<この記事を要約すると>

  • 岐阜県多治見市の“地域エネルギーベンチャー”が太陽光発電を軸とした地域内でのエネルギー循環システム構築に着手
  • エネルギーの消費と蓄電にEV(電気自動車)を採用したのがポイント。安価でEVを貸し出すことで、地域への若者の就業と定着を促す目的もある
  • パナソニックでは機器をはじめとしてプロジェクトを積極支援。二人三脚で次世代の再エネ事業モデルケースを育んでいる

日本は世界でも有数のエネルギー消費国だが、その自給率は極めて低く10%にも満たない。エネルギー資源の大半を国外からの輸入に依存しているため、エネルギー自給率の向上が大きな課題となっている。そんな中、岐阜県多治見市で太陽光発電によるエネルギー地域循環システムの取り組みが始まっている。地域活性化の思いも含んだプロジェクトの全貌を追った。

国も期待を寄せる再生可能エネルギー

9.6%。これは、日本におけるエネルギー自給率を示した数字だ(2017年、資源エネルギー庁より)。オーストラリアが306.0%、カナダが173.9%、米国が92.6%(数字は2017年のもの)であることを鑑みると、いかに日本が脆弱なエネルギー事情を抱えた国なのかが際立つ。

主要国の一次エネルギー自給率比較(2017年)

これを踏まえ、2018年7月3日に発表された「第5次エネルギー基本計画」では、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギー(以下、再エネ)を主力電源の1つとする方針を示した。2030年の電源構成比率を22〜24%まで高め、石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料による発電、原子力発電とのエネルギーミックスを目指す。CO2の大幅削減による脱炭素化の潮流もあり、今後ますます再エネが重要視されることになる。

主役となるのは太陽光発電だ。国内では2009年からFIT(固定価格買い取り制度)が始まり、太陽光発電の余剰電力買い取りがスタートした。以降、導入件数は年々増加してきたが、2019年11月からは10年間の固定買い取り期間を過ぎた家庭が出てきた。昨今話題の「卒FIT」と呼ばれるもので、今後は新たな売電先を探したり、自家消費したりなどの選択を迫られる。すなわち太陽光発電が新たな岐路に立ったことを意味する。

今回は、ある地方都市で進む太陽光発電の画期的な活用法を紹介する。自分たちが住む身近な場所で発電し、自分たちで消費し、災害時にも役立てる。さらにはEV(電気自動車)を安価でレンタルして若者を定住させ、地方創生を守り立てるという。

主人公は地域に根ざした若き経営者。彼が次々に思いついたアイデアに賛同し、強力なパートナーとしてパナソニックが手を結んだ。

EVを軸に、太陽光エネルギーを地域内で循環

人口約11万人、美濃焼の産地として知られる岐阜県多治見市。愛知県名古屋市の中心部から電車でおよそ40分の距離に位置し、名古屋市のベッドタウンの顔も持つ。

名古屋市のベッドタウンの顔も持つ岐阜県多治見市

多治見市に拠点を構えるエネファントは、太陽光発電システムや蓄電池、オール電化などの販売・施工・保守を手がける電気工事店だ。ただし“地域エネルギーベンチャー”へと変貌を遂げつつある。

株式会社エネファント。多治見市のマスコットキャラクターである「うながっぱ」が目印

創業は8年前。代表取締役の磯﨑顕三氏は、「エネルギーで世の中を変える」との理念を掲げる。もともと事業立ち上げのきっかけとなったのは、仮に太陽光エネルギーを100%変換できるのであれば、地球上の年間消費エネルギーをわずか1時間で供給できることを知ったからだ。

「その情報を知り、なぜ地下に埋まっている化石燃料を消費する必要があるのか疑問に感じたんです。化石燃料は何億年もの気の遠くなる時間をかけて生まれるのに、わざわざ地下を掘って恐ろしいスピードで消費されていますよね。ならば太陽光エネルギーを活用したほうが良いに決まっている。そこで住宅用の太陽光発電をメインに事業をスタートしました」(磯﨑氏)

株式会社エネファント
代表取締役
磯﨑 顕三氏

2007年には当時の日本最高気温40.9度を記録するなど、多治見市は日本一暑い町の1つとしても有名であり、豊富な太陽光が降り注ぐ。市民生活の中で太陽光発電の需給システムが上手く機能すれば、自らが暮らす町でも低コストで持続可能なエネルギーサービスを生み出せるのではないか。この点に着目した磯﨑氏は、本格的に再エネ事業を開始した。それがエネファントの事業部として設立した「たじみ電力」だ。

たじみ電力はいわゆる新電力として電力小売市場に参入し、地域で発電した太陽光電力を主力として提供する。「これからFITが終わり、太陽光電力が余ってきます。地域で余った電力を必要とする場所に効率的に供給しなくてはなりません。たじみ電力は需要と供給をつなぐために必要な存在なのです」(磯﨑氏)。

磯﨑氏のアイデアはこれだけでは終わらず、並行して「働こCAR」というEVレンタカービジネスに乗り出した。EVの日産リーフを地元の協賛企業に月額制でレンタルし、企業が社員に貸し出す。対象となるのは多治見市内の企業に勤める18〜29歳まで。それら若手社員の負担は税金などの諸経費を含めて月々19800円の維持費となっている。このサービスの裏には、若者の流出が避けられない地方都市ならではの切実な課題がある。

地域特性に応じたビジネスモデル 働こCARビジネス

「若者が都市部に流出し、出生率が低下する今、多治見市からもどんどん人が減っています。地方都市では車は生活の足として欠かせませんが、とにかく維持費が高い。多治見市役所の新卒職員のモデルケースでは、実に5割も負担しているのが現実です。そこで若者専用のレンタカーを用意して、協賛企業に就職すれば月々19800円でEVを乗れるスキームを編み出しました。車を持つことで若者が前向きに将来のことを考えられるようになればうれしい。経営者からすれば、採用時のインセンティブとして求職者へのアピールにつながります」(磯﨑氏)

まだ始まったばかりの働こCARだが、2019年10月末現在で4人の若者が利用している。協賛企業は30社に増えた。もちろんエネファントでも導入しており、2020年4月に新卒採用の2名が入社する予定だ。地方活性化をにらみ、車を通して企業と若者をマッチングする斬新な方法と言える。

実際に使用されている働こCAR

EVを採用したのはスマートにエネルギー事業に組み込むためだ。協賛企業には4台を駐車できる太陽光パネル付きの「ソーラーガレージ」を、たじみ電力が無償で設置。就業中の駐車時に太陽光発電によって充電を行う。協賛企業はたじみ電力に加入してもらい、余剰電力はたじみ電力が買い取って必要とする企業に販売する。2019年度のソーラーガレージの設置目標は20セット、EVレンタルは30台とした。「EVの利点は走ることで消費し、停まることで蓄えられること。これこそ地域で作った再エネを地域の中で循環させていくモデルです」(磯﨑氏)。

太陽光パネル付きの「ソーラーガレージ」には4台を駐車できる

2019年11月からは、基幹病院である岐阜県立多治見病院とたじみ電力が、非常時に電力を供給する協定を結んだ。多治見市内に設置したソーラーガレージも災害など非常時には電源スポットとして無料開放する。

磯﨑氏は「最終的な目標は多治見市の電気代を日本で一番安くすること」と話す。まずは多治見市を起点にこの仕組みを完成させ、「都会で働くよりも田舎で働くほうがいい」と魅力ある街にしていくのが理想だ。多治見市で生まれ育ち、地域に根ざしたプレーヤーだからこその情熱が、今日も磯﨑氏を駆り立てる。