衣服を取り巻く世界的な流れの一つが、SDGs(持続可能な開発目標)を受けた環境対応である。その流れに伴い、熱帯から温帯地域で育つ植物「カポック」を素材に使ったブランド「KAPOK KNOT」が話題を呼びつつある。カポックを使ったダウンやコートの特徴は、その重量と暖かさにある。カポックの繊維はコットンの約8分の1の軽さ。しかも保温性が高く、既存のダウンと匹敵する暖かさを実現できるという。さらには、木の実から生成するため伐採の必要がなく、環境負荷が低いことも特徴だ。同ブランドの創業者である深井喜翔氏に話を聞きながら、快適性とサステナビリティの両立を指向するアパレルの近未来の姿を見る。

植物「カポック」の繊維を使ったコートやジャケットを展開するブランド、「KAPOK KNOT」をご存じだろうか。同ブランドのファーストアイテムであるコートが初めて販売されたのは、2019年10月26日のこと。クラウドファンディングサービス「Makuake(マクアケ)」で発売したところ、受付スタートからわずか9分で目標の50万円をクリア。最終的には、目標の30倍を超える1700万円の売上を達成することになった。

「この反響の大きさは、多くの人々がカポックの可能性に共感してくれた結果であり、自分たちの進むべき方向もはっきりと見えてきました」

このように語るのは、KAPOK KNOTの運営企業、KAPOK JAPANの創業者であり社長を務める深井喜翔さん。深井さんは家業である老舗アパレル企業・双葉商事の4代目として、繊維業界に深く関わってきた。

KAPOK KNOTの商品例。写真はメンズ用のキルティングジャケット。中綿にカポックの繊維を使用している(写真提供:KAPOK JAPAN)
KAPOK KNOTの商品例。写真はメンズ用のキルティングジャケット。中綿にカポックの繊維を使用している(写真提供:KAPOK JAPAN)

扱いにくさに大手繊維メーカーも撤退

植物が好きな人なら、カポックという木の名前を一度は耳にしたことがあるかもしれない。カポックは育てやすいことから日本でも人気のある観葉植物の一種である。この木の仲間は150種類以上もあり、なかには高さ数十メートルもの巨木に成長するものもある。特定の種類のカポックは、インドネシアなど東南アジアでは、古くから繊維を取るために栽培されてきた。

カポックは自生力の強い植物で、種から発芽して4~5年で実を付けるようになる。房状の花は黄色味を帯びた白色で、そこから10~30㎝の果実ができるのだ。やがて果実は茶色く熟して割れ、種子と繊維が風に乗って飛び出していく。つまり、カポックの繊維はタンポポの綿毛と同じで、種子を遠くまで飛ばし、子孫を広範囲に広げるための道具なのである。

カポックの鞘と繊維。バナナ状の鞘の中に、綿状の繊維が詰まっている(写真撮影:中島有里子)
カポックの鞘と繊維。バナナ状の鞘の中に、綿状の繊維が詰まっている(写真撮影:中島有里子)

繊維として利用する場合、カポックの実が熟して割れる直前に収穫する。実から種子と繊維を取り出すのは人手だ。その後、加工場でブロアーの風で吹き飛ばし、選別されたものが「パンヤ綿」とも呼ばれるカポック繊維である。

カポックの繊維は他の植物繊維などに比べると格段に軽く、保温性を持ち、撥水性・親油性にも優れている。ただし、一本一本の繊維が短く直線的なため、糸に紡いだり、織物に仕立てるたりすることはできない。そのため、これまではマットレスや枕、ぬいぐるみなどの詰め物のほか、救命胴衣の浮力材やオイルキャッチャーといった特殊な用途に使われてきた。

「過去に日本の大手繊維メーカーが何度か事業化を試みたことがあります。しかし、糸を作ろうとすると結局うまくいかず、撤退するしかなかったのです」と深井さんは説明する。

深井喜翔(ふかい・きしょう)氏
深井喜翔(ふかい・きしょう)氏
KAPOK JAPAN社長、双葉商事株式会社社長。1991年生まれ、大阪府吹田市出身。 1日に10回以上「カポック」と発する自称カポック伝道師。 2014年慶應義塾大学卒業後、ベンチャー不動産、大手繊維メーカーを経て、 家業である創業75年のアパレルメーカー双葉商事株式会社に入社。 現在の大量生産、大量廃棄を前提としたアパレル業界に疑問を持っていたところ、 2018年末、カポックと出会い運命を確信。 KAPOK KNOTのブランド構想を始め、クラウドファンディングで新規事業を開始。 2020年には、KAPOK KNOTの運営を軸としたKAPOK JAPAN株式会社を設立し、"アトツギ"とスタートアップ両社の経営に参画中。受賞歴は経産省・JETRO主催の「始動 next innovator 2019」シリコンバレー選抜など多数(写真提供:KAPOK JAPAN)