学びが多かった社会貢献に資する製品開発

パナソニックで窓口となったのは、パナソニック ライフソリューションズ社で当時、岡山電材営業所に所属していた椋木(むくのき)教太氏だった。

「越智先生の指摘を踏まえ、ライフソリューションズ社のライティング事業部に依頼して試行錯誤を重ねながら開発してもらいましたが、最も難しかったのはいかに上方光束を防ぐかという点。そのためにはカットルーバー(羽板状の光よけ)をつけた上で、さらに設置角度を水平にする必要がありました。言わば、1から開発するようなモチベーションで開発してもらった製品です」(椋木氏)

パナソニック株式会社 ライフソリューションズ社
中四国電材営業部 岡山電材営業所
課長(当時)
椋木(むくのき)教太氏

実はサンプル照明にもカットルーバーを付加していたが、角度を水平にすることは困難を極めた。当然ながら防犯灯の役割は周囲を明るく照らすことであり、光量を落とし、自然と共存する“優しい明るさ”の提供はある意味で想定外だったからだ。認証を取得した屋外照明には照明器具の開発・製造でパナソニックが長きにわたって培ってきた知見を集約しており、見た目以上の大がかりな改良がなされている。その結果が、上方光束0%、色温度3000K以下の基準を満たす特注品へとつながった。

IDAの越智氏は完成品を「きちんと水平設置に対応し、カットルーバーをつけて完全に光を遮断している形だったので、間違いなく認証を得られるだろう」と高く評価。その言葉を裏付けるように、2020年1月には「光害対策型防犯灯」と「光害対策型道路灯」の2機種が晴れて国内初となるIDAの認証を受けた。現在、前述の八日市地区に複数灯が設置済みで、星空を守る優しい光が住民を包んでいる。

上方向への光を遮断した星空に優しい照明が街を照らす

「これまでも光害対策は取り沙汰されてきましたが、グラウンドやスタジアムといった大規模照明の光漏れが主なテーマでした。自然保護の光害対策かつローカルエリアに特化した製品開発は新たな挑戦でした。スピード感に溢れ、チームワークに優れたプロジェクトだったと思います。SDGsの潮流もあり、昨今の社会課題解決のお手伝いができたことは当社にとっても、私自身にとっても学びが多い経験になりました」(椋木氏)

上方向の角度に光が漏れる従来品(左)と星空を守るために開発された水平に設置できる特製防犯灯(右)

27年前にもあったパナソニックとの絆

今後は星空保護区の認定に向け、町内約410カ所の防犯灯を白色LEDから順次、IDA認証済みの防犯灯に置き換えていく計画だ。計画を進めるにあたり、美星町観光協会が自主財源を確保し、不足分を井原市が補う方針とした。資金調達のために観光協会が取った手段はクラウドファンディングだった。期間は2020年1月14日〜2020年2月28日のおよそ1カ月半。当初の目標額は200万円だったが、最終的には約600万円を調達するほどの成功を収めた。

白色LEDからIDA認証済の防犯灯への置き換え工事の様子

「クラウドファンディングが成功することで町民への理解も深まり、宣伝効果もあると考えました。当初目標の200万円でさえ不安な部分がありましたが、あっという間に突破して最後は3倍の金額を調達できました。SNSを中心に天文ファンが一気に情報を広げてくれたこと、2月にパナソニックがIDAに認証された「星空に優しい照明」についてニュースリリースを出したことが後押ししてくれたようです。皆さんから“星空を守りたい”とのコメントをたくさんいただきました」(藤岡氏)

加えてネットに馴染みのない地元の高齢者のために、各戸にチラシを配布して寄付を呼びかけた。その甲斐あって、美星支所に設けた募金箱に直接寄付する人たちもいたという。伊達氏は「『星のことで頑張っとるようじゃけ、持ってきたぞ』と寄付してくれるお年寄りもたくさんいました」と話す。

藤岡氏によれば、2020年から2021年にかけて町内の防犯灯と、並行して公共施設の屋外照明の交換も実施する予定だという。「IDA認証の防犯灯に置き換われば、自治体の視察体験プログラムとして活用できるかもしれません」と藤岡氏は期待する。事実、パナソニックには「星空に優しい照明(IDA認証防犯灯)」に対する問い合わせが複数寄せられているとのこと。パナソニックの椋木氏は「そうした意味でも、今回のプロジェクトは次につながる製品開発になったのではないでしょうか」と手応えを感じている。

IDAの越智氏は「光害に関する意識はとても低いと言わざるを得ないのが現状。美星町の取り組みを通じて、光害の問題に多くの人の関心が向いてほしい」と語る。啓発にはパナソニックも一役買う。2020年10月からSDGsに関連したLED照明のテレビCMを全国で放映しており、そこで美星町の取り組みをフィーチャーしている。

インタビューの最後、伊達氏がある新聞広告の縮小コピーを見せてくれた。1993年9月27日、日本経済新聞に掲載された見開き全面広告だ。そこには、美星天文台の近くに設置されたナショナル(当時)の屋外照明のことが書かれている。「約30年を経て新しいLED防犯灯の開発をご一緒できたのも、きっと縁があったということでしょう」と藤岡氏は締めくくったが、これからも井原市とIDA、そしてパナソニックの協力関係は続いていく。まずは一日も早い星空保護区の認定を待ちたいところだ。

美星町から依頼されて、パナソニックが開発した「星空に優しい照明(IDA認証防犯灯)」は「星空保護区(アーバン・ナイトスカイプレイス)」の認定を目指す福井県大野市の南六呂師地区にも、2020年11月に試験設置され、上空への光漏れがないことを確認されている。これから周辺住民の意見なども取り入れ、本格導入を検討する予定とのことだが、パナソニックの「星空に優しい照明」が日本各地の星空を守るあかりとして貢献することに大いに期待したい。

1993年9月27日、日本経済新聞に掲載された見開き全面広告