<この記事を要約すると>

  • 新型コロナウイルス感染症を境に、急速に高まった清潔な空気へのニーズ
  • エレベーター大手の日立ビルシステムは、感染症リスク軽減ソリューションを備えた新モデルを開発
  • 目玉となったのは、乗りかご内の空気清浄を行なうパナソニックの「ナノイー X」搭載
  • 12年の協業で培った両社の信頼関係を、導入・開発の裏側にフォーカスして紹介

コロナ禍以降、より清潔な空間を求めるニーズが高まっている。日常的に利用するエレベーターもその1つだ。12年前から乗りかご内の空気清浄に注力してきた日立ビルシステムは、2021年発売の新モデルから「ナノイー X」を標準搭載した。閉じられた空間だからこそ、“安心・安全”を提供したい。その思いを、パナソニックの技術力が支えている。

エレベーターにこそ欠かせないニューノーマル

2020年のコロナ禍以降、3密を回避するニューノーマルの文化が急速に浸透した。この2年ほどで、リモートワークやリモート授業、公共空間でのソーシャルディスタンス、飲食店での黙食など、以前からは想像もできない生活様式が定着した感がある。

絶え間なく人を運ぶエレベーターにも、新たな潮流が生まれた。閉鎖空間に一定時間乗車するだけに、大手エレベーター各社は早い段階から清潔ニーズに着手している。日立ビルシステムも、そうした企業の1つだ。エレベーターやエスカレーター、各種ビル設備を手がける同社では、「Standard for the New Normal」を掲げたコンセプトを立案。2021年4月に安心・安全・快適を提供する標準型エレベーターの新モデル「アーバンエース HF」の販売を開始した。HFとは「Human Friendly」、すなわち「人に寄り添う」ことを意味する。

「Standard for the New Normal」のコンセプトを体現する日立ビルシステムの標準型エレベーター新モデル「アーバンエース HF」内装

世界で活躍するプロダクトデザイナーの深澤直人氏が監修したデザインは、シンプルながらも機能美を追求したもの。白を基調とした「CLEAN」、木目柄とシルバーが落ち着きを醸し出す「CLASSIC」の2種類の内装をそろえ、非常にクリーンな印象を与える。清新な意匠はもとより、さまざまなテクノロジーを駆使した感染症リスク軽減ソリューションも特筆すべき点である。

左が白基調の「CLEAN」、右が木目柄とシルバーが特徴的な「CLASSIC」

1つ目が、乗りかご内の積載量に応じて密集度を3段階に分類し、段階に応じた注意喚起のアナウンスや運転制御を行なう「密集回避運転」。2つ目が上下ボタンや行先階ボタンにセンサーを内蔵し、手を近づけるだけでエレベーターの呼び出しや行先階登録がタッチレスで可能になる「センサー一体型タッチレスボタン」。3つ目がLINEと連携して個人のスマホからエレベーター呼び出しと行先階登録ができる「エレトモ」だ。

そして最後が、今回の主役となる「かご内クリーン運転」。独自に開発した強制換気ファンと、パナソニックが提供する「ナノイー X」発生装置を組み合わせ、乗りかご内の換気と空気清浄を実現した。待機状態のエレベーターが一定時間を過ぎると自動で扉を開いて強制換気ファンが空気を入れ換え、換気終了後に自動で扉を閉じて「ナノイー X」を発生させ、乗りかご内の空気を清浄する。

日立パワーソリューションズが実施した、エレベーターにおける脱臭効果試験

ライバル関係にあっても良品を認める懐の深さ

日立ビルシステムのエレベーター内の空気清浄に関する意識は高く、2010年に「ナノイー X」の前身である「ナノイー」の搭載を開始した。日立ビルシステム マーケティング本部の山田愛介氏は「お客様の清潔志向の高まりを受け、エレベーター内に空気清浄機能を装備することを検討していました。そこで折よく、ビル設備関連で関わりのあったパナソニックから『ナノイー』を提案いただきました」と語る。

日立ビルシステム
マーケティング本部
製品・サービス企画部
部長代理
山田 愛介 氏

今から12年前の「ナノイー」導入時には、脱臭機能の高さが決め手となった。日立ビルシステム 開発本部 装置開発部の島田勝博氏は、そのときの状況をこう振り返る。

「マンションのエレベーター内でゴミやペットなどのニオイを解消したいとのニーズが多く、強制換気ファンでニオイを押し流す方式で対応していました。しかし『ナノイー』はOHラジカル(高反応成分)を発生させてニオイの原因を分解する方式のため、脱臭効果が極めて高いことがわかりました」(島田氏)

日立ビルシステム
開発本部
装置開発部
機構装置開発グループ
主任技師
島田 勝博 氏

パナソニックが「ナノイー」搭載の空気清浄機「エアーリフレ」を世界で初めて発売したのが2003年。当初は自社製品のみの搭載だったが、2008年頃から「ナノイー」発生装置を他社製品に組み込むB to B向けの販売がスタートした。2010年はちょうど「ナノイー」が外へと広がっていく時期であり、日立ビルシステムはエレベーター業界で最初の導入事例となる。

パナソニック くらしアプライアンス社 ビューティ・パーソナルケア事業部 デバイス商品部 重成進氏は「パナソニックグループ外のお客様に対して拡販活動を進める中で、エレベーター業界に着目してご提案しました。おかげさまで、エレベーター業界の第1号案件としてお付き合いが続いています」と話す。

パナソニック
くらし事業本部
くらしアプライアンス社
ビューティ・パーソナルケア事業部
デバイス商品部 デバイスマーケティング企画課
重成 進 氏

とは言え、家電領域ではライバル関係にあるだけに、導入調整は難航した。その壁を乗り越えたのが日立ビルシステムの協力体制と、パナソニックの熱心な説明会だった。山田氏は当時の様子について次のように語る。

「日立ビルシステムの社内でも『ナノイー』の認知度は低く、まずは周知させる機会が必要と考えました。そこでパナソニックの協力のもと、担当者に直接足を運んでいただいて最初に説明会を開催しました。説明会ではタバコのニオイを染み込ませた綿に『ナノイー』を放出して脱臭効果を確認するデモを行ない、その結果に参加者たちは驚いていました」(山田氏)

パナソニックインダストリアル
マーケティング&セールス
代理店営業本部
産業営業部
関東第一営業所
所長
稲妻 浩 氏

「まったく新しい製品で比較対象がなかったため、『ナノイー』の効果を認められていた日立ビルシステムの設計部長が、説明会の中で技術部長や企画部門の担当者に対して説得いただいたと聞いています」と話すのは、パナソニックインダストリアル マーケティング&セールス 関東第一営業所 所長 稲妻 浩氏。“他社であっても良い技術を認める”という懐の深さも、円滑な導入を後押しする要因となった。

その後、全国の日立ビルシステムの営業所で両社が一緒になって「ナノイー」デモの行脚を実施。営業担当者や販売代理店、ビルメンテナンス事業者などに対して「ナノイー」搭載の利点をアピールした。「そこから徐々に認知が広がり、結果的に説明会を開催した地域から出荷台数が増える相乗効果も生まれました」と重成氏。ちなみに外販の最初期に採用したこの脱臭デモは今でも他業界への参入時に披露している。

開発面でも、密なコミュニケーションが交わされた。パナソニック くらしアプライアンス社 ビューティ・パーソナルケア事業部でデバイス開発を担当する平井康一氏は「エレベーターは家電とはまったく異なる分野。独自の評価基準と照らし合わせながら、エレベーターの乗りかご内における『ナノイー』の効果検証を、日立ビルシステムの技術者とともに進めました」と語る。

パナソニック
くらし事業本部
くらしアプライアンス社
ビューティ・パーソナルケア事業部
デバイス商品部 機能デバイス設計1課
平井 康一 氏

島田氏は「エレベーターの実機に『ナノイー』デバイスを搭載して脱臭試験を行なったり、評価を可視化できる試験方法を導入したりなど、客観的に効果が分かる検証を繰り返しました」と話す。こうした実環境でのテストは、後の電車やホテル、コインランドリーなどでも引き継がれている。「外販としては最初のチャレンジでしたが、その際に蓄積したノウハウは現在でも役立っています」(平井氏)。