<この記事を要約すると>

  • 神奈川県藤沢市のパナソニック工場跡地に造成された「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン」が街開きから5年を迎えた
  • パナソニックを中心とする企業コンソーシアム、住民、行政が一体となって街づくりを進めるスマートシティの先進例として、世界から注目を浴びている
  • 最初期の5年間の取り組みにより、Fujisawaサスティナブル・スマートタウンはどのように進化してきたのか。関係者に「これまでとこれから」を聞いた

世界でも類を見ないスマートシティとして注目を浴びる神奈川県藤沢市の「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン」。2014年11月の街開きから5年を迎えたこの街はどのように成長してきたのか。今もチャレンジを重ねる現場を訪れ、パナソニックやパートナー企業、藤沢市の担当者に「FSSTの5年間とこれから」について聞いた。

ブランド力が高い市に誕生したスマートタウン

人口約43万5千人の神奈川県藤沢市。風光明媚な江の島、人気のサーフスポットである辻堂・鵠沼を擁する湘南地域の中心都市として知られ、そのブランド力は全国的にも高い。ほどよい都心への近さと豊かな自然が両立することから、近年はファミリー層の転入が増加。大手広告会社が行った2018年のシビックプライド(市民の誇り)ランキングでは愛着度が全国1位となり、住みやすさにも定評がある。

1961年、パナソニック(当時は松下電器産業)はこの地に関東初となる工場を建設した。以降、同社主力工場の1つとして冷蔵庫やテレビを中心に製造してきたが、2009年に撤退。その工場跡地にパナソニックが中心となって“創造”したのが、「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(以下、FSST)」だ。

Fujisawaサスティナブル・スマートタウン

2014年にグランドオープンしたFSSTは、JR・小田急・江ノ電の藤沢駅からバスで10分の場所に位置する。東京ドーム4個分に相当する約19ヘクタールの敷地面積を誇り、今では2000人超が生活する街へと変貌を遂げた。今後も集合住宅の建設が予定され、最終的には2022年以降の完成を目指す。

むろん、FSSTはパナソニックにとって初めての街づくりである。これだけ巨大な規模の開発はデベロッパー主体でも難しい。そこでパナソニックでは孫世代まで安心して暮らせる“100年続くまち”を掲げ、ビジョンに賛同したパートナー企業とコンソーシアムを結成。企業同士が一丸となり、技術やインフラからではなく、街に住む人たちのくらしを起点とするスマートタウンの形成に励んできた。加えて藤沢市とは計画当初から協力体制を敷き、地域に根ざした持続する街づくりを心がけている。

東京ドーム4個分に相当する約19ヘクタールの敷地面積を誇る

一方、FSSTはICT/IoTをはじめとする先端技術・サービスを実装したスマートシティの先駆けでもある。5年間の累計で自治体・企業向けタウン見学ツアーの参加者は3000組/3万人を突破し、日本国内のみならず、世界50カ国以上から視察団が来訪している。これは、グローバル規模でFSSTの価値が認められていることを意味する。

2019年11月、FSSTは街開きから5年を迎えた。満5歳となった街は誕生からどのような進化を遂げてきたのか。今もチャレンジを重ねる現場を訪れ、パナソニックやパートナー企業、藤沢市の担当者に「FSSTの5年間とこれから」について聞いた。

パナソニックの目指す街づくりは、街を絶えずアップデートしていくこと

2019年11月17日。この日、FSSTでは地域住民との交流を目的とした文化祭が開催されていた。参加型のワークショップ、多彩な屋台、住民や学生らが参加したステージパフォーマンス、ミニサッカーやサイネージゲームといったアクティビティなど、さまざまなイベントが場を盛り上げた。家族連れを中心に笑顔が行き交い、“地域のお祭り”として活気に溢れていたのが印象に残る。参加人数は昨年の3000人から4300人へと大幅に増加したという。

FSSTでは地域住民との交流を目的とした文化祭が開催された

「文化祭の様子を見てもらえればわかるように、むしろFSSTの外の人たちが数多く足を運んでくれています。その意味でも、周辺から認められる存在に育ってきたのではないでしょうか」。そう語るのは、パナソニックの山本賢一郎氏。現在街づくりの根幹に携わっている人物だ。

だが、計画が立ち上がった10年前は“メーカーが街を創造する”などまるで夢物語のようなものだった。「工場跡地をこのような目的に活かすのは、社内でも相当チャレンジングな取り組みでした。当時はようやくスマートシティの概念が出始めた時期で、国内ではもちろん例がありませんでした。実現に至ったのは、次世代社会の動きを見据えて遊休地を有効活用したいとの思いが強かったからです」と山本氏は振り返る。

株式会社パナソニック
ビジネスソリューション本部
CRE事業推進部 部長
山本 賢一郎氏

パナソニックと藤沢市のビジョンが一致していたことも大きい。2010年に市と共同でまちづくり方針を策定した際には、地域の課題を解決し、エコ&スマートなくらしが持続する街を提案した。そこで示したFSSTのタウンコンセプトは「生きるエネルギーがうまれる街」。環境、エネルギー、安心・安全の3分野で全体目標を定め、全体目標を守るためのガイドラインを作成するなど、ゼロから街を構築するための体制を整えていった。

最大の特徴は実稼働の街をドライブする手段として、くらし起点の5つの分野横断サービスを明確化している点だ。エネルギー、セキュリティ、モビリティ、ウェルネス、コミュニティがそれに当たる。ここでは各分野に秀でた企業とパートナーシップを結び、先端のテクノロジーを投入しながら協業を深める。

全ての住宅が太陽光発電システムと蓄電池、HEMSを標準装備したスマートハウス

パナソニックを含めたコンソーシアムは全18団体。パートナー企業のうち9社が共同で「Fujisawa SST マネジメント株式会社」を設立した。「単なる運営会社ではなく、住民の皆さんと直接関わって生の声を聞き、コミュニティの醸成を図るのが目的。5分野のサービスをワンストップで届けるタウンマネジメント、各種の実証やマーケティング活動の窓口、そして街の情報発信も担当します」(山本氏)。

住民のニーズをつぶさに拾い上げることは、100年続くまちにとって不可欠な要素である。FSSTの街区がハードウエアだとすれば、Fujisawa SST マネジメントはOS、企業が提供するサービスやソリューションはソフトウエア、住民は文字通りエンドユーザーである。つまり、そこに住む人たちの意見が日々反映されるからこそ、街の健全な成長が繰り返される。

タウン内にあるFujisawa SSTタウンマネジメント株式会社のオフィス

「住民の皆さんが街づくりに積極的に関与する風土を作ることが、すべてのステークホルダーに役立つのです。タウンミーティングやワークショップも盛んに行われており、事業者と住民の方々が近い位置で意見を交換し合います。これは新規事業創出にとっても大きなプラスとなっています」(山本氏)

これらの意見交換から生まれた事例が、ヤマト運輸による「まとめて配送・オンデマンド配送サービス」や、学研グループによる「エアコン見守りサービス」。前者ではFSST内の2次配送をヤマト運輸が一元化し、各家庭に導入済みのテレビにパナソニックが宅配情報をプッシュ配信する。後者はパナソニック製のエアコンとセンサーによって、FSST内にある高齢者施設の部屋の温度・湿度や居住者の生活リズムを見える化し、遠隔で見守りを行う。

「どちらも現場の労働力確保に悩んでいる領域です。しかし、テクノロジーを活用することで再配達率を減らしたり、居住空間の可視化によって高齢者へのきめ細やかな対応ができる可能性が見えてきたりといった効果が現れ始めています。住民の方々からも非常に高い評価をいただいています」(山本氏)

エアコン見守りシステムが導入された高齢者施設の部屋

このように街に関わる人すべてがFSSTの未来を育て、イノベーションを生み出し続ける仕組みを「まち親プロジェクト」と名付け、周辺地域を巻き込んだコミュニティの創生も始まった。山本氏は「住民との結びつきを密にすれば、新たなサービスが生まれ、街にフィットする好循環が生まれます。このスタンスは何十年後も同じように維持しなくてはなりません。オールパナソニック、さらにはパートナー18社のインキュベーションの場として機能させていきたいですね」と語る。

FSSTを足がかりに、2018年3月には横浜市綱島に都市型のコンパクトな「Tsunashimaサスティナブル・スマートタウン」がオープンした。2022年春には関西初として大阪府吹田市に医療・健康連携型の「Suita サスティナブル・スマートタウン」の街開きを予定する。

Suita サスティナブル・スマートタウンでは、エネルギー分野でより環境に優しい街づくりを目指す。パナソニックの太陽光電力買い取りサービス契約者の卒FIT電気や電力会社の発電した再生可能エネルギーを含む電気をエリアで一括受電し、再エネ由来の非化石証書を活用することで、商業施設を含む街区全体の消費電力を実質的に再生可能エネルギー100%で補う、日本初の「再エネ100タウン」にすることが目標だ。

セキュリティ分野ではパナソニックが得意とする高度な画像認識技術やロボティクス技術と、警備員を配置した見守り拠点の設置によって安全・安心とホスピタリティの両立を実現。注力するウェルネス分野では、近隣で進める北大阪健康医療都市と連携。行動センシング技術を応用した認知症の早期発見・予防・緩和に取り組む予定である。こうした展開も、FSSTの成功事例があったからこそだ。

「パナソニックの目指す街づくりは、街を絶えずアップデートしていくこと。その中心になるのはこの街をどうやって育てていくかという熱い思いに尽きます。その思いを持ち続けることが大事なのだと、この5年間で学ぶことができました。この後も住民ニーズに即した運営を続けていきたいと考えています」(山本氏)