初めての業界だからこそ、開発は慎重に

改めて「ナノイー」について説明しよう。「ナノイー」とは水で包まれた微粒子イオンのことである。最大の特徴は多様な物質に反応しやすいOHラジカル(高反応成分)を潤沢に含む点で、このOHラジカルがニオイや菌に付着して、脱臭・除菌や花粉などのアレル物質対策の効果をもたらす。

パナソニックでは「ナノイー」デバイス(発生装置)を開発し、自社製品はもとより、他業界へのデバイス提供を行なっている。代表的なものに自動車業界があり、数多くの主要メーカーに採用実績がある。公共交通では鉄道が強くそのほかホテル、飲食店、病院、学校、介護施設でも高い評価を得ている。

現在のペルチェ式デバイスの第1世代が誕生したのが2005年。その後も世代を重ね、2016年にはOHラジカル量が10倍、4兆8000億個/秒を生成する「ナノイー X」が発売された。TOSEIの機器も2021年5月からは順次「ナノイー X」に切り替わって出荷されている。

静岡工場にて出荷を控える「ナノイー X」搭載機器

黎明期から「ナノイー」のビジネスに携わってきたパナソニック アプライアンス社の山田剛久氏は、「いろんな業界と協業してきた中でもコインランドリーは初めてのケース。不特定多数のお客様がご利用になられ、いろいろなものを洗われますので、検討段階に入ってからもお互いの機器の条件、業界独自の慣習のすり合わせを繰り返し、ベストの地点に着地できるよう議論しました」と話す。

パナソニック株式会社
アプライアンス社
ビューティ・パーソナルケア事業部
デバイス商品部
デバイスマーケティング企画課
山田 剛久 氏

パナソニック アプライアンス社で「ナノイー」デバイスの開発を担当する平井康一氏は「『ナノイー』は目に見えるものではないため、パナソニック以外のお客様に本当に価値を感じていただけるのかを模索しながらスタートしました」と、協業の難しさについて触れる。外部に提供するデバイスはファン一体型で決まった形状だが、機器内への配置はもちろんのこと、部品の配線などもそれぞれ異なるからだ。

パナソニック株式会社
アプライアンス社
ビューティ・パーソナルケア事業部
デバイス商品部
機能デバイス設計課
主任技師
平井 康一 氏

「車載に比べればシンプルでしたのでその点は助かりました。制御部分に関しても蓄積してきたノウハウを応用して、コインランドリー機器の設計を確認した段階である程度の手応えをつかみました。今回に限った話ではありませんが、技術者同士で打ち合わせをすると早く進むことが多いと感じています」(平井氏)

一方のTOSEI側はどうか。深瀬氏は「ナノイー」デバイスの設置場所と、デバイスを接続するホースの長さや素材にかなり気を配ったという。「最適な脱臭効果を出すためには我々もパナソニックもかなり苦労しました。パナソニックでは、洗濯槽の穴をくぐり抜けて対象とする部分まで『ナノイー』がきちんと届くのかに頭を悩ませたと聞いています。お互いに分からないことばかりでしたので、コツコツと積み上げて完成させました」(深瀬氏)。

TOSEIの機器では、夜間のアイドルタイムに「ナノイー」を8時間放出して脱臭する。これは「お客様が少ない時間帯で活用するのはどうか」との山田氏の提案を受け、効果が出る時間と、機器やナノイーの寿命のバランスを取った上で決定したものだ。日吉氏は「コインランドリーの機器は長く使うほどニオイが溜まっていきますが、『ナノイー』も使えば使うほど顕著に効果が出ると教えていただきました。毎晩のアイドルタイムに放出することが、安定した効果につながると双方で一致したのです」と言う。

「ナノイー」ブランドの威力は大きく、発売後にはオーナーからの問い合わせが殺到。空気清浄機やドライヤーで馴染みがあることから女性への訴求力が高く、「『ナノイー』がコインランドリーに搭載されたことで衛生的に安心と思っていただけるようです。ランドリーには女性客も多いので、『ナノイー』が搭載されていればそのランドリーに行く動機にもつながります」と日吉氏は自信をのぞかせる。

静岡工場に隣接するコインランドリー

山田氏は「深瀬さん、日吉さんともに社内で奮闘していただきました。当初の企画段階ではオプション機能として想定していましたが、標準搭載まで格上げになったのは喜ばしい限りです。私の自宅近くのコインランドリーにも「ナノイー」搭載モデルが導入されていて、ここまで広がっているのだと感慨深くなりました」と感想を述べた。今回の事例は、コインランドリー業界のニーズとパナソニックの技術力が高い次元でマッチした好例となった。

実際の利用客からも高評価、次なる機能追加にも期待

2021年4月、小田急不動産は同社初のコインランドリー事業となる「Odakyu Laundry」を東京都世田谷区経堂(きょうどう)にオープンした。閑静な住宅街にありながら6台分のコインパーキングを併設した、都市型コインランドリーである。

「Odakyu Laundry」外観。小田急線「経堂」駅徒歩約8分

本ランドリーにはTOSEIの「ナノイー」搭載モデルがずらりと並ぶ。小田急不動産 仲介事業本部 ソリューション営業部の日野将也氏は「コインランドリー事業に初進出ということもあり、本業であるパーキング事業との連動性を重視しました。市場調査を行ったところ、TOSEIさんはランドリーのリーディングカンパニーであると共に、パーキングとランドリーとの精算方法において、非常にフレキシブルに対応いただけたことが最大の決め手です。実際、開業して感じるのは、ランドリー機器と設備がしっかりしており故障やトラブルがないことです。また、懸念点であったランドリーをご利用いただいたお客様にはパーキング料金をサービスするシステムも問題なく稼働し、新規参入組へのアフターフォローが万全であることに感謝しています」と話す。

小田急不動産株式会社
仲介事業本部
ソリューション営業部
パーキンググループ
上席チーフ
日野 将也 氏

「洗濯乾燥機、乾燥機ともに洗濯物を出し入れする目立つ場所に「ナノイー」マークの表示があるので、お客様も“『ナノイー』が入っているから安心ですね”とおっしゃってくれます。とくに昨今は衛生面を気にされる方も多いので、感謝の言葉をいただくことが多いですね」と日野氏。マークを見ただけでどのような効果があるのかが伝わりやすく、そのブランド力の高さが集客の一助になっていることを実感しているという。

店舗内には「ナノイー」の表示がなされた機器が並ぶ

このように、オーナーのみならず利用客への直接的なアピールにつながったTOSEI×「ナノイー」の取り組み。深瀬氏は「次は衣類そのものの脱臭・除菌ができる機能を追加してほしい」とパナソニックに期待を寄せる。実は、業務用クリーニング機器に次ぐTOSEIの主力製品である食品用のパック加工もできる真空包装機にも「ナノイー X」が搭載されている。平井氏は「これは、機器に限らずニオイの元を取りたいとの要望に応えたもの。それらの経験を生かしてTOSEI様と一緒にお客様の困りごとを解決していきたいと考えています」と話してくれた。

TOSEIショールーム内に設置されている真空包装機

「おかげさまで、『ナノイー』は安心安全とのイメージが定着してきました。我々は、街なかの至る場所で『ナノイー』マークを目にするところまで広げていくのが理想です」と山田氏は今後の展望を語った。2021年6月にはタクシー車内に「ナノイー X」が搭載されるなど、着々と生活空間に浸透し始めている。まずはTOSEIの機器が導入されたコインランドリーで効果を体感してみてはいかがだろうか。