現場で使用してわかったVIXELLの有用性と可能性

松下記念病院では、2021年4月初旬から医療従事者への新型コロナワクチン接種が始まった。同院ではワクチンが自院に届いてから接種会場までの院内輸送にVIXELLを使用している。副院長の平田敦宏氏は「医療現場のクオリティ向上にイノベーションは欠かせません。その取り組みの一環としてVIXELLを採用しました」と話す。

パナソニック健康保険組合
松下記念病院 副院長
TQMセンター センター長
イノベーション推進室室長
診療技術部部長
臨床工学室室長
平田 敦宏 氏

日本では、製薬会社が「医薬品の製造および品質管理基準(GMP)」に基づき医薬品の製造・品質管理を担保する。2018年には「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン」が発出され、医療機関までの質の高い医薬品流通・管理を指針として掲げた。キュービックスシステムは本ガイドラインに合致するものと言える。

薬剤師として薬剤部を統括する立場でもある平田氏は「その一方で、医療機関に届いてから患者のもとに届くまでしっかりと品質を保持するためのデバイスやインフラの整備が不十分でした」と指摘する。

「さまざまな医薬品を扱う病院の薬剤部にとっては、温度管理は重要な項目です。そこに優秀なデバイスとしてVIXELLが登場しました。とくに今回のファイザー製ワクチンはマイナス25〜マイナス15℃で2週間、2〜8℃の冷蔵状態では5日間と温度管理に加えて期限も限られています。通常の保冷ボックスは医薬品を出し入れする際、開閉により温度がどうしても上がってしまいますが、VIXELLは断熱性が高いので、フタを閉じれば保冷剤が適切な温度まで素早く下げてくれます。これは従来の保冷ボックスには備わっていない機能だったので驚きました」(平田氏)

保冷したワクチンを接種前に取り出す様子。VIXELL内で保管されているワクチンは、当日キャンセルされた場合でも廃棄せず再度保管することが可能

ファイザー製ワクチンは1バイアル(注射剤を入れる容器)あたり5回分のため、同院では接種に際して5の倍数で接種する人数をそろえる必要がある。体調不良などによる当日キャンセルも発生し、スケジュール調整は困難を極めた。「しかし、VIXELLを一時的な保管庫として利用すればその保冷時間の長さから、継続的に厳密な温度管理と品質管理ができるため、当日キャンセルで使わなかったワクチンを後日安心して使用できます。これまでは廃棄もやむを得なかった状況でも保管できる点は助かっています」(平田氏)。

可搬性の高さは、これから拡大する一般市民へのワクチン接種でも有効だ。「高齢者施設や体育館には医薬品を保管する機器がありません。夏には猛暑の懸念もあります。その中でワクチンを長時間保管する手段を想定したときに、当然VIXELLのような保冷ボックスが活きてきます」と平田氏。これらは離島やへき地など、地理的に不便な場所にも当てはまる。適切な冷凍保管の状態で運べば、仮に余った場合でも持ち帰ってほかに利用できるからだ。

「災害時にも同じことが言えます。自家発電機能を備えていない医療機関も多くありますから。電源がなくても一定の温度を保持できるVIXELLは非常に有用だと思います。そのほか、高額医療品をはじめとする貴重な医療資源の長期保管、手術室での一時保管など、可能性は多岐にわたります」(平田氏)

実際にワクチン接種を担当した小児科医師は「ワクチンをムダにしないために、医薬品を扱う薬剤部のプロフェッショナルがきちんと温度を管理してくれるので、我々も安心してワクチンを打つことができます」と信頼を寄せる。感染制御室看護師も「取り扱いが難しいワクチンの温度管理にVIXELLが役立っていることを実感しています。そのおかげでワクチン接種に全力投球できますから」と話してくれた。

ニーズの高まりを受け、VIXELLのレンタルサービスを事業化

VIXELLの開発を手がけたパナソニック アプライアンス社 事業開発センター VIXELL事業プロジェクト 総括担当の小島真弥氏は、入社以来約20年にわたって真空断熱パネルに関わってきた。もともと冷蔵庫の断熱材研究に端を発したものだが、独自開発のVICではそこに、かつてパナソニックが提供していたプラズマディスプレイパネル(PDP)の技術を加味した。

パナソニック株式会社
アプライアンス社
事業開発センター
VIXELL事業プロジェクト 総括担当
小島 真弥 氏

苦難の末に完成した樹脂一体成型のVICは、当初から部材ではなくプロダクトとしてのユースケースを模索していた。調査の中で出会ったのが、医薬品保冷ボックスの活用だ。小島氏は「スズケン様との最初のミーティングではボックスの影も形もありませんでしたが、それでもパナソニックを信頼して“ぜひ一緒にやりましょう”と言っていただきました。そこから一気に開発が進みました」と当時を振り返る。

キュービックスシステムの利用ではドライアイスの温度帯は想定していなかったが、新型コロナワクチンの輸送が現実味を帯びてきた2020年12月頃から、にわかに「VIXELLならマイナス75℃±15℃での安定した温度管理ができるのではないか」との問い合わせが増えた。

「それらの困りごとに貢献したいとの思いから、ドライアイス温度帯での評価を実施しました。そこで一定の条件下において、マイナス70℃での最長18日間保持という結果を得、ニュースリリースを発表しました。BtoBにおいて、お客様の課題を解決する点はどの分野でも同じですが、こと医薬品に関してはその取り組みが始まったばかりで、VIXELLの提供はゴールではない。早く困りごとを解決して欲しいという声がある一方で、新薬はどんどん生まれてゆく。そのスピードについていかないと医療の革新を支えられないことを肌で感じました」(小島氏)

温度管理同様、パナソニックが強みとするのがIoTの部分だ。「電機メーカーならではの発想で、従来にない保冷ボックスのIT化を念頭に置きました」と小島氏。以前から医薬品輸送時のリアルタイム温度監視のニーズは高く、発表後には医薬品の流通を手がける企業から大きな反響があった。そこには、GDPガイドラインによる医薬品卸業界の意識変革もあるという。

「最適な管理で医薬品を流通させ、少しでもロスを減らそうとの取り組みが日本でも芽生えてきました。日本ではまだガイドラインですが、欧米では法律化されています。これまで以上に厳格に医薬品を定温管理する時代が来ると思います」(小島氏)

これを受け2021年4月からは、スズケングループとの協働によるVIXELLのレンタルサービスを開始。レンタル受付、予冷、指定先までの配送、回収までを包括したフルフィルメントサービスとして事業化した。ここでの配送は予冷済み保冷ボックスの配送を指し、医薬品やワクチンの移送ではないものの、煩雑な予冷の手順や管理を省略して大幅な効率化を支援することに違いはない。急遽VIXELLの増産体制を敷いたほど、引き合いがあるという。

保冷ボックスのIT化を実現し、医薬品管理の敷居を下げたVIXELLへの需要が増加している

新型コロナワクチンに関しては、平田氏と同じく離島や過疎地域における一時保管でのVIXELL活用が進むだろうと小島氏は見ている。さらにコロナ禍による通院控えの影響で、オンライン服薬指導後の保冷医薬品配送の需要が出てきた。いわゆるDTP(Direct to Patient)輸送だが、本事例では現在、スズケン、製薬企業とともにVIXELLのサービスを開始している。海外から日本への保冷医薬品・治験薬を運ぶ国際輸送も視野に入れており、2020年には新たに大容量ボックスを追加した。

サイズは現在2種類。右は120リットルタイプ、左は57リットルタイプとなっている

このように、VIXELLの医療業界への貢献度は決して小さなものではない。安藤氏は「VIXELLの輸送に関してはスズケンが培ったノウハウを医療業界で共有し、トレーサビリティシステムを医療の社会インフラ、プラットフォームとして育てていきたい」と意欲を見せる。小島氏は「DTPのように、いろんな意見を吸収しながら在宅診療、バーチャル治験などでも適用できるように進化していければ」と今後の展望を語る。そして平田氏は、次のように期待を込めた。

「本来は製薬企業から医薬品卸、医療機関、院内まで一気通貫でVIXELLを使うのがベストではないでしょうか。医療現場の最前線にいる人間として、究極は患者の体に入る直前まで医薬品の品質保持をしたい。その観点からも、VIXELLには無限の用途があると考えています」(平田氏)

真空断熱保冷ボックスVIXELL – Channel Panasonic