コロナ禍の中で、組織内のコミュニケーション不全が顕在化している。感染予防のためのリモートワークが進む中、意志疎通や部下指導の難しさを挙げる声は少なくない。その広がり方は、社会課題とも呼ぶべき様相だ。コミュニケーション不全を乗り越え、むしろ変革のチャンスに変えるためにはどうすればいいか。社外人材によるオンライン1on1サービスを手がけているエールに聞いた。

コロナ禍で組織内のコミュニケーション不全が「社会課題化」している。2021年1月に発令された、2度目の緊急事態宣言。政府は各企業にリモートワークを推奨し、社員の通勤を7割減らすよう協力を呼びかけている。感染予防のリモートワークは必要な取り組みと言えるものの、企業活動の推進という側面では、賛否両論がある。特に挙がっている声は、意思疎通や部下指導の難しさである。

パーソル総合研究所が新卒入社の若手社員らを対象に実施した調査によると、リモートワークの不安として同期や先輩、上司との「コミュニケーションのとりづらさ」がいずれも5割程度で上位に並んだ。この調査を報じた日経新聞電子版2021年1月4日記事では、パーソル総研は「若手社員の定着のためには、経営層や先輩社員などとの交流の機会を増やす必要がある」と指摘しているという。

しかし、部下指導を担う上司は負担が増す傾向にある。日経新聞1月12日の記事によれば、2020年秋に実施した郵送世論調査で「在宅勤務を定着させるべきだ」とする人が56%に及んだ。一方、労働時間の変化を見ると、年収1000万円以上の人は増加傾向にある。記事では「この年収に当たるのは大企業の課長職以上であり、企業の管理職層で労働負担が高まっていることが読み取れる」とする。

かようにリモートワークとコミュニケーションにまつわる懸念が増す中、「良質な『聴く』体験の提供」を掲げ、産業界に課題解決を提案しているベンチャー企業がある。コミュニケーション支援サービスを手がけるエールだ。

エールが提供しているのは、カウンセラーや副業人材など約1000人からなる「サポーター」によるオンライン1on1のサービス「YeLL(エール)」である。

1on1(ワン・オン・ワン)は一般的には、上司と部下との間で対面で行われる定期的なミーティングを指す。上司が聞き役となり、部下の状態を確認しつつ、仕事の悩みなどを引き出す。これにより部下育成を含めたマネジメントの質向上を狙う。大手IT企業が導入したことが話題となり、導入に熱心な企業も多い。

一方、YeLLでは、上司の代わりに約1000人のサポーターが聞き役となる。AI(人工知能)によりマッチングされたサポーターが、電話による週1回・30分のセッション(対話の時間)を提供する。YeLL側ではセッションの内容やセッション後のアンケート情報を集約し、匿名化・要約したリポートを作成。上司・部下間を含めた組織内における対話の材料として活用してもらう。2020年1月から12月末における利用社数は43社(トライアル実施企業を含む)。同時期におけるセッション実施回数は8299回だった。

外部のサポーターがセッションを提供することのメリットは複数あるが、ここでは3つ挙げる。1つは、忙しい上司の負担を軽減できること。もう1つは、不足しがちな傾聴スキルを補完できること。最後の3つ目は、利害関係のない社外人材が対話相手となることで部下の本音を把握しやすくなるという点だ。

上司が聞き役となる1on1は重要な取り組みであるが、部下は「自分が本当に感じていることや本音を言ったら、上司に悪く思われて評価が低くなる」といった配慮をする可能性が残る。また上司側にも課題がある。「理想を語るのはいいが、やることをやってから言ってほしい」といった部下に対する立場上の感情が、傾聴の妨げとなるおそれがあるためだ。これらは組織全体から見ると、不満を抱えた社員の活力低下、さらには退職などのリスクにもつながる。

一方、評価する側・される側という関係を意識させない社外サポーターとの対話は、社員と組織双方に別の角度からのメリットをもたらす。日本たばこ産業(JT)はYeLLを導入した。導入対象となった現場リーダー層はサポーターに話を「聴かれる」ことで、「自分は職場に何を求めているのか、仕事を通じて何を実現したいのか」といった、潜在的に抱いていた希望やビジョンを自覚しやすくなった。これにより、自分が仕事や職場に求めている本質的な要素と、組織の方向性との接点を認識できるようになり、むしろ「理念共感度」「モチベーション指数」などの指標が向上したという。

エールの代表取締役である櫻井将氏は、「サービスを通して複数の組織を横断的に観察していると、日本企業が共通に抱えている構造的な問題が見えてくる」と語る。また、日本の産業界に「『聴く』という行為に対する誤解がある。多くの人が良質な『聴かれる体験』をしていない。『聴く』『聴かれる』『聴き合う』というコミュニケーションが組み込まれれば、個人と組織のパフォーマンスはもっと高まるはずだ」と指摘する。

新型コロナ感染症の拡大を防ぐべく、今後もしばらくリモートワークが推奨されるだろう。その中で、コミュニケーション不全をどう乗り越えるべきか。「聴く」の実践で、それはどう改善されるのか。コロナ禍をどう変革のチャンスに変えるべきか。エール櫻井氏の話を聞きながら、指針を探る。