<この記事を要約すると>

  • 2021年2月、ついに日本でも新型コロナワクチンの接種がスタートした
  • 国内で最初に認可された米ファイザー製ワクチンは、「マイナス75℃±15℃」、「マイナス25℃~マイナス15℃」、「2℃~8℃」いずれかの温度帯での輸送が必須となる
  • そうした中、パナソニックが開発した保冷ボックス「VIXELL(ビクセル)」が脚光を浴びている
  • 厳格な温度管理とIoT連携による状態監視を両立したVIXELLの利点を、病院関係者、サービス提供者、VIXELL開発者の言葉を交えながら紹介する

国内で進む新型コロナワクチンの接種。デリケートな温度管理が求められるワクチンを全国に行き渡らせ、円滑に接種を完了させるための仕組み作りは急務だ。こうした困難を解決するとして大きく期待を寄せられているのが、パナソニックの保冷ボックス「VIXELL(ビクセル)」。ワクチン接種を行なう病院関係者やVIXELLサービスの提供者、VIXELLの開発者に取材し、その革新性と社会的な貢献度に迫った。

新型コロナワクチンと切っても切れない厳格な温度管理

2021年2月の医療従事者向けを端緒として、ついに日本でも始まった新型コロナワクチンの接種。誰もが初めての経験だけに想定以上の混乱が続いているが、コロナ危機に一条の光が差し込んできたことは確かだ。

新型コロナワクチンは取り扱いに細心の注意を要する

混乱の背景には、新型コロナワクチンのデリケートな扱いがある。国内で最初に認可された米ファイザー製ワクチンの輸送や保管は厳格な温度管理が義務付けられている。各都道府県のターミナルとなる基本型接種施設(病院やクリニック)には保管用のディープフリーザー(超低温冷凍庫)が必須であり、そこから2〜8℃の冷蔵状態にしたものを小分けして連携型接種施設やサテライト型接種施設(医療機関、公共施設、商業施設など)へと運ばれる。冷蔵での配送は原則3時間以内で、2〜8℃での保管期限は5日間となる。

2021年3月にはマイナス25〜マイナス15℃で最長14日間の保管が可能となり、一般的な医薬品冷凍庫を利用できるようになった。これにより余裕ができたものの、依然として厳格な温度管理が求められる。

こうした中、2021年1月にパナソニックが発表した真空断熱保冷ボックス「VIXELL(ビクセル)」が注目を集めている。ドライアイスを充填した状態でマイナス70℃以下を最長18日間保持する機能があり、まさに新型コロナワクチンの保管ニーズに応える画期的なデバイスだからだ。

真空断熱保冷ボックス「VIXELL(ビクセル)」

なぜパナソニックが医薬品物流に着目したのか。今回は大手医薬品卸業者のスズケン、新型コロナワクチンの院内輸送にVIXELLを活用している大阪府守口市の松下記念病院、VIXELLの開発者にインタビュー。そこから、高性能な保冷ボックスがもたらす多様な可能性が見えてきた。

始まりはスペシャリティ医薬品の厳しい温度管理

医薬品向け保冷ボックスの開発は、2018年のスズケンからの呼びかけで始まった。同社では抗がん剤、血液製剤、難病指定薬などの高額なスペシャリティ医薬品、並びに治験薬の流通、在庫・温度・品質管理を行なう「キュービックス(Cubixx)システム」を2017年度から提供開始。医薬品卸から医薬品に非接触のRFIDタグを添付して医療機関専用のIoT保管庫で管理する、GDPガイドラインに準拠した輸送から在庫管理までの切れ目のないデータに基づいたトータル・トレーサビリティシステムは、医薬品卸業界では初めての取り組みとなった。

医薬品流通の見える化に不可欠だったのが、取り扱いが容易で追跡データを正確に取得できる保冷ボックスの存在だった。当初キュービックスシステムでは、真空断熱パネル(VIP)を用いた保冷ボックスを採用。しかしVIPは、パネル状の断熱材を継ぎ合わせて生産されている。そのため断熱材同士の継ぎ目から冷気が漏れやすい。また保冷時間を長くしようとするとVIPが厚くなり、比例してボックスが重くなるという課題もあった。さらに表面を覆うアルミフィルムにより、電波の透過性が損なわれ、トレーサビリティシステムに必要な温度ログの取得が困難であった。

そこでスズケンはパナソニックと意見を交わしながら、理想とする保冷ボックスの形を共有。当時パナソニックが独自で開発を進めていた、継ぎ目のない一体成型の真空断熱筐体(VIC)を採用することで、冷気漏れと重さの課題を同時に解決することに成功した。断熱材の表面にはアルミフィルムなどの金属を使わず、電波が透過しやすい樹脂を採用している事も重要なポイントだ。

VIXELLでは継ぎ目をなくした一体成型を採用、冷気漏れと重さの課題を同時に解決した

スズケン ヘルスケア事業本部 メディカル・ホームケアソリューション部長 安藤井達氏は「弊社が持つ医薬品物流の知見と、パナソニックが持つVICをコアにした技術をかけ合わせたことで課題解決につながりました。長時間の安定した温度保持と電波の透過性を両立し、保冷BOXを開封することなくリアルタイムの温度監視を実現したからです」と話す。

株式会社スズケン
ヘルスケア事業本部
メディカル・ホームケアソリューション部長
安藤 井達 氏

VIXELLの効果はそれだけではない。2021年モデルからVICの底面に非接触給電技術を用いた無線真空度センサーを内蔵。真空断熱で最も重要なパラメータである真空度が、専用の検査台に乗せるだけの簡単な作業で可視化できるため、ボックスを安心して利用できる。ボックス内に温度センサーやGPSを設置すれば、ボックスの開閉をすることなく内側の状態を監視できるなど、IoT機器連携の性能も高い。

また従来の保冷ボックスでは、使用前に蓄熱剤を一旦マイナス温度で凍結させる必要があった。まず凍結させてから、2~8℃の温度帯に引き上げるといった煩雑なオペレーションを踏まなければ、十分に効果が発揮できなかったのだ。しかしVIXELLでは、この課題を解決した蓄熱材を採用。3℃の環境に保管すると自然に凍結が完了し、その後の温度調節が不要になったのだ。これがスペシャリティ医薬品輸送時の温度逸脱やヒューマンエラーを最小化することに寄与した。「VIPの保冷ボックスに比べて軽量化されたこともメリット。物流現場では昨今女性のスタッフも増えていますが、安心して持ち運べるとの声が届いています」(安藤氏)。

VIXELLでは3℃の環境に保管すると、その後の温度調節が不要な蓄熱材を使用。温度逸脱やヒューマンエラーを最小化する

この長所が新型コロナワクチンの物流でクローズアップされた。現在、基本型接種施設から連携型接種施設・サテライト型接種施設への移送には厚生労働省から配布された保冷バッグ(外気35℃で12時間、8℃以下を維持可能)を利用しているが、今後接種が加速する中で医薬品卸が主導してワクチン輸送を進める流れも出てきた。安藤氏は「一定温度のまま届けられることからVIXELLには多くの関係者が注目しており、ワクチン輸送はもちろん、厳格な温度管理を要する医薬品や治験薬、検体などにまで幅広く広がっていく可能性は十分にあると思います」と語る。