地域におけるモノの移動を変えるきっかけ

フェーズ2では、走行する公道範囲を拡げるとともに、実証を通じたサービスの受容性検証を始める。その一環で、Fujisawa SST協議会のメンバーであるアインホールディングスの全面協力の下「アイン薬局 Fujisawa SST店」から患者の自宅まで自動配送ロボットが医薬品を配送する。しかもその医薬品は、オンライン服薬指導済みのものだ。すなわち、次世代生活様式の足し算ともいえる取り組みなのである。

アインホールディングス 経営企画室の金順伊氏は「アインホールディングスは国家戦略特区でオンライン服薬指導を日本で初めて実証し、2020年の法改正以降は全国店舗でオンライン服薬指導ができる体制をいち早く整備しました。そして、以前から調剤のオートメーション化に取り組んでいます。つまり、技術革新を積極的に採り入れる会社なのです」と同社の姿勢を説明する。こうした背景もあり、協議会を通じてパナソニックから実証の提案を持ちかけられた際にも円滑に事が進んだ。

株式会社アインホールディングス
経営企画室
企画戦略課 課長
金 順伊 氏

金氏によれば新型コロナの影響、あるいは利便性を体験してみたいとの理由からオンライン服薬指導を望む患者さまはいらっしゃるものの、服薬指導後の受け取り方法がネックになっていたという。「オンライン診療からオンライン服薬指導、お薬受け取りまでを非接触にすると考えたとき、通常は配送なので1日タイムラグが発生してしまいます。我々としてはお届け方法を多様化したい思いがあり、例えばFSSTでは宅配ロッカーを選べるようにしています」(金氏)。その1つの手段として浮上したのが自動配送ロボットによる配送だった。

「患者さまからすれば非接触で受け取れるメリットだけではなく、ワクワクするようなロボットの自動走行を体験できます。今回の実証で詳細なニーズをヒアリングさせていただくことで、今後の医療規制緩和に関するヒントが得られるかもしれない。そんな期待も持っています」(金氏)

パナソニック イノベーション推進部門の山内真樹氏は「現在の物流は広域をピア・ツー・ピアで結ぶシステムは非常に発達しているものの、狭い地域の中をオンデマンドで自由に行き来する配送インフラがありません。その仕組みを作るための第一歩です」と語る。そのためにも現時点では実証を重ね、経験値を蓄積することが重要だとする。

パナソニック株式会社
モビリティ事業戦略室
コミュニティMaas事業推進部
モノ搬送サービス事業化PJ 主幹
山内 真樹 氏

「歴史が物語るように、これまで非効率なシステムはデジタルで構造が書き換えられて便利になってきました。人との接触を最小限にする行動変容によってロボットがモノを運ぶことに対する抵抗感が低くなり、自動配送を社会的価値として認めてもらえる空気が醸成されてきたと感じています。住民と企業が一体となって協力し合うFSSTは、未来予想図を描く場所としては最適だと考えています」(山内氏)

とかくマイナス面ばかりが強調されてしまう新型コロナだが、両者とも「苦しい状況でどのような価値を提供できるかを考えながら前進したい」(金氏)、「地域におけるモノの移動が変わるきっかけ。社会の変化にパナソニックが貢献できることを誇りに思う」(山内氏)と前向きだ。地域の生活に根ざすマイクロモビリティの大いなる可能性を、ぜひこの実証で証明してほしい。

わずか1年足らずで自動配送を実現

パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部の廣瀨元紀氏は、自動配送ロボットを技術面で支える。すでにパナソニックで実用化しているロボティックモビリティ「PiiMo(ピーモ)」の開発を担当し、そこで培った技術を発展させた。

「PiiMoは空港や商業施設などの大規模な屋内環境を想定した電動車椅子型モビリティ。先頭は人がリモコンで操作しますが、2台目以降はレーザーセンサーで前方機体を検知して自動で追従走行します。この技術をベースに、屋外自動運転ライドシェアを担当していた部門の技術を組み合わせて本自動配送ロボットを開発しました」(廣瀨氏)

パナソニック株式会社
マニュファクチャリングイノベーション本部
ロボティクス推進室
開発二課 主任技師
廣瀨 元紀 氏

スタートしたのは2020年度の初め。わずか1年足らずで屋外自動配送の公道実証までこぎ着けた計算となる。「コロナ禍で急激に環境が変化したことで、屋外で非接触の受け渡しをするニーズが出てくることが予想されました。配送ロボットに対する国の動きも活発になった状況も後押しとなり、ぜひ挑戦しようと技術者たちが一丸となりました」(廣瀨氏)。

基本のロボット走行技術を確立していたとはいえ、屋外公道でのロボット自動走行は初の試みだけに開発は苦労の連続だった。車・自転車・人が当たり前にすぐ横を通る環境で走行安全性をどの様にセンシングして担保するのか、遠隔操縦システムと自動走行システムをどの様にシームレスに切り替えするのか、路面の凹凸や日光/自然物など様々な外乱要因のある中でロボット走行位置をどうやって安定キープするのか――。想定外の問題に直面するたびにデータを解析して次の日には修正するという「アジャイル型の手法」(廣瀨氏)で突き進んできた。「実証実験をきっかけに現場もマネージャーも活発に意見を交わして、さまざまな提案をしています。非常に良い流れになっている」と廣瀨氏は言う。

FSSTの街並み

「モノを作っていて痛感するのは、使ってもらえる人・場所がいてこそ技術は進化するということ。3月からの実証では、実際のお客様の生の声を聞くことができます。反応をダイレクトに聞けるのは貴重な機会ですし、リアルな現場でのフィードバックによって次への気づきを得られます。FSSTは住民の方々のパナソニックに対する信頼感も厚いので、とてもやりやすいですね」(廣瀨氏)

自動配送ロボットのユースケース。道路を曲がる際の表情の変化が見て取れる

ロボットを正面から見ると、丸い目と眉毛がついている。右折/左折に応じて眉毛が変化してロボットに表情が生まれるのも特徴だ。通行する人と対面した際には、「お先にどうぞ」などロボットから声掛けをしたり、スピーカーを通じてオペレーターが優しく声がけをしたりする。これは“街に溶け込むロボット”をめざした成果である。走行中には、住民が手を振る光景なども見られるという。

「たとえ遠隔であっても人が介在することが大事なポイントです。フェーズ1の公道走行実証では、子どもたちがロボットに寄ってきて、遠隔オペレーターと楽しく会話が始まり、それ以降でロボットを見かけるたび嬉しそうに手を振って「頑張って!」と応援してくれる場面もありました。トラブルに事務的に対応するのではなく、ロボットを通して温かみのあるコミュニケーションを心がけると、今まで以上にロボットや人同士の良質な関係ができると感じました」(廣瀨氏)

Fujisawa SSTマネジメントの荒川氏も同じような考えを持っている。

「自動化が進むと人と人との関係が薄くなると思われがちですが、実は逆。オンライン化が進むほどオフラインの触れ合いの価値が改めて見直されるようになる。当然、テクノロジーで解決できる部分と、リアルなコミュニティでしか解決できない部分があるからです。この街なら、企業と住民が話し合いながら自らの手で未来を築き上げていくことができると信じています」(荒川氏)

FSSTは柔軟に物事を受け入れ、暮らす人たちが街をアップデートしてきた。そのアップデートは人びとの成長とリンクし、サスティナビリティへとつながる。荒川氏は「レジリエンス(回復力・復元力)の高い街にしていきたい」と話したが、この街の住民は“変化への対応力”を自然と身に着けているように思える。人とロボットが共存する世界が、ここから本格的に始まろうとしている。