<この記事を要約すると>
- 年率7%の高度経済成長を続けるカンボジアでも、電気の使えない生活を送る人が未だ多くいる
- パナソニックはそうした人々の暮らしに、ソーラーランタンによる“あかり“を提供してきた
- そのあかりは夜間の子どもたちの勉強や大人たちの作業に活かされ、収入増と生活水準の改善に寄与しているという
- これからも現地課題を熟知する団体や機関と協働し、誰もが活き活きとくらせる共生社会の実現に向け取り組んでいく
電気のない生活を送る人は、世界に約11億人いるという。パナソニックは「ソーラーランタン10万台プロジェクト」を通して、2018年1月までに、アジアやアフリカ諸国を中心とした無電化地域にソーラーランタンによる“あかり”を提供してきた。今回、そうした村のひとつ、カンボジアのコードンタイ(Kordontey)村を訪ね、ランタンがどのように人々の暮らしに役立っているかを取材した。訪れた村の人々は皆、屈託のない笑顔で我々の一行を迎えてくれ、“あかり”を手にした喜びと、目の前に広がる未来の希望を語った。

年率7%の高度経済成長の陰で取り残される人々
2019年9月、カンボジアの首都プノンペンの空港に降り立つ。車で市街に向かうと、アジアの新興国ではお決まりの大渋滞にはまる。車窓から外を見ると、空に向かって伸びるおびただしい数のクレーンが目に入る。この町は今、高層ビルや商業施設などの建設ラッシュだ。中国、韓国、タイ、ベトナム・・・ほとんどが外資の都市開発プロジェクト。プノンペンはまさに高度経済成長のただ中にある。
そんな活気あふれる市街を抜け、向かったのは、プノンペンから3時間ほど車で走ったところにあるコードンタイ村。いまも電気の使えない世帯が多く残る村だ。途中、市街から2時間ほどは、車窓にはまだ郊外の町らしい風景が続くが、最後の1時間ほどはかなりの悪路になり、周囲には荒れた湿地が続く。時折、農家が点々と建っている。
ようやく辿り着いたコードンタイ村は、トタン屋根の家が肩を寄せ合うように並んでいる小さな集落。63世帯、271人ほどがここで暮らしている。

夕暮れ時、村の通りを歩いていると、牛の群れにたびたび出くわす。村の子どもたちが牛を追って、自分の家に帰っていくのだ。この村では、多くの家が牛や豚を飼い、それを売って生計を立てている。

「ソーラーランタン」の下で熱心に学ぶ子どもたち
日が暮れ始めると、街灯のないこの村では一軒、また一軒と小さなあかりが灯る。村に提供されたソーラーランタンが家の中を照らし始めたのだ。
村の民家を訪ねた。家の中には木製の高床があり、そこに二人の女の子が座って学校の宿題をしているようだ。教本を見ながらノートに熱心に書き取りをしている。あたりは暗いので、ソーラーランタンのあかりの下に二人寄り添うようにして鉛筆を走らせている。

聞けば、二人とも小学校5年生。ソーラーランタンのおかげで長い時間、勉強ができるようになったという。「勉強が好き?」と話しかけると、「好き」との答え。「勉強して将来、学校の先生になりたいの」と、少しはにかみながら話してくれた。隣にいた女の子は「私は医者になりたい」と即座に答えが返ってきた。勉強すれば、将来、希望する職業につけるという道筋が彼女たちにははっきりと見えている。
少女たちを温かいまなざしで見守っているのは、この家の主であるお父さん。ソーラーランタンで暮らしがどう変わったかを聞くと、こう答えてくれた。
「一番よかったことは、家族そろって食事をとれることだよ。これまでは明るいうちに食事を済ませなくてはならなかったけど、ランタンがあればいつでも料理できるから、みんながそろうのを待てるのさ」と満面の笑顔。「それに夜間2回くらい牛小屋まで牛の様子を見回りに行くときにもランタンは役に立っている。真っ暗闇の中をひとりで歩いて行くのはとても危険だったからね」。

別の家からは甘い匂いが漂ってくる。訪ねてみると、女性がランタンのあかりの下で炊事をしている。聞けば、お菓子のバナナチップを作っているという。「村の中で売っているの。ランタンのおかげで夜でも作れるようになったから日中は他の仕事をすることができ収入が増えたわ」と、うれしそうに話す。増えたお金を何に使うかを聞いてみると、「まずは食べ物を買うわ、それから子どもの教育に使うの」。


村の未来は自分たちの手でつくる
訪れたのは、たまたま村の集会が開かれる日だった。村のはずれにある集会所に30人ほどが集まり、村の運営について話し合い始めた。四方の柱にソーラーランタンを吊り下げ、会場を照らすので結構明るい。進行を務めるのは、この村の生活環境の改善を支援しているNPO団体「ライフ・ウィズ・ディグニティ」のスタッフだ。
「みなさん、この村の課題は何だと思いますか。それをどうすれば解決できるでしょう。どんどん意見を言ってください」。スタッフが村人たちに呼びかけると、5~6人がそれぞれ自分の意見や要望を言う。「野菜を育てているので、共有のため池を作ってほしい」「共同のトイレを作ってほしい」「農作物の苗を合同で購入したい」など。秩序だった話し合いではないが、活発に意見を交わし合っているようにみえる。ボードに最終的に8つの要望が書かれ、スタッフがNPOの本部に持ち帰り、実現できるかどうか検討すると村人たちに約束した。

集会の最後には、パナソニックCSR・社会文化部 主務の田中典子氏が壇上に呼ばれ、「お届けしたソーラーランタンが、みなさんの暮らしをよくすることを願っています。どうぞ末長くお使いください」と挨拶。村人たちから感謝の拍手を浴びた。
集会がお開きになった後、積極的に発言していた男性に話しかけてみた。聞くと、この村の小学校の校長先生という。
「私はコンポンスプーの町で教師になり、この村に派遣されてきました。そしてこの村の女性と結婚し、暮らしています。外から来た者だからこそ、この村をもっとよくしたいと思っています。家畜を売るだけでなく、農業で安定した収入を得られるようにしたい。そのためにはまず共有のため池が必要です。私の学校でも子どもたちと一緒に野菜を作っています。時間があればぜひ見に来てください」――堰を切ったようにあふれだす言葉には、自分の村の未来は自分たちの手でつくるという希望と気概にあふれていた。
