このデジタル時代において、あまねく産業振興、さらには経済安全保障のカギを握る戦略物資。それが半導体だ。この30年以上、日本の半導体産業は競争力を落とし続けてきた。しかしその復活に向けて、反転攻勢の狼煙が上がっている。半導体不足で様々なビジネスがストップしたことをきっかけに、国内半導体の復活を期待する声が湧き上がり、この1年、政・官・民・学すべてが一斉に動き出している。まず第一弾の成果として熊本・菊陽町への台湾TSMCの工場誘致が実現した。加えて、半導体復活を後押しする様々な取り組みが続々と本格化している。今回から2回にわたり、東京大学大学院工学系研究科 黒田忠広教授に日本の半導体復活の最新戦略を聞いた。黒田教授は東京大学「システムデザイン研究センター(d.lab)」センター長と「先端システム技術研究組合(RaaS)」という産学連携の半導体技術開発拠点理事長を務める、いわば日本の半導体技術再生のキーパーソンだ。(聞き手:高山 和良、山口 健(日経BP総研主席研究員))

──いまや半導体は、このデジタル時代において最も重要な戦略物資であると言えます。2021年、そして今年(2022年)と、半導体を取り巻く状況が大きく変わっています。昨年決まった、世界最大の半導体ファウンドリー(受託生産企業)である台湾TSMCの熊本・菊陽町への工場誘致ですけれども、最近になって微細化のレベルが以前言われていたよりも一段進んだ12/16nm(ナノメートル)のものまで作るようになるという報道がありました。それによれば投資規模も1兆円近くになるということで、半導体関係者のみならず多くの人が大きな期待を持って見ています。この工場が日本の国内にできることの意味について、黒田先生のお考えをお聞かせください。

黒田教授(以下、敬称略):日本に欠けていたミッシングピースがはまったということです。これまで国内で生産できる半導体チップは微細化のレベルで言うと40nm(ナノメートル)ぐらいのものまでしかありませんでした。今回の工場誘致が決まったことで、まず今の市場のボリュームゾーンである20nm台の製品ができるようになります。さらに微細化が進んで10nm台のものにも発展するというニュースはビッグニュースと言えます。

もちろん公的資金を投入するわけですから批判する人は必ず出てきます。そういった批判に対しては丁寧に説明しなくてはいけませんが、もし今回の誘致の議論がまったく動いていなかったらどうなったのかを想像することが重要です。その状態と現状を比べると極めて大きな差があります。

──この工場では微細化レベルが22/28nmから一段、先に世代が進んだ12/16nmが加わると報道されています。この意味についてはいかがでしょうか。

黒田:半導体の微細化は時代の流れと共に進みます。当然、いつまでも20nm台がボリュームゾーンのままではありません。必ず先へ進化します。ですから、作る側は需要に合わせて供給体制を整えていく必要があります。この工場の役割は何年間かで終わるものではありません。微細化を進めることは今回の投資を先につなげるためには当然の動きで、非常に素晴らしいことだと思います。

また、今回の工場周辺にはいわゆる随伴投資で、関連企業がいろいろと集まって来るはずです。工場周辺に、ある種のエコシステムができていく。すると、それが次の世代交代への大きな後押しになります。

──この工場の株主にソニーとデンソーが名を連ねています。基本的に供給先でもあるという位置づけかと思います。この工場で作られる製品のユーザーについてはどのように思われますか?

黒田:国内の競争力強化に資することが非常に重要です。この工場で作られる製品が、極端に言えば、日本の産業を追い込むようなライバルのところにばかりに流れていくのではいけません。2社の後ろには日本の車産業、日本のデジタル産業がつながっています。それとこれは私の単なる希望ですが、2社に留まらずこれからこの工場の製品を使う人が増えてくるでしょうし、そうするとさらに投資が入るかもしれません。

東京大学黒田忠広教授。東京大学大学院工学系研究科附属 システムデザイン研究センター(d.lab)のセンター長と、先端システム技術研究組合(以下RaaS)の理事長を兼務する(写真:高山 和良)
東京大学黒田忠広教授。東京大学大学院工学系研究科附属 システムデザイン研究センター(d.lab)のセンター長と、先端システム技術研究組合(以下RaaS)の理事長を兼務する(写真:高山 和良)