子どもからお年寄りまで、カギは多世代交流にあり

FSST内には、健康・福祉・教育施設として「ウェルネススクエア」がある。このウェルネススクエア南館でサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)を運営するのがパートナー企業の1つである学研グループだ。施設はサ高住をメインとするが、1Fに学習塾、保育所・学童保育、クリニック、交流ホールを置く。この構成からわかるように、多世代交流がカギとなっている。

ウェルネススクエア南館の外観

学研ココファンの中山省吾氏は、FSSTに参加したきっかけをこのように話す。

「日本では、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者を迎える『2025年問題』、65歳以上の高齢者人口がピークとなる『2040年問題』が現実問題として襲ってきます。そこで人口減少や超高齢社会の課題を解決するため、現実的な対策を講じる実証フィールドとして参加しませんかとお声がけいただいたのです。

株式会社 学研ココファン
総合企画部 マネージャー(開発担当)
中山 省吾氏

ちょうど我々もフィールドを求めていたので、一緒に取り組むことになりました。それに子どもたちとお年寄りが交流することは、双方にとって良質な効果があります。多世代交流拠点は、将来的に学研ココファンが目指す方向性とも一致しています。FSSTは、そのステップになっているのです」(中山氏)

南館で働く学研ココファン ココファン藤沢SST コーディネーター 石澤智子氏は、交流ホールでのイベントを手がける。例えばクリスマスイベントや中学生による合唱コンサート、最近では親子がそろって参加する囲碁教室などが人気コンテンツだ。今年の文化祭ではけん玉や折り紙教室など、高齢者と触れ合う機会を設けた。

「イベントをきっかけに、FSSTの住民以外の方も気軽に訪問できるような場を提供しています。サ高住と保育所などの子育て支援施設なので、こちらから仕掛けないと間の世代はなかなか来てくれません。生きた場を舞台に、交流を深めてほしいと思います」(石澤氏)

株式会社 学研ココファン
ココファン藤沢SST コーディネーター
石澤 智子氏

国際担当として携わる学研ココファンの加藤虎雄氏は、「海外からも非常に注目を浴びています。とりわけ中国ではパナソニックの知名度が高く、そのパナソニックが協力した施設ということでとても受けが良い。ぜひこのようなコンセプトで自分たちの街を築きたいとの要望も多いですね」と、グローバルからの反響を実感している。

株式会社 学研ココファン
総合企画部 タウンプロジェクト・国際担当マネージャー
加藤 虎雄氏

先に挙げたエアコン見守りサービスは、サ高住の住居70戸に導入された。「IoTでどれだけの信頼度が得られるかを検証しているところですが、介護従事者の労働負荷低減、入居者へのサービス向上手段として具体的な社会課題解決のソリューションになると感じています。最後は人間が確認する必要はあるものの、かなり使える実感が出てきました」と中山氏。石澤氏も「見守りサービスで得られたデータをもとにして、ケアの気づきのタイミングも変わってくるはずです」と手応えを見せる。

中山氏は、昨今盛り上がりを見せるSDGs(持続可能な開発目標)になぞらえて、「FSSTはSDGsが掲げるテーマの数多くを実践している場所」と評価する。「ウェルネススクエアが開設してから3年経ちましたが、ようやく自然な多世代交流が芽生えてきました。これも自分たちの街は自分たちでつくるとの姿勢があるからこそ。それが言葉本来のサステナブルにつながってくるのではないでしょうか。どんどん成長する街になればいい」(中山氏)。超高齢社会との新たな向き合い方が、ここから生まれるかもしれない。

FSSTは日本社会を占うヒントでもある

工場撤退にあたり、藤沢市では大規模な土地転換の行く末を案じていた。所有企業が土地を手放し、ショッピングモールに代表される商業施設、あるいは大型マンションなどに生まれ変わるのが一般的だが、藤沢市はより持続可能な方向性でパナソニックと協議。2010年に基本合意を交わし、スマートタウン実現に向けて取り組んできた。藤沢市役所の水野郷史氏は、藤沢市とFSSTの好相性について次のように語る。

「藤沢市は子育て世代の転入が多く、人口増加が続いています。交通アクセスが良く、コンパクトな街で暮らしやすいのがその要因です。いかに暮らしやすい街を作るかとのビジョンはFSSTとまったく同じものでした」(水野氏)

藤沢市役所 企画政策部
企画政策課 主幹
水野 郷史氏

これまで市では公共的な側面からサポートしてきた。例えばFSSTの中心に位置する集会所の「コミッティセンター」を取り巻く円形公園は、市の協力があったからこそ実現した。藤沢市役所 企画政策部 企画政策課 主査 村松敬祐氏は市の窓口を務め、社会課題解決に向けてFSSTから出された提案を関係部署に橋渡ししている。

街のシンボルとなる集会施設「コミッティセンター」と円形公園「セントラルパーク」
非常時には避難スペースにもなるという

「国内外からの視察も多く、FSSTが情報発信源となって藤沢市が世界に知られる効果もあります。視察者に最も関心が高いのが、エネルギーの見える化です。テレビのタウンポータルシステムで各家庭においてどれだけエネルギーを使ったかがひと目でわかり、非常時には防災情報を確認できます。ポータルサイト上で住民同士が交流し、新たなイベントが開催されることもあります。そうした住民の意識の高さも含めて各方面から評価されているのだと思います」(村松氏)

藤沢市役所 企画政策部
企画政策課 主査
村松 敬祐氏

先進的な街の姿勢は、行政側にも強く響いている。「FSSTは最先端の技術を活用した街ぐるみのプロジェクト。今後、市として街づくりを進めるにあたり、先導的な役割を果たしてくれると期待しています」。村松氏はこう話す。

水野氏は「湘南エリアの住民は新技術に対する社会受容性が高い傾向にあり、その意味でもFSSTという実証フィールドの存在は大きい」と分析する。自動運転社会を見据えた次世代物流サービスの開発に向けた「ロボネコヤマト」の実用実験を行なったのがその一例だ。

「少子高齢化、人材不足が進む厳しい時代を乗り越えるには、効果的なテクノロジー活用が必須になってきます。FSSTは藤沢市はもとより、日本社会の在り方を占うヒント。自治体でスマートシティ政策が盛んになってきていますが、FSSTでの取り組みは各自治体での手本になっています。FSSTが優れているのは、くらし起点でテクノロジーを取り入れているところ。市民生活にどのようにテクノロジーを活用していくか――その視点で引き続き、FSSTとのパートナーシップを強化していきます」(水野氏)