遣したり、報道ヘリを飛ばしたりと、報道現場に不可欠な存在になっています」と永見氏。これぞまさに、テクノロジーが限りある人的資源の有効活用に寄与した好例と言えるだろう。