<この記事を要約すると>

  • パナソニックでは2019年に、自社遊休地を活用したリノベーションプロジェクト「TENNOZ Rim」をオープン
  • 東京ウォーターフロントの聖地、天王洲エリアを舞台に三菱地所レジデンス、寺田倉庫と三位一体となって運営している
  • 単なるビルのリノベーションではなく、最終的には“地域のハブ”になることを目指す
  • プロジェクトに参加した各プレイヤーの熱い思いを紐解いていく

人が過ごす空間の性質、様相が大きな変容を遂げている今、改めてまちづくりの価値に目を向けることに意義が求められている。パートナー企業とのエリアリノベーションを通じて新しい価値創出を目指すパナソニックの「TENNOZ Rim」プロジェクトが、2019年からスタートした。次世代を見据えたオフィススペースや地域と連携した活動、「リバリュープロジェクト」と名付けたサーキュラーエコノミー(循環経済)の取り組みについて、関係者に話を聞いた。

エリアの価値そのものを高めることがコンセプト

東京・品川の天王洲(てんのうず)エリアは、運河に面したウォーターフロントの代表格だ。かつて流通倉庫の集積地だった界隈は1990年代〜2000年代の大規模再開発によって生まれ変わり、現在はオフィスビルやタワーマンションが立ち並ぶ。さらに巨大ターミナルの品川駅港南口から徒歩圏内にあるなど、恵まれた環境に位置している。

運河に面したウォーターフロントの代表格、天王洲エリア

1993年、パナソニックは旧海岸通り(都道316号線)沿い、天王洲橋のたもとにショウルームを開設。2002年に閉鎖された後は同社の事務所として運営していたが、2013年に遊休化。以降は天王洲エリアに根を張る寺田倉庫株式会社に倉庫として貸し出していた。この遊休地を再生したプロジェクトが、今回紹介する「TENNOZ Rim」である。

TENNOZ Rim

鉄骨造・地上2階建ての建物は、天王洲運河に隣接する。都心にいながらにして癒やしを感じられる“地の利”を活かし、パナソニックではTENNOZ Rimを単なるリノベーション物件ではなく、天王洲エリア活性化の拠点として有機的に活用するコンセプトを固めた。

この計画を実現するためには、パナソニック単独では限界がある。そこで先に関係のあった寺田倉庫に加え、ビルリノベーションに強い三菱地所レジデンスを仲間に引き入れた。こうしてTENNOZ Rimは、3社から成る共創リノベーションプロジェクトの形で2018年からスタートした。

2019年6月にオープンした施設は、1階に都内最大級のリハーサルスタジオ(寺田倉庫)、カフェとイベントスペースを融合したマルチコミュニティスペースの「KITEN(きてん)」(株式会社 FRAMELUNCH)、地域の方も自由に使える共用ラウンジ、2階にコワーキングスペース「ザ・パークレックス 天王洲[the DOCK](以下、[the DOCK])」(三菱地所レジデンス)、「次世代オフィスLab「PORT」」(パナソニック)を配置する。

[the DOCK]は、活発なコミュニケーションが可能な「メインキャビン」、大胆に緑を採り入れた集中型スペースの「キャナルキャビン」を用意。作業内容に応じてギアを切り替え、生産性を高めてくれる空間を用意する。2つのスペースをつなぐ共用部には交流ラウンジの「ブックパーク」を設け、TSUTAYAのセレクションによる良質な書籍を読むことができる。

交流ラウンジの「ブックパーク」

プロジェクトを牽引したのはパナソニック ビジネスソリューション本部 CRE事業推進部だ。同事業推進部はこれまで、日本のスマートシティの先駆である「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(FSST)」や「Tsunashimaサスティナブル・スマートタウン(TSST)」、大阪・吹田市の「Suita サスティナブル・スマートタウン(SSST)」を手がけてきた実績を持つ。指揮に当たったCRE事業推進部の福富久記氏は、TENNOZ Rimのあり方をこのように解説する。

「TENNOZ Rimは、この場所を起点にエリアを環状につなげて価値を高めていくことがコンセプト。さまざまなパートナーと共創することで、地域と連携した活動を展開したいとの思いが出発点です。FSSTやTSSTの成功例により、遊休地の再生利用の可能性が見えてきたことも背景にありました。

そこにそれぞれが持つ強みを持ち寄ることにしました。まず、寺田倉庫は以前から天王洲エリアを中心に活性化の取り組みを継続されているので、プロジェクトには不可欠な存在です。三菱地所レジデンスは都心の中小規模ビルリノベーションのノウハウが豊富で、今回もその知見を存分に発揮しています。そしてパナソニックは長く家電を作り続け、お客様に最も近い場所でサービスを提供することを得意としてきました。施設内にはパナソニックの最新テクノロジーを採用しており、多くの利用者に好評をいただいています」(福富氏)

パナソニック株式会社
ビジネスソリューション本部
CRE事業推進部
事業開発課
プロジェクトマネージャー
福富 久記 氏

具体的なテクノロジーを紹介していこう。1階の共用ラウンジにある3Dフォトスキャナは、わずか0.01秒で全身の3Dアバター(分身)を撮影可能。モーションキャプチャによってリアルタイムで動きを反映させることができる。先日も3Dコンテンツに利用するために10数人ほどが訪れ、瞬間的なアバター作成に驚いていたという。

3Dフォトスキャナ

2階の天井には54カ所ものIoTセンサーを配置し、オフィス空間のデジタルデータを収集・分析して可視化。利用者それぞれの好みに応じた空調、照明、映像の自動制御、動線分析によるオフィスレイアウトの検証など、データを軸にした空間マネージメントに力を入れている。

象徴的なのがコワーキングスペースのコモレビズだろう。バイオフィリックデザイン(自然を感じさせる空間デザイン)による緑あふれるスペースに最先端テクノロジーが融合し、非常に居心地の良い空間を演出する。特筆すべきは、高級オーディオブランドとして知られるテクニクスが全面協力した空間音響設計技術。言われなければどこにスピーカーがあるかわからないほどだが、まるで森の中にいるように鳥や水のせせらぎの音が周囲を取り囲む。リラックスしながら集中するにはうってつけの環境だ。この素晴らしさは、ぜひ一度体験してみることをお薦めする。

コワーキングスペースのコモレビズ

リラックスという意味では、ブックパークの奥に位置する仮眠・お目覚めルームも見逃せない。LED照明の明るさと色を時間に合わせて自動制御し、20分ほどの質の高い眠りをサポート。新型コロナウイルスの影響により閉鎖空間での仮眠需要は減少したものの、一方では個室でオンライン会議をしたいとのニーズが増えている。福富氏はこれをチャンスと捉え、“顔がきれいに映える”照明のチューニングを行い、オンライン会議の用途にアピールする構えだ。

「当初想定したターゲットが天王洲エリアに住んでいることが確認できました。パナソニックの最新テクノロジーを設置することで、まずは感度の高いアーリーアダプター、アーリーマジョリティが集まってきています。コロナ禍の前、寺田倉庫のリハーサルスタジオでは、演者が一斉に集まって大型ミュージカルの通しリハを行う一方で、スタッフは2階のコワーキングスペースで作業をする姿が日常となっていました。防音設備もしっかりしているため、このような利用が可能になるのです。

アフターコロナのニューノーマルの観点では、住宅地に近い分散型サテライトオフィスの利用が見えてきました。先ほどのオンライン会議室のニーズなどは正にそうですし、口コミでの広がりも出てきました。1階のイベントスペースもオンライン発表会やウェビナー会場など、発信の場としての利用が増えています。

最新照明制御技術が導入された仮眠室

規模は小さいかもしれませんが、機能を凝縮しているのがTENNOZ Rimの特徴。身近な生活圏内にあるこうした複合施設の在り方は、これからの1つのモデルケースになる可能性を秘めています。今回の共創リノベーションモデルは、街の課題解決に求められる機能やテクノロジーをスピード感を持って社会実装する手段としても非常に有効です。直にお客様と触れ合いながら、利用法をアップデートしていくことも我々の使命だと思います」(福富氏)

よりマクロな地域活性化の視点では、地元の一般社団法人 天王洲・キャナルサイド活性化協会に協力を仰ぎ、TENNOZ Rimを「エリアのハブ」にすべく奔走している。この地では年4回、「天王洲キャナルフェス」が開催されており、パナソニックは前回のフェスで映画館のスクリーンにも勝るサイズのプロジェクションマッピングを提供。地域住民から喝采を浴びた。

「天王洲エリアには多種多様な方々が訪れますが、運河が水辺空間として魅力である一方、人の流れが分断されてしまうことが課題とされてきました。TENNOZ Rimをエリアの回遊性を高めるための結節点、人と人が有機的につながるハブにすることも理想の1つです。3社の共創はあくまでスタートであり、それ以外のエリア関係者にもこの場を活用してほしいと考えています。

パナソニックの社内からは、TENNOZ Rimを拠点に新たなチャレンジをしてみたいとの声が届き始めています。自社所有物といった捉え方ではなく、パートナーやエリアを巻き込んでいろんなアイデアを具現化できるため、魅力的なのでしょう。我々もこの共創リノベーションモデルを次の遊休地活用につなげていきたい。それはパナソニックだけではなく、パートナーにとっても、地域にとってもかけがえのない価値を生むことになります」(福富氏)