<この記事を要約すると>

  • 星の町として名高い岡山県井原市美星町は全国初の光害防止条例を制定した町としても知られる
  • 現在、町では国際ダークスカイ協会(IDA)による「星空保護区」の認定取得に注力。だが認定には色温度が3000 K(ケルビン)以下の電球色であって上方に一切光が漏れないLED防犯灯が求められていた
  • 防犯灯の開発にパナソニック ライフソリューションズ社が全面協力。2020年1月、国内製品として初めてIDAの厳しい基準をクリアした
  • “星空の世界遺産”をめざす自治体、NPO、パナソニックによる3者の取り組みを、当事者のインタビューから浮き彫りにする

国内屈指の「星空の名所」として知られる岡山県井原市美星町。町では今、国際ダークスカイ協会(IDA)による「星空保護区」の認定取得に注力している。だが、認定のためには現在設置してある防犯灯から高い基準を満たす照明器具に取り替える必要があった。そこでパナソニックが全面的に協力し、IDAの厳しい基準をクリアした防犯灯と道路灯を開発。晴れて2020年1月に、日本のメーカーとして初の認証を受けた。美しい星の町を守るため、自治体とNPO、パナソニックがチーム一丸となって取り組んだ物語を、当事者たちの言葉から読み解く。

我らは星の町、だからこそ余計な光をなくしたい

岡山県は“晴れの国”と呼ばれ、晴天率が高く大気が安定しているために天体観測に適した地として知られる。2018年には井原(いばら)市、浅口市、倉敷市、岡山市、矢掛町など県内7市町が「天文・星空資源の活用による誘客促進」を掲げ、地域課題解決支援プロジェクトを実施。「天文王国おかやま」をうたい、モニターツアーやスタンプラリーなどのキャンペーンを行なっている。

中でも2005年に井原市と合併した美星町(現在は井原市美星町)は、名は体を表すかのごとく、“星”を中心にまちおこしを続けてきた町である。美星町星田には、かつて3つの流れ星が落ちたとされる「星尾降神伝説」を受け継ぐ星尾神社があり、毎年8月7日には大々的な七夕祈願祭が催される。1993年には、町を見下ろす頂に「美星天文台」がオープン。現在も国内各地から多くの天文家・天文ファンが訪れる地域のランドマークとなっている。

美星天文台から見上げる空には満天の星が光り輝いている

美星天文台が建設される4年前、1989年11月に美星町は全国初となる「美星町光害(ひかりがい)防止条例」を制定。ここで言う光害とは、人工照明による散乱光により、星空が見えにくくなることを指す。町では美しい星空環境を守るため、光が上方に漏れない照明器具や、夜10時から日の出までの屋外照明の消灯の奨励などを条例で定めた。

条例の制定に奔走したのが岡山県井原市美星支所の伊達卓生氏。そもそもは、32年前に開催した星のイベントがきっかけとなった。

「1988年に『星の降る夜』という名のイベントを初めて開催しました。県内各地から約100人の天文家が集まったのですが、当日はあいにくの雨で『雨の降る夜』になってしまいました(苦笑)。ただ、そのときに天文家の人たちが酒を酌み交わしながら星空談義をする中で、『米国に国際ダークスカイ協会(IDA)ができたらしい。日本でも光害から星空を守るために美星町が先陣を切るべきだ』とのアドバイスをいただきまして。ちょうどその年にIDAが発足し、天文家の間では話題になっていたんです。

美星町では“星はいつでもそこにあるもの”との感覚で、星空がそこまで強力なコンテンツになるとは考えていませんでした。しかし町外からの意見を聞くにつけ、これからは星を中心としたまちおこしが町のブランディングにつながるとの思いから、光害防止条例を制定することになったのです」(伊達氏)

岡山県井原市美星支所
美星振興課
課長
伊達 卓生 氏

とはいえ全国初の試みだけに手探りで進んだ。伊達氏は環境庁(当時)に相談したり、シンポジウムを開催して意見を交換したりするなど、精力的に条例制定に動いた。「それこそ光害とは何ぞや?というところから始まり、1年かけて条例制定にこぎ着けました」(伊達氏)。

岡山県井原市の藤岡健二氏は、井原市の職員として、2015年から観光資源の魅力発信に携わるようになった。「美星町には全国初の光害防止条例があり、美しい星空は貴重な財産。これを生かさない手はないとずっと考えていました」(藤岡氏)。

岡山県井原市
未来創造部 定住観光課
課長補佐 兼 観光係長
藤岡 健二 氏

2016年、藤岡氏は美星天文台の職員を通じてIDAの星空保護区の存在を知った。星空保護区には「ダークスカイ・コミュニティ」「ダークスカイ・パーク」「ダークスカイ・リザーブ」「ダークスカイ・サンクチュアリ」「アーバン・ナイトスカイプレイス」「ダークスカイ・デベロップメント」の6つのカテゴリーがあり、“星空の世界遺産”とも称される。地方創生が叫ばれる中、これからの観光資源に、世界基準での評価である星空保護区の看板が必要と考えた藤岡氏は2016年にIDA東京支部を訪問。ここから、認定に向けた長い旅が始まった。

美星町がめざしているのはダークスカイ・コミュニティの認定。このカテゴリーは、人里から離れ、自然に囲まれた公園ではなく、人びとが実際に暮らす自治体が対象だけに、光をどのように抑制するかという難題がある。認定されればダークスカイ・コミュニティとしてはアジア初の偉業となる見込みだ。東洋大学経営学部 准教授で、IDA東京支部代表を務める越智信彰氏は、アプローチを受けたときの様子をこう振り返る。

「美星町には、星空保護区に必要なものが最初から備わっていたと思います。光害防止条例もありますし、星空に関するイベントも定期的に開催していましたから。ただ1つ、大きな課題だったのが防犯灯でした。

美星町の条例では上方光束(水平よりも上方に向かう光束)のないフルカットオフの照明器具の設置が定められていますが、実際にはほかの自治体と同じ一般的な白色LEDの防犯灯が設置され、上方光束も出ていました。これを交換しないことには認定は不可能と助言したのを覚えています」(越智氏)

東洋大学経営学部 准教授
IDA東京支部代表
越智 信彰 氏

町内では2011年頃から、蛍光灯の防犯灯に代わり、光が強い白色LED防犯灯が増えてきたのだという。条例を定めた当時は防犯灯そのものが少なかったためさほど問題にならなかったが、LED防犯灯のコストが下がり、自治会単位で増設してきたのが理由だ。一方、星空保護区の基準では、上方光束の漏れを一切禁じており、青色光が少ない電球色となる3000K以下の色温度が求められる。

「交換したばかりの防犯灯を再び置き換えることは、また別次元の話になってきます。自治会単位で交換したものですから、行政主導ではなくて地元が納得して本気になってもらわないと前には進めません。2016年以降は毎年のように越智先生に講演していただき、地元住民にも星空保護区をめざすための照明の大事さを知ってもらい、本腰を入れるための働きかけを行なってきました」(藤岡氏)

こうした地道な努力を重ね、2019年3月には美星町観光協会と井原市が協力して、星空保護区認定を目標とした「びせい星守プロジェクト」を開始。PR動画には大舌勲井原市長も登場するなど、市を挙げてのプロモーションを展開している。

「このタイミングで星空保護区の基準を満たす防犯灯を探し始めたのですが、その時点では国内メーカーにはありませんでした。そこでパナソニック ライフソリューションズ社の岡山営業所を訪問し、我々のプロジェクトに協力いただけないかと相談しました。非常に協力的で、すぐにサンプル照明を10灯貸してくれたのです」(藤岡氏)

2019年7月、サンプル照明が美星町黒忠の八日市地区に試験設置され、越智氏が現場を視察した。電球色はクリアしていたものの、設置に角度がついているため、越智氏は上方光束があることを指摘。この課題を解決すべく、市長を含むプロジェクトの一行は大阪府門真市のパナソニック本社を訪ね、「IDAの基準に適合する照明器具の開発は可能か」と打診した。

「市長から直々にパナソニックにお願いしたところ、その場で『わかりました。スピード感を持って開発していきましょう』と。2019年9月に依頼して、同年内にはほぼ完成品が仕上がりました。この事実からも、本当に素早く動いていただいたことがわかるはずです」(藤岡氏)