<この記事を要約すると>

  • 2020年3月、小田急電鉄は新型通勤車両「5000形」の運行を開始
  • 車内空間の快適性を求め、5000形にはパナソニックの「ナノイーX」を組み込んだ空気清浄機を搭載した
  • 以前から空気の流れに対して意識的だった小田急電鉄が「ナノイーX」を選んだ理由とは
  • 導入に至った3つの決め手、そして導入後1年半を経た効果を関係者の言葉から探る

毎日不特定多数の利用客を乗せて運行する通勤車両。車内の空気の安心・安全を提供するため、2020年度は1日約144万人の乗客があったという小田急電鉄が施策を進めている。同社は2019年度以降、新型通勤車両「5000形」へ「ナノイーX」発生装置を導入。快適な車内空間を“空気の質”で支える取り組みについて聞いた。

小田急電鉄の通勤車両としては初となった空気清浄機の導入

東京都と神奈川県を結ぶ小田急電鉄。新宿〜小田原間の小田原線、相模大野〜片瀬江ノ島間の江ノ島線、新百合ヶ丘〜唐木田間の多摩線と3路線を擁する、首都圏を代表する大動脈の1つとなっている。

郊外と都心をつなぐだけに通勤・通学時の混雑は日常化していたが、2018年3月には都心寄りの代々木上原~登戸間、11.7キロの複々線化が完了。これにより混雑緩和と列車の増発、速達性の向上を図った。地下化が実現した東北沢から世田谷代田の区間は、かつての線路部分を「下北線路街」として開発。宿泊施設、温泉旅館、商業空間、イベントスペース、長屋タイプの商業施設などバラエティに富んだまちづくりを手がけている。

2020年3月には「より広く、より快適に」をキーワードにした新型車両「5000形(がた)」の運行を開始。一世代前の4000形(2代目)より11センチ広い全幅2.9メートルの拡幅車体を採用し、ゆったりした車内空間の確保と開放感に重点を置いた。座席をオレンジ、床を木目調とし、客室内を柔らかい暖色系で統一したのも特徴だ。

5000形の車両外観、および内観。キーワードは「より広く、より快適に」

テクノロジー面では、主電動機、コンプレッサ、空調装置、駆動装置に低騒音タイプを搭載して静かな車内空間を提供する。また乗客の安全確保へ、各車両に4台の防犯カメラを設置。これは小田急電鉄の通勤車両としては初となった。しかし、実はもう1つ初物があるという。それが、各車両に合計8台搭載された空気清浄機である。

空気清浄機には、パナソニックの「ナノイーX」発生装置(デバイス)が組み込まれた。「ナノイーX」は超微小なナノサイズの水の微粒子であり、空気中の菌やウイルスを抑制するOHラジカルを包み込んだ状態で大量に放出される。「ナノイーX」技術は菌・ウイルスをはじめ、ニオイ、アレル物質、カビ、花粉、PM2.5の抑制、分解にも効果があることがわかっている。

5000形の空気清浄機に組み込まれた「ナノイーX」発生装置
※撮影用に天板を外したもの

日々、不特定多数の人びとを運ぶ通勤車両にとって、“空気の質”を担保することは快適性の維持につながる。小田急電鉄が「ナノイーX」を採用した経緯、そして狙いは何だったのか。小田急電鉄、導入支援を行なったJR東日本テクノロジー、「ナノイーX」を提供するパナソニック くらしアプライアンス社の担当者を交えて話を聞いた。

以前から空気の質に対して意識的だった

新型通勤車両として12年ぶりとなった5000形の導入計画は、2017年から始まった。小田急電鉄 運転車両部で新造車両を担当する瀧浪遼氏は「電車内は一定時間、不特定多数のお客様が同じ空間で過ごす場。そのため、空調をはじめとする空気の流れは、車両設計でも大きなポイントになります」と語る。

この点に鑑み、5000形では快適な空気の流れを実現する技術を検討した。その中で早い段階から「ナノイーX」の前身である「ナノイー」に着目。当時は業務用デバイスとして「ナノイー」しか存在しなかったためだ。その理由について、瀧浪氏はこう話す。

小田急電鉄
運転車両部
車両担当
瀧浪 遼 氏

「湿度の高い夏場などに発生する車内の臭気は以前から課題になっていました。また、長年走っている車両ですと、どうしても臭気が蓄積してしまう場合があります。そうした折、『ナノイー』が菌や臭気を抑制する効果があると聞き、検討材料に上がりました」(瀧浪氏)

こうした背景により、2017年には技術・実装支援を担当するJR東日本テクノロジーを通じて、パナソニック くらしアプライアンス社に相談が持ちかけられた。両社は鉄道車両の導入に関してタッグを組んでおり、これまでに「ナノイー」の豊富な導入実績がある。東京周辺に限ってもJR東日本、京王電鉄、東急電鉄、西武鉄道、相模鉄道、東京都交通局といった具合だ。

その後、「ナノイー」の10倍のOHラジカル放出量を誇る「ナノイーX」が完成し、2019年8月には京阪電車の座席指定特別車両「プレミアムカー」に鉄道車両として初搭載。小田急電鉄は、首都圏の鉄道車両では「ナノイーX」デバイスの初搭載事例となる。

JR東日本テクノロジー 車両事業本部の本杉勇人氏は「もともと小田急電鉄は、空気の流れに対して非常に気を使っていました。『ナノイー』のような機器を搭載することにより、どれだけニオイを抑制できるかについても研究されていたので、実際の既存車両を借りてデバイスを仮設して検証を行なったのです」と振り返る。

JR東日本テクノロジー
車両事業本部
開発センター
主事
本杉 勇人 氏

検証は2018年8月、2回に分けて合計3日間実施。5000形から2世代前の3000形を用いて、「ナノイー」を含む他社製品と比較しながら、1日中デバイスを稼働させるハードな試験を行なった。

「どちらの試験も、空調のニオイ対策を検討する社内プロジェクトチームの6人が確認しました。人感による調査でしたが、弊社内で設定したチェック項目では高評価でした」(瀧浪氏)

この結果をもとに、さまざまな側面から考察を重ねた結果、小田急電鉄は「ナノイー」導入を決めた。瀧浪氏は「まず、放出される『ナノイー』が人体に影響を与えないこと。2つ目は他社製品と比較して抑制可能な対象物質が多かったこと。3つ目はメンテ性の良さ。この3つが決め手になりました」と説明する。

1つ目、2つ目は乗客へのベネフィットだが、鉄道事業者の観点では3つ目のメンテ性の良さがもたらすメリットは大きい。

「いま取材を受けているこの車両基地を見ていただければわかるように、車両は周期的に細部まで点検しなければなりません。1両につき8台のデバイスを搭載するため、定期的なユニットの点検や交換、清掃などが発生すると負担がかかってしまいます。それを考えても、メンテ性が良いという点は非常に助かります」(瀧浪氏)

電車の場合、機器交換の時期は10年、20年単位と長いものになる。パナソニック アプライアンス社の仁田直宏氏は「長期間の耐久性、メンテ性の良さは我々のデバイスの強み。発生源となる霧化電極は劣化せず、半永久的に利用できます」と技術面の確かさを強調する。本杉氏も「鉄道のメンテナンス周期を考慮してメインの電源は長期間もつように設計しています」と付け加えた。

パナソニック株式会社
くらしアプライアンス社
ビューティ・パーソナルケア事業部
デバイス商品部
デバイスマーケティング企画課
仁田 直宏 氏