トンネルには不可欠な命綱とも言えるシステム

パナソニックのトンネル換気事業はいまから52年前、旧松下電器時代の昭和43年(1968年)に始まった。この年、初めて富山県・石川県の県境に位置する倶利伽羅(くりから)トンネルにジェットファンを納入し、その歴史はすでに半世紀を超えている。およそ10年後の昭和54年(1979年)には北陸自動車道の敦賀トンネル内に電気集塵機を初納入。平成16年(2004年)にはベトナムの長大なハイバントンネルに換気設備を納入するなど、確固たる地位を築いてきた。

現在、同事業を担当するパナソニック環境エンジニアリングは、昭和51年(1976年)に松下精工の送風機事業部技術サービス部から分離独立した「換気送風エンジニアリング(株)」が源流。平成20年(2008年)に現在の社名に変更し、トンネル内換気システム、排水処理システム、農畜産用換気システム、土壌・地下水汚染浄化など、水、空気、土、エネルギーを中心としたソリューション提案や技術支援を主軸とする。

パナソニック環境エンジニアリングの岩田敏朗氏は「パナソニックは家電のイメージが強いかもしれませんが、ジェットファンや電気集塵機といったトンネル内換気システムには長い歴史と実績があります」と話す。事実、ジェットファンは累計納入台数が約2,000台で国内1位の納入実績を誇り、電気集塵機も国内トップのシェアだ。電気集塵機に関しては日本で初めて開発したメーカーでもある。

パナソニック環境エンジニアリング株式会社
環境ソリューション事業グループ
道路環境EU 営業グループ
グループリーダー
岩田 敏朗氏

ジェットファンは、トンネル内の“巨大な扇風機”を想像してもらえればよい。その姿は旅客機のジェットエンジンを彷彿とさせる。これによりトンネル内部の空気の流れをコントロールすることができる。

換気所に設置された排風機により吸い込まれた、自動車の排出ガスなどに含まれる粉塵は電気集塵機によって捕集する。ここで粉塵を電気の力で除去し、集塵後のきれいな空気を送り出す。電気集塵機はトンネルとつながる換気所との接面に位置し、その後は浄化された空気が大型ファンの排風機を通じて地上の排気塔から上空に吹き上げられる。これが換気システムの一連の流れだ。

ファンから吹き出す風でトンネル内の空気の流れをコントロールすることができる

阪神高速としても、大和川線はトンネル換気設備として同社過去最大の事業になる。阪神高速道路の味原和広氏は、いかに換気システムが重要なのかを次のように説明する。

「大和川線は密集した都市の地下を走る高速道路です。今回は、車両の走行による空気の流れを有効活用し周辺環境保全にも有用な集中排気式縦流換気と呼ばれる方式を採用しました。その方式の中で交通量の変動対策としてジェットファンを設置しています。昨今では自動車排出ガス規制が強化されており以前よりもクリーンになってきているとはいえ、環境保全は必要となります。そこで大和川線では5カ所に換気所を設け、トンネル内の空気を吸い込み電気集塵機で浄化することで更なる環境保全を図っています。

阪神高速道路株式会社
建設事業本部 堺建設部 施設課
課長
味原 和広 氏

一方、トンネル火災が発生した場合のリスクも考慮しなくてはなりません。大和川線では火災時の交通状況などに応じた煙の制御を行うこととしました。例えば、火災発生地点前後に避難されるお客さまがおられる場合は、ジェットファンで煙の拡散を抑制することで、避難環境を改善することができるのです」(味原氏)

火災時の交通状況に応じた煙の制御を行い、避難環境を改善する

パナソニック環境エンジニアリングでは、大和川線にジェットファン78台、電気集塵機64台、排風機14台を納入した。これはパナソニックのトンネル換気工事として過去最高規模であり、機器の製造のみならずトンネル換気設備全体の設計・施工までをカバーした。

落札したのが2014年。完成まで、足掛け6年にも及んだビッグプロジェクトとなった。岩田氏は「提案時には、営業、設計、工場、施工など主要部署から知恵を持ち寄って内容のブラッシュアップを重ねました。そこでコスト面、技術面含めて総合的に評価していただいたのです」と同社の取り組みを振り返る。

軽量化の技術力をいかんなく発揮

パナソニックは、技術面でも努力を重ねた。特筆すべきが新たに開発した短尺軽量ジェットファンだ。発注時の仕様は幅4.25メートルだったが、最終的に2.5メートルに短縮。重さも2.0トンから1.5トンへと約25%の軽量化を実現した。新型の短尺ジェットファンは、大和川線で最も長い第3トンネルに56台納入されている。

「阪神高速様の要望もあり、経済性やメンテナンスのしやすさといった点を考慮して開発したモデルです。機体を短くすることはさほど難しくないのですが、消音に作用するサイレンサーも短くなるため、騒音が大きくなってしまいます。そのため吸音材や羽根の形状などを再度見直すことから始めました。そして発生騒音の基準値を保ち、規定風量と強度を確保しながら機体を短くすることに成功したのです。

弊社はこの業界では老舗で、ノウハウを蓄積していたことも大きい。また、パナソニックグループが得意とする顧客ニーズの捉え方を熟知し、他社に比べて小回りが利く点も強みだと感じています。新型ジェットファンの開発にしても、受注後から始めたものです。我々には“受注しておしまい”との考えはありません」(岩田氏)

排風機により吸い込まれた自動車の排出ガスなどに含まれる粉塵は電気集塵機によって捕集する

味原氏は「性能を維持した短尺ジェットファンの採用により、追加施工のあと施工アンカーボルトも少なくて済み、信頼性向上につながりました。電気集塵機も省電力機能を強化したもので、消費電力まで配慮してもらえたのはありがたい」と語る。インフラ設備は運用してからが本番であるだけに、信頼性、耐久性も重要になってくる。「供用(道路の開通)後にも交通状況などは変化してきます。ですから、引き続きパナソニックさんから運用方法の改善提案などに期待したい」(味原氏)

これを受け岩田氏は「エンジニアリングの名を冠しているのは、メンテナンスを含めて最初から最後までお付き合いすることを理念としているから」と応えた。今後も日本各地における新規道路計画は続き、あわせて老朽化したシステムの更新需要が見込まれる。この追い風に乗り、トンネル換気事業は2025年度に50億円以上の売上を目指しているという。普段目にすることのない地味な分野だが、ここでもパナソニックは人びとの生活を支えている。

浄化された空気は大型ファンの排風機を通じて地上の排気塔から上空に吹き上げられる