最先端の都市モデルづくりに貢献する

民間事業者グループ側ではもともと水素エネルギーを活用した街というコンセプトがあったことから、それを具体の形にする中で燃料電池の技術を持っていたパナソニックと接点を持つようになったという。髙木氏は「分譲住戸の家庭用燃料電池システム『エネファーム』と各街区の純水素型燃料電池にパナソニック製品の採用を決め、それらを住戸単位・街区単位でどう運用するかを検討する中でエネルギーマネジメントシステムも同社のものを導入することを決めました。提供できるソリューションの幅広さに魅力を感じています」と、並走することになった経緯を振り返る。

かたやパナソニックでは、東京2020大会のレガシーとなる街づくりへの貢献を自社の役割と自任していた。パナソニックの永田勝彦氏は「この大会を契機に、東京が、日本が、大きく変わっていきます。その転換点に立って新しい事業に挑戦することこそ、私たちのミッションです。大会のレガシーとなる最先端の都市開発に幅広い事業領域で貢献していきたいという強い思いで取り組んでいます」と、言葉に熱を込める。

パナソニック株式会社
東京オリンピック・パラリンピック推進本部 営業推進部
営業推進部長 兼 選手村プロジェクト担当
永田 勝彦氏

パナソニックで提供する都市開発ソリューションは、HARUMI FLAGに関わるきっかけにもなった「水素活用」や「エネルギーマネジメント」のほか、「セキュリティ・防災」や「街区照明」にも及ぶ。

「セキュリティ・防災」では、施設計画の段階から同社の防災システム担当エンジニアが協議に加わり、防災拠点の配置やその人員規模などの最適化を支援した。また街なかやマンション共用部などに設置するネットワークカメラ約750台も提供する。このカメラは、HARUMI FLAG全体を管理する防災拠点で区域内に敷設された光ファイバーケーブルで構築されるLAN(HARUMI FLAGエリアネットワーク)によって統合管理される仕組みだ。

「街区照明」では、民間事業者グループやデザイナーとともに、HARUMI FLAG全体のシームレスな照明計画を検討し、その要望を受けて新製品の開発にまで尽力した。髙木氏は「どのような照明器具を配置すると、必要な照度を確保しながら雑誌に載るような美しい夜の景観を湾岸部に生み出すことができるか、早い段階から提案してもらいました。『夜の顔』はパナソニックのおかげで生まれたようなものです」と高く評価する。

さらに検討中の領域として、「コミュニティ」がある。これはコミュニケーションを醸成するデジタルサイネージシステムの構築だ。このシステムもまた、HARUMI FLAGに整備されるLANの利用を想定する。永田氏は「LANを活用してパナソニックの映像技術が貢献できるテーマだと思います。マンション各棟に大型のデジタルサイネージを設置し、HARUMI FLAGの魅力やそこで暮らす価値を伝えていきたい」と意気込む。

街全体をまるごとつなぐ、HARUMI FLAG エリアネットワークの概念図
エリアネットワークを介して街全体のエネルギー情報を集約し見える化を実現。HEMS、MEMSはパナソニックのシステム機器で構築される

VR映像技術を駆使し街の魅力伝える

パナソニックにとってみれば、街づくりに対する関わり方はこれまでと大きく異なるという。「開発事業者が要求する仕様に基づき設計し納品するこれまでの関わりと違って、今回はどのような街をつくるか、開発事業者と同じ目線や同じ思いで一緒に悩みながら取り組んでいます。HARUMI FLAGの目指すものを各カンパニーに伝え、それぞれの技術を組み合わせながら新しいものをつくる、そこに醍醐味を感じています」(永田氏)

思いがけず関わることになったのは、民間事業者グループの分譲主である10社が2019年4月に現地と同じ東京・晴海に開設した販売センター「HARUMI FLAGパビリオン」のソリューション提案である。各種の映像機器を納めるだけにとどまらず、HARUMI FLAGの魅力をより良く伝えられるよう照明技術と連携し、最新のVR(仮想現実)映像技術を駆使した空間演出ソリューション「VIRTUAL STAGE MIERVA(バーチャルステージミエルバ)」を開発・提案したのである。

HARUMI FLAGパビリオンでは、実際に暮らしているかのような臨場感を体験できる

民間事業者側の課題は魅力の伝え方の難しさだ。髙木氏は「東京2020大会期間中は選手村として一時使用されるため、三方を海で囲まれているというHARUMI FLAGの魅力を実感していただけません。模型やCGだけでなく、もっと現実に近い見せ方はないか、と思い悩んでいました」と明かす。その時、街づくりで並走していたパナソニックがさまざまなソリューションを持っていることに気付き、協議を重ねてきたという。

試行錯誤の中で生まれたシステムの一つは、眺望体感型。海沿いのマンション高層階から望める東京湾やレインボーブリッジの景観を、朝から夜まで移り変わりゆく姿として再現するものだ。もう一つは、ドーム型。緑豊かな中庭などの街並みやタワーマンション48階ラウンジからの眺望などのVR映像を、ゴーグルなしに複数人同時に楽しむことができる。永田氏も髙木氏も「タワーマンションの販売時期にはまた新しい驚きを提供したいですね」と、新しい挑戦に意欲を見せる。

【VIRTUAL STAGE MIERVA 眺望体感型】では、海を臨む素晴らしい眺望を動的な映像で再現することができる
【VIRTUAL STAGE MIERVA ドーム型】では、HARUMI FLAG完成後の街並みや住環境を疑似体験できる

HARUMI FLAGが目指すのは、「持続可能な成熟都市のモデル」(井川氏)だ。髙木氏は「湾岸部には将来の開発用地が残されています。HARUMI FLAGが起点となって同じように持続可能な街づくりがそれらの開発用地でも展開されていくようになればいいですね」と願う。これらの都市開発ソリューションはそこでもまた、大きな貢献を果たしていくことになるのだろう。

<後編へ続く>