<この記事を要約すると>

  • 2020年度からの小学校を皮切りに、いよいよ新学習指導要領が始まり、生きる力を鍛えるコンピテンシー(資質・能力)の底上げが望まれる
  • パナソニックは1989年から「キッド・ウィットネス・ニュース(以下KWN)」を開始。映像制作支援を通じて自ら考え、行動する姿勢をサポートしてきた
  • この有意義な活動がもたらした成果を、パナソニックと長年の参加校である森村学園の言葉から紹介する

情報の多様化、グローバル化に伴い、子どもたちの教育の場が大きく変化を遂げている。日本の教育においては学校だけでなく、多様な組織・個人と連携しあいながら、社会課題の解決や、教育活動に取り組むことが重要視されているのだ。これからの時代、子どもたちの夢や可能性を支援するために何が求められるのか。30年前から“学びへの支援”に取り組んできたパナソニックの「キッド・ウィットネス・ニュース(KWN)」を軸に、長年にわたり参加してきた森村学園の取り組みを紹介する。

これからの子どもたちが身につけなければならない“生きる力”

2020年度からの小学校を皮切りに、いよいよ新学習指導要領が始まる。文部科学省が「生きる力 学びの、その先へ」とのスローガンを掲げていることからもわかるように、ポイントは教科学習の枠組みを超えたコンピテンシー(資質・能力)の底上げにある。

背景には、以前とは比較にならないほどのスピードで進む社会構造の変化がある。スマホのみならず、車や家電でさえネットとつながる超高度情報社会へとシフトする中、今後はあふれる情報を的確に取捨選択するリテラシーが必須となってくる。さらにグローバル化にあわせたボーダーレスな感覚を身につけることも重要となる。こと日本に目を向ければ、終身雇用制や年金支給のスキームが崩れ、急激な少子高齢化が不可避の問題として迫る。要するにいまの子どもたちは、これまでの常識が当たり前ではなくなる時代を生き抜いていかねばならない。そこで最も大事になるのが、生きる力というわけだ。

新しい時代を生きる子供たちに必要な資質・能力の三つの柱(文部科学省:学習指導要領より)

パナソニックが米国で1989年から始めた「キッド・ウィットネス・ニュース(以下KWN)」は、子どもたちに社会との接点を与える教育支援プログラムである。対象となるのは小学生、中学生、高校生。映像制作支援を通じて創造性やコミュニケーション能力の向上、チームワークの醸成を目的とし、自ら考え、行動し、1つの映像作品をまとめ上げる機会を30年にわたり提供してきた。まさに国が進もうとする次世代教育の先駆けと言えるだろう。

日本は2003年に参加。2008年からは映像作品を競い合うグローバルコンテストを年次で開催するなど、世界規模へと活動を広げている。2019年のグローバルコンテストは世界12の国・地域から3800人が参加し、315校の作品応募があった。

1989年にアメリカではじまったキッド・ウィットネス・ニュース(KWN)
2019年は世界12の国と地域から3800人が参加し、315校の作品応募があった

今回の取材では本プログラムに2010年から参加してきた森村学園とパナソニックのKWN担当者に話を聞き、この有意義な活動がもたらした成果を浮き彫りにする。なお森村学園初等部は2019年のグローバルコンテスト小学生部門で「Best Teamwork Award」を受賞している。

自発性も喚起、社会生活のイロハを学べる貴重なプログラム

明治時代を代表する実業家、森村市左衛門によって東京・高輪に1910年に設立された森村学園。1980年に神奈川県横浜市の長津田に移転を完了し、豊かな自然林に囲まれた環境に幼稚園、初等部、中等部、高等部を置く。広大な敷地はじつに東京ドーム1.8個分もの面積を有する。

「独立自営」を建学の精神とする森村学園では、「自らの力で人生を切り拓き、世界の力、社会の力となる人」を育てることを主眼とする。初等部教諭の榎本 昇氏は「自分の考えや思いを他者に伝えられるような授業や学習内容を念頭に置いています。KWNに関しても子どもたちからのアイデアは基本的に採用しています」と話す。

森村学園 初等部
教諭
榎本 昇氏

“伝える”との観点から、2010年に参加する以前も小型のビデオカメラを持たせて映像作品を作っていた。「しかしそれだと、自分たちで見て完結してしまう。KWNなら第三者の意見がありますし、映像制作のプロからしっかりした指導を受けられます。自分たちの手がけた作品を世の中に発信して客観的な評価をいただける。その点は参加のきっかけとして非常に大きかったですね」(榎本氏)

2019年の受賞作となった“Shiro and the Furoshiki”(日本題は“シロと風呂敷〜風呂敷を世界中に〜”)では、シロナガスクジラのシロの視点を通して海洋プラスチック問題を取り上げた。少しでもビニール袋の使用を減らすため、子どもたちがシロに提案したのが風呂敷の有効活用。さまざまなものを包むことができてビニール袋の代わりになるほか、災害時にも役立ち、アイデア次第では浴衣にもなり、何より繰り返し使えて環境に優しいことを説明する。そのうえで「未来の日本が輝くために。恵みを与えてくれる海のために」とのメッセージで幕を閉じる。子どもらしい素朴さを残しつつ、小学3年生が作り上げた映像とは思えない完成度を誇る。約5分、じっくりと見入ってしまうのがその証だ。

作品名:シロと風呂敷~風呂敷を世界中に~

制作を指揮した同学園教諭の不破花純氏は、「日本の良さを児童に知ってもらうために、風呂敷について教えたいと思っていました」と振り返る。その後、映像のテーマを決める際にいまの日本が抱える問題を聞いたところ、海洋ゴミによって生き物たちが苦しんでいる話が子どもたちから上がってきた。「じゃあその2つを組み合わせて良い作品を作れないかな?と提案して方向が決まりました」(不破氏)

森村学園 初等部
教論
不破 花純氏

制作期間は2学期すべてとなる約4カ月間。カメラ、ディレクター、役者、編集と各担当に分かれ、それぞれのチームが切磋琢磨しながら作り上げた。子ども相手なので機材は小型ビデオカメラを想像するかもしれないが、パナソニックが貸し出すのは大きくて重い4K対応の業務用カメラ。編集機材も映像に特化したものだ。また、映像制作の専門家を派遣して絵コンテや脚本の作り方をレクチャーするなど、とことん本気で向き合う。

「カメラマンの子のこだわりが反映されたり、ディレクターの子がセリフのダメ出しをしたり。活動を続けていると、いつの間にかプロの撮影現場のようになってくるんです。私は要所で段取りを教えてあげましたが、最終的には子どもたちに任せていました。

バラバラに撮影していた映像を編集してできあがった作品を見ると、改めて感慨深いものがありました。繰り返し見ているうちに『私たちはこういうことを伝えたいんだ』という明確な自分の考えが、子どもたちの中でもまとまってきたようです」(不破氏)

4K対応の業務用カメラや撮影機材も上手に使いこなす子どもたち

かつて榎本氏が率いたクラスも入賞したことがある。その経験を踏まえ、榎本氏はKWNによる効果を次のように語った。

「明らかな変化がありました。自分たちですべてをやる――その姿勢が総合学習だけではなく、図工だったり体育だったり、あるいはクラスの運営を含め、いろんな面で育ってきたんです。で、このプログラムは行ける、と確信しました。

でも制作中は、あえて手厚くケアしません。撮影現場にカメラを忘れても、バッテリーを充電していなくても『じゃあ誰がやるの? 誰かがやってくれるの?』と問いかけて役割を気づかせることが大事。子どもたちが成長してどんな仕事に就くとしても、『自分で選ぶ』ことと『自立して生活する』ことは不可欠なものです。この活動を通じて子どもたちが社会で生きていくことの基本を学ぶ機会をいただいている、そんな思いがあります」(榎本氏)

実際に映像にも使用されている子どもたちが描いた絵