<この記事を要約すると>

  • 2020年シーズンから台湾プロ野球に参入した楽天モンキーズ
  • 日本と同じボールパーク構想を掲げ、着々とスタジアムソリューションを導入している
  • 第一弾としてスタジアムのVIPルームに透明有機ELディスプレイを設置。従来の野球観戦に新たな価値をもたらした
  • 今後はコンテンツ連動など、さらなるエンターテインメントを提供したいという

2020年シーズンに台湾プロ野球に参入した楽天モンキーズ。日本の楽天イーグルスで培ったノウハウを注入し、“ベースボールエンターテインメント”を軸としたスタジアムソリューションの導入を進めている。第一弾として採用したのが、パナソニックが開発した透明有機ELディスプレイだ。リアルとバーチャルを融合する最新テクノロジーの活用事例を、関係者の言葉から探った。

球場のVIPルームに設置した透明なディスプレイ

日本と同様、野球が人気スポーツとして根付く台湾。現在、台湾プロ野球(中華職業棒球大聯盟:以下、CPBL)には5球団が所属し、年間を通じたリーグ戦によりしのぎを削っている。

2020年シーズン、そのCPBLに楽天グループが参入したことをご存知だろうか。現地球団の「Lamigoモンキーズ」を買収し、新たに「楽天モンキーズ」としてスタートを切った。台湾桃園国際空港で有名な桃園市に本拠地を置き、2022年4月の開幕から3シーズン目を迎える。

新規参入にあたり、楽天グループでは日本で培ったプロスポーツのノウハウを注ぎ込むことにした。楽天モンキーズ CEOの川田喜則氏は、かつて東北楽天ゴールデンイーグルス(以下、楽天イーグルス)で球場長を務めた人物。川田氏は、台湾球界への参入意図を次のように語る。

楽天モンキーズ
CEO
川田 喜則 氏

「もともと楽天グループは、台湾でもeコマースの楽天やクレジットカード、電子書籍などの事業を多数展開してきました。近年ではインターネットバンキング事業も開始しています。一方、楽天イーグルスやサッカーのヴィッセル神戸のように、スポーツを通じてブランド認知を高めてきた背景があります。CPBLへの参入により、台湾やグローバルでの認知向上を図り、楽天のエコシステム(経済圏)を拡大することを1つの狙いとしています」(川田氏)

日本の楽天イーグルスは“The Baseball Entertainment Company”を掲げ、誰もが楽しめるボールパーク構想を推進することで知られる。宮城県仙台市の専用スタジアム「楽天生命パーク宮城」には、訪れた人たちを楽しませる仕掛けが多数ある。2016年には球場のレフト側後方に、観覧車やメリーゴーラウンドなどを設置した「スマイルグリコパーク」がオープン。観覧車の設置は日本の野球場では初となる。また2019年シーズンから順次、キャッシュレスやQRチケットを導入してスタジアムのスマート化に成功するなど、先進的な取り組みを次々と打ち出してきた。

楽天モンキーズの本拠地「桃園国際野球場」の外観、内観。スタジアム運営には日本で蓄積された知見が随所に反映される

「“楽しむ野球”は、我々が日本のプロ野球に参入した当時から実践してきたものです。楽天モンキーズの本拠地である桃園国際野球場でも、ベースボールエンターテインメントの根幹を成すスタジアム運営をめざしています。参入初年度の2020年から段階的に改修工事を行なっているのもそのためです」(川田氏)

その一環として2021年シーズンに採用したのが、パナソニックによる透明有機ELディスプレイだ。楽天モンキーズのスタジアムに設けた2カ所のVIPルームに55インチのディスプレイを設置した。バックライトを必要としない自発光型の透明有機ELパネルを採用し、ディスプレイ部分の厚さは1cm未満と極めて薄い。

VIPルームに設置された透明有機ELディスプレイ

広々としたVIPルームの窓と重なるように設置された透明有機ELディスプレイは、まるで1枚のガラス板のように周囲の空間に馴染み、文字通り後方の視界を遮ることがない。そのため実際の試合を観覧しながら、ディスプレイ上に表示された動画や文字情報を同時に楽しむことができる。閲覧した人達からは「いままでにない新しい体験でワクワクした」との声が届いている。

コンテンツ連動でさらなる発展が見込める

そもそも野球における楽天とパナソニックの関係は、2014年から始まった楽天生命パーク宮城(当時は楽天Koboスタジアム宮城)の改修工事に遡る。先述したボールパーク構想のもと、パナソニックによるスタジアム総合演出マネジメントシステムを導入したことがきっかけだ。これは音声、映像、SNS、フードのモバイルオーダーなどをシームレスに連動させたスタジアムソリューションで、川田氏が「世界最先端のコントロールシステム」と認めるほど高い評価を得ている。

この結びつきがあったおかげで、パナソニックとのリレーションも円滑に進んだ。「現地法人であるパナソニック販売台湾(以下、PSTW)と協業して、エンターテインメントの新しい価値を提供したいとの思いから透明有機ELディスプレイを導入しました。このディスプレイは日本の球場でも例がなく、ここまで技術が進化していることに驚きました。リアルとバーチャルの2つの情報を常に楽しめるのは非常にエポックメイキングだと感じています」と川田氏は言う。

楽天モンキーズ
業務部長兼総経理室長
礒江 厚綺 氏

川田氏の補佐役となる楽天モンキーズ 業務部長兼総経理室長 礒江厚綺氏は「台湾で初めて導入したディスプレイなので、やはり話題性は高いです」と話す。また、Lamigoモンキーズ時代から球団業務に従事していることもあり、「日本のプロ野球の経験を楽天モンキーズに反映することは、差別化を図る意味でも大きなメリット」とする。

パナソニック販売台湾(PSTW)
張 筱年 氏

透明有機ELディスプレイの設置工事を担当したPSTWの張筱年氏は、「桃園国際野球場は、台湾の中でも新しい設備が整っています。透明有機ELディスプレイのような最新テクノロジーを設置する際にも大いに助かりました」と振り返る。さらにVIPルームはパナソニックの最新テクノロジーのショウルームを兼ねており、台湾でのパナソニックブランド訴求効果にも一役買う。

川田氏は「素晴らしいディスプレイだけに、もっとさまざまな情報を発信していきたい」と意欲を見せる。例えば選手のタイムリーな情報や試合速報が表示されれば、ディスプレイ越しの生の試合観戦と並行して、ほとんど視界をずらさずに有益なデータを取得できるからだ。「そう考えると、コンテンツ連動は不可欠。ソフトウエアとディスプレイを上手く組み合わせて、来年以降はよりブラッシュアップしていく予定です」と展望を語った。

現在はVIPルームで限られた人たちしか体験できないが、いずれは球場内グッズショップのショーウインドウに設置してデジタルサイネージとしての活用も想定する。「ディスプレイに商品情報や試合情報を映しながら、外からショップ内の様子が見える体験は画期的。試合に応じたスポンサーの企業CMを流せば、エンターテインメントからビジネスへと変わります。本当に、いろんな発展性を秘めていると思います」(川田氏)。