CO2を削減しながら、潤沢にある資源を適切に利用できるメリット

セルロースファイバー樹脂の開発には、パナソニックのマニュファクチャリングイノベーション本部が携わった。前述した通り、環境省によるモデル事業が出発点となったが、同社の浜辺理史氏は「ガラス繊維、化学繊維に代わる素材としてそれ以前から追いかけていました」と語る。

「欧米では“脱ガラス”の傾向が加速しています。ガラス繊維は燃やそうとしてもガラスが残ってしまうため、結局は埋立地が必要になります。それに繰り返し使おうとしても強度が落ちる欠点もある。一方でセルロースファイバー樹脂はほかの繊維強化樹脂と比べて中央の太い繊維の弾性率が高く、先端の細い繊維が応力時のヒビを最小化する特性があります。これにより面衝撃度が強く、軽量化も図れるのです。そして植物繊維のために燃やすと何も残らず、繊維が折れないのでリサイクルの面でも優位性があります」(浜辺氏)

パナソニック株式会社
マニュファクチャリングイノベーション本部
マニュファクチャリングソリューションセンター
材料・デバイス技術部 成膜技術課 主任技師
浜辺 理史氏

従来のセルロースファイバーでは、水中で行う解繊方法が主流となってきた。この方法は複合樹脂化する際に乾燥が必要となり、エネルギーコストやCO2発生量が増大する。パナソニックでは初回の環境省事業において水を使わない全乾式の解繊方法を開発し、工程数を減らすことでコスト減、生産性向上を実現。さらにセルロース1kg当たり1.8kgのCO2削減を可能とした。この成果を受け、同社の西野彰馬氏は次なる段階の“社会実装”へと歩を進めた。

「コストが下がれば実用化に近づくとの思いがありました。パナソニックの製品で補強材として使われている樹脂に良く似た、あるいは一部では上回る特性がある程度見えてきたので、次のモデル事業では冷蔵庫と洗濯機部品への適用検証を行ったのです。その検証を踏まえて、2018年8月にコードレススティック掃除機への採用に至りました」(西野氏)

パナソニック株式会社
マニュファクチャリングイノベーション本部
成形技術開発センター 先行成形技術開発部
開発二課 主任技師
西野 彰馬氏

補強材では、リユースカップとは逆のアプローチを歩んだ。樹脂にムラがあってはならず、変色はご法度だ。しかも工業製品の補強材に利用されるだけに、歩留まりが悪くては製造に支障をきたしてしまう。「クリーナーに採用されるときも、最後の最後まで色が変わってしまう懸念があり、何度も何度も実験を繰り返しました。でも、家電業界で初めてという結果に貢献できたことが非常にうれしかったですし、達成感もありました」と西野氏は言う。

今後はセルロースファイバーの高濃度化へのチャレンジも控える。同社の今西正義氏は「今は最大で、セルロースファイバーが85%の段階まで来ています。我々の強みは濃度を上げても白さを保てること。着色自由性が高まるので、大きなセールスポイントになるはずです」と、試作品のペレット(粒)を示しながら説明してくれた。

セルロースファイバーの含有量が増えても試作品のペレット(中段)の色味は変わらない。着色自由性の高さが見て取れる

植物由来のリユースカップと、工業製品のエコな補強材。見た目はそれぞれ違うが根っ子は同じものであり、どちらもSDGs時代の主役素材となる可能性を秘めている。「この素材を広げていくことで、環境に優しい持続可能社会になってほしい」(浜辺氏)、「日々の暮らしにこうしたエコ素材があふれて、その生活がスタンダードになれば」(今西氏)、「樹脂なのに木のように見える特性を活かして、デザインや感性に訴えかける用途でも使っていきたい」(西野氏)と、開発に携わった技術者たちもそのポテンシャルに胸を踊らせる。

パナソニック株式会社
マニュファクチャリングイノベーション本部
マニュファクチャリングソリューションセンター
材料・デバイス技術部 成膜技術課
今西 正義氏

アサヒビールの古原氏は「ここが完成形だとは思っていない。ソフトウエアと同じく、アップデートしながらバージョンアップしていきたい」と語った。パナソニックの技術者であれば、その熱い思いにきっと答えてくれるはずだ。セルロースファイバー樹脂実用化のめどが立った今、これからは21世紀型の素材として拡大していくことを願う。

1つひとつ模様や色が異なっているのも楽しむことができる