<この記事を要約すると>

  • パナソニックは2021年2月に「NICOBO(ニコボ)」クラウドファンディングを開始
  • 人との関わりを重視する“弱いロボット”ながら、即日で応援購入額を達成するなど大きな話題を呼んだ
  • 豊橋技術科学大学 岡田美智男教授との共同開発のもと生まれたNICOBOに込めた思いとは?
  • 昨今隆盛の「自己完結型」コミュニケーションロボットの逆を行く、頼りなくて気ままなロボットの実像に迫る

見た目はちょっと頼りない。しかもマイペースで、寝言やオナラも発するし、機嫌が悪いときもある。でも、不思議と構ってしまう。そんな風変わりな魅力を持つパナソニックの新しいロボット、「NICOBO(ニコボ)」が注目を集めている。“弱いロボット”を提唱する豊橋技術科学大学 岡田美智男研究室(ICD-LAB)と共同開発にて生まれたNICOBOは、2021年2月にクラウドファンディングを実施。初日に目標金額1千万円を達成するなど、大きな反響を呼んだ。これまでの常識にとらわれない、プロジェクトの裏側に迫る。

他力本願なロボットとはこれいかに?

2021年2月、パナソニックがクラウドファンディングで発表したNICOBOは、日本国内のみならず海外各国でも大きな話題を呼んだ。

しっぽは振るが、甘えてこない。オナラはするが、自ら歩かない。せっせとこちらから話しかけても気が向いたときしか答えない。そもそも、ほかのコミュニケーションロボットのように滑舌の良い日本語をしゃべるわけでもない。こんなナイナイ尽くしのロボットであるにもかかわらず、1日足らずで応援購入額を達成。現在、2022年3月の発送に向けて鋭意開発を進めている。

NICOBOに声を掛けたり、なでたりすると、様々な形で反応を示し、感情をあらわにする

従来の常識を超えたロボットを開発した背景には、真の意味での“社会・人との共生”を実現したいとの思いがある。昨今のロボットは自らテキパキ動き、人をしっかりとサポートすることを前提としている。しかし、過度なコミュニケーションはお互いに疲れてしまう。これは人同士でも、人とロボットでも同じである。

そこでパナソニックでは、“弱いロボット”を提唱する豊橋技術科学大学の岡田美智男氏と共同でNICOBOを完成させた。岡田氏は20年以上にわたり、「社会的ロボティクス、関係論的ロボティクス」の研究を続けてきた第一人者。具体的には人との関わりの中で認知発達プロセスの解明を追究するもので、“弱いロボット”は周囲のアシストとの補完関係でコミュニケーションが成立する。

岡田美智男研究室(ICD-LAB)の内観。これまでに開発された“弱いロボット”が並べられている。入口では3体の「Muu(む〜)」が出迎える

これまでに、子どもたちの協力を得ながらゴミを拾う「ゴミ箱ロボット」、もじもじしながらティッシュを手渡そうとする「アイ・ボーンズ」、聞き手の積極的なリードに従って会話の連鎖を組織する「Muu(む〜)」など、まわりの人との関わりを予定したロボットを開発してきた。岡田氏はその考え方について、次のように語る。

豊橋技術科学大学
情報・知能工学系
教授
岡田 美智男 氏

「世の中のロボットは自己完結を目指しています。面倒なことをアウトソーシングして任せてしまえば確かに楽ですが、すべてやってもらうと人とロボットの間に距離が生まれ、相手に対する要求を引き上げてしまうのです。これは家電製品や自動車でも同様で、“もっと早く、もっと静かに”と機能をどんどん追加していくと、実は人の傲慢さや不寛容さが引き出されることになる。僕らは、むしろ自己完結を目指すのではなく、まわりの手助けに支えられて目的を果たすようなロボットを考えてきたんですが、一方の手伝ってあげる人もまんざら悪い気はしないようなのです。自らの能力が十分に生かされ、生き生きとした幸せな状態をウェルビーイングと呼ぶようですが、利便性に加え、このウェルビーイングをアップさせるという存在意義も、人と共生するロボットには必要なのではないかと考えています」(岡田氏)

過去の学生たちと制作された試作品

便利、よりも“人に寄り添う”ロボット開発へ

NICOBOは、新規事業プロジェクトの一環から生まれた。2017年、当時パナソニック アプライアンス社に所属していた商品企画担当の増田陽一郎氏と、デザイナーの浅野花歩氏ら5人がプロジェクトチームを結成。本業の傍ら、「2025年のライフスタイル」に資するアイデアをいくつも考案した中の1つがNICOBOの大元となった。増田氏は、その過程をこう振り返る。

パナソニック
エンターテインメント&コミュニケーション事業部
増田 陽一郎 氏

「合計で7〜8個ほどのアイデアを出しましたが、どれも上手く行かず。プロジェクトのために実施した一人暮らしのシニア層へのインタビューを、目を皿にして読み返したのです。そこにあった、『気がつくと独り言を話している』『ぽつんと一人でいるのが寂しい』などの回答に触れた浅野が『ロボットであれば、寂しさを解消してくれる存在になるのではないか』とひらめきを得た。それがロボット開発の出発点になります」(増田氏)

一人暮らしのシニアを対象としたのは、日本における将来的な社会課題を見据えたためだ。それゆえ手探りで開発した最初のプロトタイプは、高齢者との会話を想定した自然言語を話す“普通の”コミュニケーションロボットだったという。このコンセプトで動画を制作し、チームはロボットに知見を持つ企業や大学を訪問しながら協力を仰ごうとした。

しかし、どれもパッとしない日々が続く。「さまざまなところで厳しい意見を頂戴して、凹むことも多かった」と増田氏は回顧したが、意外にも身内の意見が転機となった。政府が推進する「クロスアポイントメント制度」(研究者が大学や研究機関に籍を置きながら民間企業に出向する制度)を活用して、パナソニック社員となっていた立命館大学情報理工学部教授の谷口忠大氏にアドバイスを求めたことが、岡田教授との出会いにつながったのだ。

「谷口教授に相談した際、初めて岡田教授の“弱いロボット”について教えていただきました。もともと我々もスタート時点から何でもできる、便利なロボットにフォーカスしていたわけではありません。それよりも“人に寄り添う”ところに注力したいと考えていたので、“弱いロボット”には共感しかありませんでした」(増田氏)

“弱いロボット”の一例「トーキング・ボーンズ」(Talking-Bones)。昔話を語ろうとするも、肝心なところで話を忘れてしまう。こちらで話を補ってあげると、続きを思い出してくれる

紆余曲折を経て2018年8月、岡田氏と初めて対面。以降、NICOBOプロジェクトは一気に加速する。初会談の場で岡田氏がパナソニックに共同開発を提案したためだ。そこには、岡田氏のパナソニックに対する期待があった。

「パナソニックの持ってきたプロトタイプを見たとき、僕たちの経験値とノウハウを共有してお互いに強い部分、弱い部分を補っていけば、面白いコラボレーションができそうだとの直感がありました。まさに“弱いロボット”のコンセプトに通じるアプローチです。それまで20年近くいろんなロボットを作ってきたけれども、こちらには商品化の能力がないため本を書いて残すしかないというジレンマもありました。ちょうど、自分たちでも何らかの形で“弱いロボット”を世の中に出してみたいとの気持ちが強かった。その時期に重なったことも大きいですね」(岡田氏)

こうして始まった共同研究により、チームはそれまでのプロトタイプをすべて破棄してゼロベースからリスタートした。