<この記事を要約すると>

  • 第二次産業に加えて、第一次産業、第三次産業と人の手間がかかる産業を中心に“人間の作業を代替する”ロボットが急増している
  • こうした中、“ロボティクスを活用した共創型イノベーション”の開発拠点「Robotics Hub」がオープン
  • オープンなコラボレーションを通じて、まずはニーズドリブンで社会課題を解決するロボットを積極的に投入していく構え
  • その先には「自己拡張 Augmentation(オーギュメンテーション)」を見据え、ロボットがより身近に感じられる社会を目指す

少子高齢化や労働力不足に悩む日本。避けては通れない社会課題を解決する手段として、ロボティクス(ロボット工学)活用が急速に進んでいる。そんな中、ロボットの開発をオープンな共創によって推進する取り組みが始まった。「Robotics Hub」を軸とした、近未来のロボット活用について探る。

技術の進化が後押しする次世代サービスロボット市場

今から9年前の2010年、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が発表した興味深いデータがある。ロボット国内生産量の将来市場推計で、そこでは2035年までにサービス分野のロボットが急拡大することを予測した。サービス分野とは医療、物流、介護・福祉、清掃、警備などを指す。

その予測を裏付ける数字もある。これは世界の統計だが、国際ロボット連盟(IFR)の発表によれば、2017年における業務用サービスロボットの売上高は39%増の66億米ドルに達した。物流が最も多く、次いで医療、搾乳を中心とするフィールドロボットの順となっている。

これまでロボットは第二次産業、いわゆる製造現場での産業ロボットが市場の大勢を占めてきた。しかし第一次産業、第三次産業と人の手間がかかる産業を中心に“作業を代替する”ロボットが存在感を増している。今、切実に求められているのは「誰が・何を・いつ・どこで・どのように使うか」を明確化して、人の作業を楽にするロボットなのである。

高齢化・労働力不足を解決するロボティクス活用事業が特に、第一次・第三次産業で急速に成長している

一方、利用者との接点が多くなるサービスロボットは命令どおりに動くことに加えて、人に寄り添うことが重要とされる。常に安全・安心を担保することが最優先であり、そのうえで現場で使用する人が使いやすいよう、最終的には生産性向上や効率化に寄与しなければならない。“意思”を持った人間と協調するために、この先ロボットはどんどん賢くなる必要がある。そう考えると、ロボティクスと密接に関係するAIやIoT、制御技術などが進化しつつあるとはいえ、1社だけで最初から最後まで完結するのは至難の技だ。

この流れを捉え、パナソニックは“ロボティクスを活用した共創型イノベーション”の開発拠点として、2018年4月に大阪・門真、同年12月には東京・汐留に「Robotics Hub」を開設した。この場を活かして、産産連携・産学連携の取り組みを加速する。

革新的なロボティクスを高速に生み出す共創の場として生まれた「Robotics Hub」

自動化と人間の拡張、その2つをバランスよく世の中に実装したい

Robotics Hubの運営委員長を務める安藤健氏は、なぜパナソニックがロボットに注力するのかとの問いに対して次のように答える。

「まずは少子高齢化が進行する中で、これからどのように労働力を支援していくかが課題としてあるからです。その解決策の1つとしてロボティクスが非常に期待されています。パナソニックは『企業は社会の公器である』ことを使命としていますが、この考えに基づき、今後の世の中で必要とされていることにしっかりと取り組んでいきたいとの思いがあります。

パナソニック株式会社
マニュファクチャリングイノベーション本部
ロボティクス推進室
課長/エキスパート
安藤 健氏

もう1つ、我々なら次世代のロボティクスを提供できるとの自負があるからです。パナソニックはもともとモノづくりを得意としてきて、さまざまな製造現場で自動化や生産技術の発展を支えてきました。サービスロボットの分野でも自律搬送ロボットの『HOSPI®(ホスピ)』や離床支援のロボット介護機器『リショーネPlus』のように、すでに商品化したものがあります。これらの背景から、脈々と受け継がれてきた技術力と蓄積してきたノウハウを工場以外の分野にも展開できるのではないかと考えています」(安藤氏)

院内自律搬送ロボット「HOSPI®(ホスピ)」

先に述べたようにRobotics Hubは共創型の拠点であり、社外・社内含めてオープンにコラボレーションしながら共同研究・開発を手がける。主に東京では社外、大阪では社内連携を担う。

「ロボットの活用に人が介在すると非常に構造が複雑になり、これまで以上にさまざまな技術を複合的に組み合わせなければならない。それにPDCAサイクルのスピードが高速化する中、単独でゼロから100までを開発していたらとても間に合いません。他社とのコラボレーションはマストです。ならば知恵と技術、お互いの強みを持ち寄る場が必須と考え、Robotics Hubの設立に至りました」(安藤氏)

Robotics Hubでは日々共同研究・開発が行われている

例えばパーソナルモビリティを製造・販売するWHILL株式会社とは次世代モビリティ「WHILL NEXT」の開発を進めており、その場でWHILLとパナソニックの社員が活発にアイデアを出して共創する。すぐに動かして評価しながらブラッシュアップを重ねる――恵まれた環境を整備しているのもRobotics Hubの大きなメリットだ。

開設にあたり、安藤氏らの事務局は社内のロボット技術やアセットを1年かけて徹底的に“棚卸し”した。今ではそれらをすべてリストアップして社内で共有している。「リストを公開したことにより、自分たちの強みがどこか、逆にどこが不足しているのかが見えてきました。開発支援技術や要素技術をモジュール化してプラットフォームを構築すれば、さらに開発スピードが速くなり、新しい価値も生まれてきます。効率的なマッチングを支援することもRobotics Hubのミッションです」(安藤氏)

パナソニックとWHILLが共同開発中のロボット電動車椅子「WHILL NEXT」

東京では12月の開設以降、Robotics Hubの見学は引きも切らず、わずか4カ月で400人ほどが訪れた。 それだけ大きな注目を集めている証だ。社内からの問い合わせも多く、エンジニアのみならず営業の人たちもネットワークに参加している。「営業スタッフは“お客様からはこんな要望がある”といったニーズを吸収してフィードバックしてくれるので、自然と現場のニーズを反映した活動になりつつあります。その思考はすごく重要です」と安藤氏は強調する。過去、技術者だけの発想でロボットを持ち込み、現場に馴染まなかったケースも経験してきたからだ。

「困りごとを解決するためにどんなソリューションが必要なのか。その1つとしてロボットの選択肢があるわけで、“こんなロボットがあるから使ってください”と考えてしまうのは本末転倒です。今までのロボットは何でもやらせようとの発想でしたが、これまでの経験を踏まえて、お客様側でコントロールできる部分はしてもらい、現状のロボット性能でも十分に活用できるところから提供していくのが現在のアプローチです」(安藤氏)

まずはアジャイルな開発を繰り返し、オートメーション(自動化)を突き詰めて社会に役立つロボットをどんどん投入していく。そしてその先のビジョンとして「自己拡張 Augmentation(オーギュメンテーション)」を掲げる。これは人間が本来持っている能力をロボットによって高めるというコンセプトであり、東京大学、東北大学、早稲田大学など計6大学とそれぞれにテーマを決めて共同研究を行う。4月には学際的なバーチャルラボ「Aug-Lab(オーグラボ)」を開設した。

具体的なオーギュメンテーションとしては、エンラージと呼ぶ量的拡張、エンリッチと呼ぶ質的拡張を想定する。後ほど紹介する“第三の腕”はまさにエンラージであり、例えば2人でしかできなかった作業が1人でできるようになれば、少しでも長く現役で活躍できる時間が増えるかもしれない。ロボットがそばに寄り添い、人間のやりがいや幸せをサポートするイメージだ。

先端メカトロ技術で人間能力・動作の性能・仕様を向上させる“Enlarge”とヒトを計測・理解する技術(精神物理学・認知化学など)の強化で五感を繋ぎ込む“Enrich”

エンリッチは感情を広げるもので言葉にしにくいが、神社の玉砂利の映像の上を歩くと手に持った振動デバイスに触感が伝わり、まるで砂利の上を歩いているかのような感覚になれるデモを体験できる。感覚に作用する部分が大きいため、かなりチャレンジングな内容と言える。

安藤氏は「オーギュメンテーションはQuality of Life(生活の質)をどのように向上するかという視点で取り組みます。オートメーションとオーギュメンテーションをバランスよく世の中に実装していくことで、より豊かな社会が実現できるのではないか。それが我々の考えている未来です」と話してくれた。これらの意欲的な取り組みが成功すれば、ロボットが身近な存在になる世界がきっと訪れるはずだ。