共創により、新しい空間の提供に成功

三菱地所グループで主に住宅不動産を手がける三菱地所レジデンスでは、2014年から老朽化したビルを再生するReビル事業を開始した。三菱地所レジデンスの酒井勇生氏は「Reビル事業グループは、築古ビルをリノベーションして再生を図る部署。新規事業のミッションであり、三菱地所レジデンスの中でも異色の存在です」と、その立ち位置を説明する。

TENNOZ Rimでは、エッジの立ったその姿勢がケミストリーを生んだ。元来、三菱地所グループは大丸有(大手町・丸の内・有楽町)の超都心エリアを得意とし、日本の中心を開拓してきたパイオニアだ。事実、品川区東品川でのビルリノベーションは今回が初めてのケースとなる。「しかし、TENNOZ Rimのプロジェクトはチャレンジにはもってこいの環境でした。このエリアで信頼を得ている寺田倉庫、なおかつパナソニックの最新テクノロジーと組んだらこれまでにないユニークなリノベーションになる――そんな思いからスタートしました」(酒井氏)

三菱地所レジデンス株式会社
投資アセット開発事業部
Reビル事業グループ
リーダー
酒井 勇生 氏

改めて整理すると、TENNOZ Rimはオーナーがパナソニック、三菱地所レジデンスと寺田倉庫が10年契約の店子として借りているスキームになる。そこで三菱地所レジデンスは2階のコワーキングスペースとパナソニックLabo、1階のKITENを管理している。

不動産のプロから見れば、品川駅、天王洲アイル駅の間で駅近のメリットは出しにくい。この立地の課題を強みに変えるべく、三菱地所レジデンスは発想を転換した。

「事前のコンセプト作りは濃密な時間でした。3社の担当者が毎週定例会を開き、どんな空間にしていくかを徹底的に議論しましたから。我々としては、まずはいかにして快適な環境を作るかにフォーカスしなくてはならない命題がありました。

そこで眺望の良い川沿いを売りにするため、運河が見える場所にコモレビズを導入しました。コモレビズはパソナ・パナソニック ビジネスサービスがパートナーらと協業しているもので、緑視率(人の視界に占める緑の割合で、 緑の多さを表す指標)とストレス軽減が関係するエビデンスを反映したソリューションになります」(酒井氏)

ゆったりと長期滞在ができる空間づくりを目指したコモレビズ

コモレビズは “静”を意識したスペースだが、メインキャビンは酒井氏いわく「ワイガヤ空間」を意識した“動”のスペースだ。そして間にあるブックパークは、2つの執務室に挟まれたコミュニケーションスペース。「この3つを総合体とすれば、従来のコワーキングスペースにはない大きな武器になります。ゆったりと長期滞在ができる空間づくりを目指した結果、駅から遠くても利用したい付加価値が生まれたのです」(酒井氏)

これまで、リノベーションしたビルにどんな快適な環境を提供すればテナントの満足度が向上できるのか知見が少なかったと話す酒井氏。だが、「パナソニックと組むことで新たな気づきを得られました」と振り返る。

「三菱地所グループだけでは情報が限定されてしまいます。パナソニックは現在、かつての家電のイメージから脱却しようとさまざまな変革を行い、そのダイナミズムに刺激を受けている部分もあります。それに、初めてのエリアで展開する上で、寺田倉庫の強力な地域ネットワークは欠かせないものでした。アフターコロナの社会では、この場所は魅力的なサードプレイスになるはずです。まずは周辺の人たちにしっかりとメッセージを伝えながら、将来的にはエリアの活性化に貢献していきたいですね」(酒井氏)

循環型モノづくりをアップデートしたリバリュープロジェクト

もう1つ、TENNOZ Rimに欠かせない要素として挙げられるのが「リバリュープロジェクト」。循環型社会の実現に向けて、パナソニックの工場から出された排出物にクリエイターがデザインを施し、新たに“生命”を吹き込んで再生させる試みである。

2階のブックパークではIHジャー炊飯器の内釜をランプシェードに再利用した照明、アイロンプレート部分を活用したブックエンドを、1階の共用ラウンジでは、システムキッチンのシンク部分をくり抜いた部材を用いたテーブルを常設展示している。

アイデアとデザインで新たな価値を創出する「リバリュープロジェクト」

もともとパナソニックでは、2010年から資源循環を狙いとした循環型モノづくりを推進してきた。ここでは材料のリサイクルに力を入れてきたが、SDGsに代表されるように時代の流れは「持続可能な」社会へと変化。その一環として、2019年からは製品そのものや部材・端材を循環・再生・再利用することでお客様の使用価値を最大化する「サーキュラーエコノミー」の考え方を採用した。

サーキュラーエコノミーの取り組みコンセプト

リバリュープロジェクトは、リノベーションによる再生・活性化を目的とするTENNOZ Rimと同じ方向を向いており、こうした考え方を具現化した取り組みの先駆けとなる。そもそもCRE事業推進部がパナソニック デザイン本部 未来創造研究所にTENNOZ Rimの活用について相談したことがきっかけとなった。未来創造研究所の真貝雄一郎氏は、「企画を支援する中で、パナソニックの工場から出る排出物をアップサイクルされた什器として設置するのはどうかと提案しました。サーキュラーエコノミーに向けた取り組みはもとより、アップサイクルプロダクトを通じて家電・設備機器の中に息づくものづくりへの想いを空間の中で感じて頂くことも狙っています」と話す。

パナソニック株式会社
デザイン本部 未来創造研究所
デジタルリレーションラボ
サービスUX課
シニアデザイナー
真貝 雄一郎 氏

真貝氏の発想は、今回のパートナーの活動がヒントになっている。それが、TENNOZ Rimの設計監理を担当した設計事務所、Open A(オープン・エー)が取り組んできた「THROWBACKプロジェクト」だ。

THROWBACKプロジェクトは、オープン・エーと産業廃棄物処理業者のナカダイが2017年から始めたもので、「棄てられたモノを、再び社会に投げ返す」との意味を込めている。廃校に伴い処分された跳び箱で作ったベンチやテーブル、高速道路で使われていた照明を利用したフロアランプ、ソーラーパネルを天板に用いたテーブルなど、本来は廃棄されておしまいだった製品や部材を見事に蘇らせることに成功した。オープン・エーの大橋一隆氏は、パナソニックとの邂逅を次のように語る。

「弊社は三菱地所レジデンスとReビル事業を手がけており、その縁で今回パナソニックと初めて出会いました。真貝さんから持ちかけられたとき、THROWBACKプロジェクトにとっても渡りに船だったんです。製造業の過程で出てくる排出物を素材として入手できれば、継続性が高まります。我々の狙いは一点物のアート作品をつくるのではなく、生活の中で実用的に使える製品として再流通させること。その仕組みにつながる可能性を感じました。プロダクトの制作にあたっては、まずはどんな排出物があるかを確認させてもらうことから始めました」(大橋氏)

株式会社オープン・エー
ディレクター
大橋 一隆 氏

だが、社内でも企画や新規取り組みへのデザインコンサルティングを業務とする真貝氏は工場にコネクションがあるわけではない。そのためCRE事業推進部が仲介役となり、品質・環境本部 環境経営推進部の石橋健作氏を頼った。「私自身、パナソニックのサーキュラーエコノミーを推進する立場の人間。(CRE事業推進部の)福富さんから“こうした取り組みを一緒にやりませんか?”と持ちかけられて、大きな意義を感じました。ならば私がブリッジとなり、工場ときちんとつなごうと考えたのです」(石橋氏)

パナソニック株式会社
品質・環境本部 環境経営推進部
グローバル環境推進課
サーキュラーエコノミーユニット
ユニットリーダー
石橋 健作 氏

当初、工場に排出物を見せてくれないかと提案したところ「一体何に使うのか?」といぶかしがられたという。「でも、再生品のサンプルを見てもらったら理解していただきました。こんなふうに生まれ変わるのかと興味が湧いたようです」(石橋氏)。その後、石橋氏の尽力もあり、パナソニックの工場がオープン・エーとサプライヤー契約を交わすまでになった。

「一度限りの試作品では意味がありません。小規模なデザイナー製品ではあるものの、再生品に部品が利用できるスキームを構築しました。それにオープン・エーはパナソニックでは気づきにくいアイデアを提案してくれた。炊飯器の窯がランプシェードに生まれ変わるなど、見ている角度が違います。

私は長年、パナソニックの中で環境問題や循環型モノづくりに携わってきましたが、循環の取り組みは1社では無理です。TENNOZ Rimは共創の場ですから、リバリュープロジェクトにとっても最適な空間なのです」(石橋氏)

システムキッチン天板のテーブルと樹脂ランプ

TENNOZ Rimでの展示が好評だったこともあり、2020年6月からは期間限定(2020年9月30日まで)で東京・二子玉川の蔦屋家電内に設けた「RELIFE STUDIO FUTAKO」で、今回生まれたアップサイクルプロダクトやTHROWBACKプロジェクトの再生品が展示されている。

「二子玉川では、より生活空間に近いスペースで展示しています。これから主力となるミレニアル世代やZ世代は実用性だけでなく、製品が生まれた背景などに惹かれる傾向が強い。ですから二子玉川の展示は、こうしたストーリーのある再生品をいかに普段の暮らしの中で使ってもらうか、そのショウケースにもなっています。品質・環境本部とは、今年度も継続してサーキュラーエコノミーのプロジェクトを手がける予定です。先日、社内でオンラインセミナーを開催したところ120人ほどが集まり、関心の高さを感じました」(真貝氏)

「モノをより大事に使っていく文化の醸成――今回はパートナーとの取り組みで先駆けとなる事例を示すことができました。TENNOZ Rimは、そうした意識を発信・醸成する拠点にもふさわしいと感じています。最終的には日本だけではなく、世界にも広がっていけば」(石橋氏)

サーキュラー=環状につながることは、TENNOZ Rimのコンセプトそのものである。この7月からはコワーキングスペースで、退社後・休日の利用をターゲットにした「ナイト&ホリデー」の新プランも始まった。ぜひこの機会に、次世代を濃縮した空間を訪れてみてはいかがだろうか。