2014年に創業したWOTAは、排水の98%を浄化する独自の水循環技術を使い、水道のない場所での水利用を実現する自律分散型水循環システム「WOTA BOX」や、ポータブル手洗い機「WOSH」を開発してきた。WOTA BOXは災害対策として地方自治体への導入が進み始めているが、それ以外にも新たな社会インフラとして様々な使い方が考えられるという。
この1月から3月の期間、災害対策への意識を高める人も多いことだろう。1995年1月の阪神淡路大震災、そして2011年3月の東日本大震災。日本は台風や地震などの災害を避けにくい土地だが、これらの災害の記憶は、日本に住む人々に改めて危機意識を喚起する。
災害支援で重要となるポイントの1つが、生活用水の確保。この水に着目した気鋭のスタートアップ企業がWOTA(ウォータ)だ。排水の不純物を取り除いて再利用できる自律分散型水循環システム「WOTA BOX」を開発。2019年、大型台風が直撃した千葉県の被災地において、シャワー装置に使われたという。一般的なシャワーと比べて水の量は50分の1で済むとする。なおWOTA BOXは2020年度のグッドデザイン賞を受賞した。
独自の水処理自律制御技術を活用した新たな製品も用意した。2020年7月に発表したポータブル手洗い機「WOSH」だ。その場に水道がなくても使用可能で、排水量は約2%で済むとする。新型コロナ感染症の拡大が懸念される中、感染防止に効果的な手洗いのニーズに応えられる製品として、各所からの反響が強いという。
人の生活に欠かせない水。WOTAは水を軸に社会課題にどう応えようとしているのか。独自の水循環技術や製品開発の背景、持ちうる技術と社会課題との接点、そして今後の展開について、同社の前田瑶介代表取締役CEO(最高経営責任者)に話を聞いた。
水処理の自律制御技術を適用
──WOTAの製品は、水道のない場所でも、シャワーや手洗いのためにきれいな水が使えるというのが最大のメリットです。製品に適用している水循環のテクノロジーについて、教えてください。
前田氏:ベースとなっているのは、水処理の自律制御技術です。上下水道などで行われている水処理は、経験を積んだ技術者による属人的なノウハウ、オペレーションによって支えられてきました。微生物の活性度などを目視も含めて判断して、「ここでかき混ぜよう」「温度を上げよう」といったことを決めているんです。我々の技術は、こうした経験則的な部分の自動化によって成り立っています。

従来は上下水道のような大型の施設で数十万人分の水処理を担ってきたわけですが、我々の技術によって、個人単位で利用できる“小さな水処理”が可能になりました。
当社が行っている「水再生」は、水処理の中でも難易度が高い分野なんです。例えて言うならば、下水処理場の出口と上水処理場の入り口をつなぐようなものなので、どちらの技術も必要になりますし、高い精度で行うことが欠かせません。
センサーで得られたデータに基づいて水処理の運用管理を数理モデル化し、その精度を時間をかけてコツコツ高めてきたのが我々の技術の特徴です。AI(人工知能)技術の一つである機械学習により、数理モデルの精度や効果は使えば使うほど高まっていきます。

──“小さな水処理”を行う上で、大型の施設とは違う難しさがあると思うのですが、何がポイントになるのでしょうか。
例えば小さくなると、入ってくる水質の変動が相対的に大きくなるので、動的に対応することが必要です。シャワーなのか洗濯なのかで排水の質は大きく異なりますし、シャワーであれば浴び方や体質の違い、洗剤の違いなどによって、排水の質は異なります。そういった変化にダイナミックに対応できないと、処理精度が落ちてしまうんです。
──そのような技術を開発できた理由はどこにあるのでしょうか。
先にも触れました通り、従来の水処理の細かな運用管理はノウハウを身に付けた技術者が行うのが基本でした。また水処理施設以外でその技術を使おうとするケースが殆どありませんでした。ですので我々に特別な技術があったというより、「水処理を小型化したい」という課題に最初に挑んだのが我々だった、という表現が近いかと思います。