新型コロナウイルスの影響で商業施設をめぐる大きな変化が起きている。リモートワークの定着や外出・外食を控える傾向とともに売り上げが減少する事業者が現れ、ショッピングを楽しめずストレスを抱える消費者も少なくない。そのような中、消費者や事業者それぞれが抱くニーズや課題を同時に解決しうる、新たな街づくりの試みが注目を集めている。昨年(2020年)、三井不動産がヒト・モノ・サービスの移動に着目して始めたプロジェクトがそれだ。車両と店舗が一体となった「移動商業店舗」を利用して、街の人々に新しい買い物や出会いの機会をつくる。首都圏と近郊の現場に足を運ぶと、街で暮らす人々に新たな体験価値を提供する「未来」が見えてきた。プロジェクト担当者に話を聞いた。

昨年(2020年)12月、東京都中央区の日本橋かいわいを訪れた筆者は、土曜日のオフィス街に突然、オープンエアの商業エリアが出現しているのに驚いた。神社に隣接する広場を囲むように複数の小型トラックが停まっている。三井不動産の「移動商業店舗」だった。

東京都中央区日本橋の「福徳の森」にて展開された「移動商業店舗」のトライアルの様子(写真提供:三井不動産)
東京都中央区日本橋の「福徳の森」にて展開された「移動商業店舗」のトライアルの様子(写真提供:三井不動産)

一台一台を見ると、よくあるイベント用の屋台といった雰囲気ではなく、飲食、物販、サービスの立派な「お店」だった。

店は感染対策に気を配り、お客さんはマスク着用やアルコール消毒などのマナーを守り、密を避け、思い思いに買い物やサービスを楽しんでいる。マスク越しのリラックスした笑顔を見かけたが、屋外で風通しの良いこの場所が顧客に安全と安心を与えていると感じた。テナントのひとつに聞いてみると、集まる人々は隣接する地域の住人やワーカーが多いとのことだった。

缶詰が好きな筆者は、まず水色の幌に「カンダフル号」と書かれた缶詰の店に寄ってみた。「缶」と「ワンダフル」を掛け合わせた店名も楽しかったが、品ぞろえが秀逸。近所のスーパーではあまり見かけない地方のグルメ缶詰が約100種類。健康ブームで人気が続くサバ缶だけでも30種類。ご飯のお供や酒のアテもレアものがそろい、ギフトにも使えそう。石巻や京丹後、静岡、福井の小浜、島根の浜田などの地名とご当地感豊かなデザインにコロナで忘れていた旅気分を思い出す。

「移動商業店舗」の一例。こちらは缶詰のお店「カンダフル号」。写真はマンションでの出店の様子。これは記事本文でも後述するが、三井不動産による移動商業店舗のトライアルでは、2020年9月24日から12月20日まで、首都圏・近郊で同社グループが管理するマンション4カ所(豊洲・晴海・板橋エリア、千葉市)、日本橋・福徳の森にて、飲食・物販・サービス10業種11店舗の移動商業店舗が出店した(写真提供:三井不動産)
「移動商業店舗」の一例。こちらは缶詰のお店「カンダフル号」。写真はマンションでの出店の様子。これは記事本文でも後述するが、三井不動産による移動商業店舗のトライアルでは、2020年9月24日から12月20日まで、首都圏・近郊で同社グループが管理するマンション4カ所(豊洲・晴海・板橋エリア、千葉市)、日本橋・福徳の森にて、飲食・物販・サービス10業種11店舗の移動商業店舗が出店した(写真提供:三井不動産)

銚子に揚がった脂のりが良いサバを使った「さば大根おろし煮」缶を買ってみた。炊きたてご飯にパカッと開けてのっけるだけで、美味しいおろしサバ丼になる。こんな専門店、家の近くに欲しいと思った。

「『移動商業店舗』は、生活圏の近くにお店がやって来る。密な環境に行く必要がなく、お客さまにとっては安心安全かと思います」

そう教えてくれたのは、本事業の発案者である三井不動産ビジネスイノベーション推進部主事の後藤遼一さん。ここに隣接する神社は、今から1100年以上前、平安時代からの由来が伝えられ、徳川家康公も縁が深い福徳神社。都心には貴重な樹々が守られる一帯は「福徳の森」と呼ばれ、広場は多目的なイベントスペースとして使われている。

「2020年9月から首都圏・近郊で当社グループが管理するマンション4カ所に『移動商業店舗』がやってくる機会をつくりました。住人の皆さまに新しい価値体験を感じていただき、良い反応をいただいています。同時に参加テナントの皆さまもビジネスの手応えを感じておられて、ご好評の声をいただきました」

街と商業の在り方に新しい風を感じさせるこの取り組み、さらに詳しいところを後藤さんに聞いてみた。